『アトムの童(こ)』100万本ヒットも夢じゃない!?インディーゲームのリアルな世界とは?

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TBSで日曜よる9時から放送中の山﨑賢人が主演する『アトムの童(こ)』。ゲーム業界を舞台に、若き天才ゲーム開発者・安積那由他(山﨑)が大資本の企業に立ち向かう姿と、周囲の人たちとのかかわりによって成長していく姿を描く完全オリジナルストーリーだ。

アトム玩具でゲームを制作する那由他と隼人(松下洸平)。もともと“ジョン・ドゥ”としてインディーゲームを開発し、世にその存在を知らしめた。そもそもインディーゲームとはどのようなゲームなのか? 今回は、本作にゲーム監修として協力している一條貴彰氏にインタビュー。自らインディーゲームを制作し、「インディーゲーム・サバイバルガイド」の著者でもある一條氏に、インディーゲームの世界について聞いた。

やる気と根性さえあれば、だれでも作れる

——一條さんは設定監修協力という名目で本作に携わっていますが、具体的にはどのような部分で関わっているのかを教えてください。

本作ではインディーゲームに関する作中描写のアドバイスをしています。例えば、第1話で海(岸井ゆきの)さんがゲームのバグを発見しようと頑張るシーンに登場するバグリストを作りました。ゲームにどのような不具合報告が寄せられるのかを想定した文書のリストを作り、制作の方たちにお渡ししました。また那由他さんと隼人さんが以前ゲームをチームで作っていた作業部屋の壁にあったホワイトボードの中身も作っています。そこに書かれている工程表は、ゲームを作る上でどのような作業をしているのかの内容を想定して文章をつくり、提供しました。放送では那由他さんがいきなり消してしまいましたが(笑)、実はリアルな内容になっています。今後も背景の工程表や付箋に注目してみてください。

——そもそもインディーゲームとは、どのようなゲームのことなのでしょうか?

インディーゲームはゲーム制作のスタイルを示す言葉です。現れ始めたのは2010年頃だったと思います。まだまだ新しい文化で、人によってとらえ方は違いますが、誰かに作れと言われて仕事で作るのではなく、自ら「こんなゲームを作りたい」という人たちが作ったゲームのことを指した言葉であると私は紹介しています。インディーゲームは、大手ゲーム会社が作るゲームとは違い、個人または少人数で作っています。情熱と努力さえあれば、1人でも作ることができますし、だれにも指図されずに自由に作ることができるのが、インディーゲームの醍醐味ともいえます。

『アトムの童(こ)』インディーゲームの世界とは?『アトムの童(こ)』インディーゲームの世界とは?

——大手企業の作るゲームとインディーゲームの一番の違いとは?

やはり予算と制作人数です。大手の開発会社の中には何十億円もかけ、数百人態勢で作る大作ゲームもあります。例えばですが、3Dの映像で街並みを作ろうとした場合、大人数で手掛けるので広い街を作れますし、多くの住民がいて、それぞれ個性を持った描写もできます。音楽も有名なアーティストに依頼したり、声優を使ってボイスにセリフを入れたりすることもできるでしょう。インディーゲームの場合は、基本的には予算がないのでそうした規模の制作は難しいです。

そのかわりインディーゲーム開発者は、その予算の差を埋める工夫をしています。例えば、背景の映像を個別に制作するのではなく、市販されているデータを購入して活用したり、登場人物が少なくて済む構成になるよう物語を工夫したり。限られた予算の中でも大手に引けを取らないクオリティーを目指せます。ただ人手が足りず、どうしても制作期間が長くなる傾向にあるのがインディーゲームの実情です。

——那由他と隼人は“ジョン・ドゥ”として一躍世界に名を広めました。実際にそういうクリエイターの方はいらっしゃいますか?

劇中で登場した「Downwell」は、”もっぴん“さんという日本在住の開発者が個人で作られたゲームです。さまざまなゲームの展示会に「Downwell」を出展し、一躍有名開発者となりました。もっぴんさんはほぼ独学でゲームの作り方を学び、サクセスストーリーを体現された方です。別の例では、ヒットゲーム「UNDERTALE」を開発されたトビー・フォックスさんは、お面で常に顔を隠しており、ジョン・ドゥのように素性を出さないというこだわりを持っています。なので、ジョン・ドゥの覆面天才ゲームクリエイターというドラマの設定も、リアルに感じられます。

——アトム玩具ではゲームの背景にジオラマを使うという描写がありました。実際にそういうゲームはあるのでしょうか?

「Lumino City」や「TRÜBERBROOK 」といった、ジオラマを背景として使うインディーゲームは以前からあります。CGよりもゲームの画に温かみを出すためなど、表現方法のひとつとして、このような手法が使われています。

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——現在、インディーゲームは年間でどのぐらいの数が世に出ているのでしょうか?

世界的な規模でいうと2021年のゲームの発売数は約1万1000本でした。その中でインディーゲームがどのぐらいの数を占めるかは正直はっきりとしていませんが、少なくとも半分以上は小規模体制で作っているインディーゲーム開発者の作品だと思います。

——インディーゲームでありながら、大ヒットを飛ばした作品もあるのですか?

国内の有名な例ではアクションゲーム「天穂のサクナヒメ」で、コアメンバー2名のチームが開発し、販売本数100万本を突破しました。ほかにもアクションパズルゲーム「PICO PARK」は個人で開発されたゲームですが、こちらも100万本を突破しています。ただし、これは非常にレアなケース。そして、インディーゲーム開発者たちが全員、大ヒットを目指してゲームを作っているかというと、そうでもありません。自分の手で作品を作りたい、遊ぶ人を喜ばせたい、というモチベーションで作っている方たちのほうが多いです。

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——ちなみにインディーゲームは誰でも作れるものでしょうか?

やる気と根性があれば誰でも作れます。私自身も2014年ぐらいから自分の作品の開発を始めたのですが、当時はまだサラリーマンで営業として働いていました。きっかけは、ゲームを作るためのソフトウェアがいろいろと出てきたこと。2年ぐらいゲームを作りながらプログラミングの勉強をして、そこからゲームの開発と販売を始めて、今は4作目となります。パソコン1台あれば、おおむねゲームの開発はできます。実際、学生時代から独学でプログラミングの勉強をしてゲーム作家として活動をされる方は多いです。ただ、作品を作るだけでは食べていくことはできません。作品を作るだけでなく、販売に関する活動もしなければいけないので、個人でゲーム作家としてやっていくのは、かなり大変です。

——最後にインディーゲームの探し方など、楽しむ方法について教えてください。

一番簡単なのはゲームストアで「インディーゲーム」と検索すれば見つかります。スマートフォンや家庭用ゲーム機のストアのサイトを見ると、インディーゲームをフィーチャーしたページがあるので、購入してダウンロードすれば遊ぶことができます。また、ダウンロード販売だけでなく、大手のゲーム開発会社と同じようにパッケージソフトとして店頭販売されているゲームもあります。値段も大作ゲームよりも手ごろな価格がほとんど。もしかしたら、好みの世界観でやってみようと何げなく手に取ったゲームが、実はインディーゲームだったということもあるかもしれません。大手のゲーム開発会社が作るゲームもどんどん進化していますが、インディーゲームは新しい表現にチャレンジしている作品が多いです。ランキングにあるようなゲームばかりでなく、自分の趣味嗜好にマッチしたインディーゲームを探していただけると、よりゲームの世界が広がると思います。

【プロフィール】
一條貴彰(いちじょう・たかあき)。株式会社ヘッドハイ代表取締役。個人ゲーム作家としても活動する一方で、さまざまな企業と共に国内インディーゲームを支える活動に従事。代表作は『Back in 1995』(Steam -/Nintendo Switch / PS4 / Xbox One)。

■番組概要
[タイトル]
日曜劇場『アトムの童(こ)』
[放送日時]
毎週日曜よる9時~9時54分

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