オーディション番組というのはいつの時代も面白い。最近ではNiziUやJO1などオーディションプロジェクトから生まれたグループが日本のエンタメシーンを席巻、ヒットチャーを賑わせているし。僕が10代の頃は『ASAYAN』(テレビ東京系)全盛期。モーニング娘。やCHEMISTRYが世に出てくるのをリアルタイムで観てきた。
やっぱりこう原石が発掘される瞬間というのは、めちゃくちゃ熱いものがある。もう目線は勝手に保護者。夢掴んでスターへの道を歩む人には「大きくなってこいよ・・・!」と紙テープという紙テープを投げて船出を見送る気分になるし、惜しくもチャンスを掴めず涙を流す人には「負けたことがあるというのがいつか大きな財産になる」と山王の監督みたいなことを言いたくなる。
ただ、近年盛り上がっているオーディション番組というのは歌やダンスがメイン。お芝居好きな自分としてはもっとこう俳優・女優が生まれる瞬間が見られる番組がほしいのに~~とのたうちまわっていたら、あった。やってたわ、そういうの。
それが、この春から始まったTBSスター育成プロジェクト『私が女優になる日_』(TBS系/毎週土曜深夜0:58~放送)。簡単に説明すると、応募者約 9000 人から選ばれた10人の女優の卵がTBS ドラマの主要キャストの出演権をかけて、毎回、いろんな課題にチャレンジするというのが、この番組の趣旨。これが、なんかリアルでいいのです。
10人のメンバーがペアを組んで短い2人芝居に挑戦したり。その商品が買いたくなるようなCM演技にトライしたり、甘酸っぱいラブコメを演じてみたり。それを根本宗子や大宮エリーなど一線級のクリエイターや、土井裕泰、石井康晴をはじめとした数々のTBSドラマを手がけてきたスタッフ陣が審査員となってジャッジするのだけど、そこにオーディション番組らしい胸アツポイントがあるわけです。
【胸アツ1】10人の女の子たちの表情がリアル
お芝居が始まる直前、決められた立ち位置に立って「よーい、スタート」の声がかかるのを待っている。その瞬間の女の子たちの表情がやたらとリアル。緊張を鎮めようと息を吐いたり、明らかに顔がこわばっていたり、そこから10人のキャラクターが見えるみたいで、こっちまでドキドキしてくる。
さらに審査員の投票によって勝敗が決まるわけですが、それを共に競ったライバルと聞かなければいけないのが、めちゃくちゃしんどい。勝った方はうれしいものの、横に負けた子がいると思うと露骨に喜んだ顔をするのも悪いかなって感じで、ちょっと居心地の悪そうな表情をする一方、負けた方なんかはもうその場で涙をこらえきれず泣いちゃう子とかも出てくる。悪趣味かもしれませんが、言わせてください。こういう悲喜こもごもが最高に燃える。
相手を気遣って喜びを前に出さないっていうあたりも、なんて言うんだろう、ひと昔前のオーディション番組とは違うというか。令和の子たちだ〜っていう感じがするし。その振る舞いにも女優らしさが見え隠れするようで、お芝居の中身もそうなんだけど、こういうリアクション含めて、誰を推したくなるか決めているところがある。
【胸アツ2】審査員に思わずツッコみたくなる
歌やダンス以上に正解が見えにくいのがお芝居。素人の耳で聞いていても、歌の上手い下手はある程度判定できるし、ダンスのキレの良さとか体幹の強さなんてのは一目瞭然。他方、お芝居というのは歌やダンス以上に好みが出やすいものかなという気がする。
だから、審査員の判定に「え~! マジか~!」となりやすいのも、この番組の面白さ。時には自分と感覚が違いすぎて、これが両国国技館なら座布団投げまくってんぞ!と息巻くときも。そうやってジャッジにいちいちツッコミを入れながら観るのもよし。なるほどプロはそういうところを見ているのかと頷きながら観るのもよし。思わず一緒につぶやきたくなるこの感覚は、オーディション番組ならではの面白さです。
【胸アツ3】舞台裏で流す悔し涙にもらい泣き!
甲子園とか箱根駅伝とかもそうですが、勝った方より負けた方につい感情移入しやすい性格でして。一生懸命頑張ったのに結果に結びつかなかった。その瞬間、こぼれる涙の美しさはどんな宝石よりも美しく価値がある。
たとえば第1回のバトルでは獲得0票という完敗を喫した岡田里穗(18歳・東京都出身)が舞台裏でインタビューを受けるんですけど、最初は涙を我慢しようとしたのか、目元をポンポンと叩いて必死に笑顔をつくるわけ。しかし、敗戦の気持ちを語っていくうちに、どんどん悔しさがこみ上げてきて、目が潤み、声がかすれてくる。そして気づくと、頬に伝う大粒の涙・・・!
この瞬間、この子推せると思いました。
【胸アツ4】推しができる
そうなんです。10人の女の子がそれぞれキャラクターが違っていて、観ているうちに必ず誰かを推したくなるのが、この番組の最高の胸アツポイント。
ここは完全に個人的な感想ですが、今気になるのは3人。まずは何と言っても現在ランキング1位の飯沼愛(17歳・香川県出身)。目鼻立ちの整った正統派美少女で、演技もデビュー前とは思えないくらいの安定感。特に第2回のCM演技では、相手役の原金太郎が本番で台詞を飛ばしてしまうというまさかのアクシデントがありながらも、それを感じさせない堂々とした演技で胆力の強さを発揮。動揺が走る中、パッと前を向いて商品PRの台詞を言い、その演技についてきていない原金太郎を肘で小突くというアドリブまで披露したのです。それがまたコミカルで、この瞬間、僕の心の月影先生が「おそろしい子!」って白目をむいてた。
しかも、そんな臨機応変な対応力をどれだけ審査員が絶賛しても、「もっとできました」と悔しがる場面も。こういう負けん気の強さは女優にとって必要なものだと思います。
原石揃いの中で飯沼愛は確実に即戦力人材。今すぐGP帯の連ドラに起用されても違和感がないくらいの逸材です。それを証明するように過去3戦はすべて満票獲得という完全勝利。この演技バトルの本命といえる存在です。
次に紹介するのが、先ほども述べた岡田里穗。第1戦では飯沼愛に完敗。「負けたくないなって想いがより強くなりました」と巻き返しを誓った岡田が輝きを見せたのが、第3回のラブコメ演技。ポイントは、自分をはさんでケンカになる彼氏と店長にブチギレするその豹変ぶりをいかにコミカルに見せられるか。ここで岡田は、テーブルを叩いて場の空気を切り替えるという豊かな発想力で勝利を掴みました。
個人的に芝居勘がいいなと思ったのは、間のとり方。審査員の宮﨑真佐子も指摘していましたが、ケンカをしている彼氏と店長を一歩引いたところから見て苛立つような顔を見せるのですが、あの溜めはその後の爆発力を誘発する上でも非常に重要なポイント。それを自然にやってのけたところに、女優としてのセンスの良さを感じました。
ビジュアルも朝ドラヒロインが似合いそうな愛らしさ。それでいて、学生の頃は教室のはじっこで一人でお弁当を食べていたという陰キャな側面も。そういったナイーブさが女優としての感性につながっているのではないかと思わせる有望株です。
最後に紹介するのが、渋谷風花(18歳・青森県出身)。渋谷は、ある意味では飯沼とは正反対のキャラクター。正直、演技は不安定。台詞回しも覚束ないし、表情からも役の感情を読み取ることはまだできず、スキルだけで言えばこの10人の中でも恐らく下位。実際、なかなかポイントを獲得できず、ランキングでも上位に上がってくることができていません。
それでも、何か面白いものを持っていると思わせる力が渋谷にはあって。第3回のラブコメ演技では、対戦相手の飯沼がお手本のようなお芝居を披露する一方、渋谷の演技には照れや迷いがあり、台詞を言い終わった後にふっと素の表情に戻ってしまうようなところも。だけど、突然立ち上がったり、予測できない面白さが渋谷の演技にはあって。それが、予定調和になりがちな他の人たちの演技とはまったく異なるリズムを生んでいるのです。
リモート演技バトルで見せた飯沼&渋谷の弱さと強さ
そんな飯沼&渋谷という好対照キャラクターの弱さと強さが浮き彫りになったのが、5月29日・6月5日に放送されたリモート演技バトルでした。
独特の魅力があると評価されながらも、票を積み上げることができず、「また次に行ったときも0(票)とかって考えると、あとこれが何回みたいなことを考えてしまう」と弱音をこぼしていた渋谷。が、このリモート演技バトルでは2票獲得で初めて勝利。これは、怪しい団体に洗脳されるというトリッキーな役柄に、持ち味の不安定さがプラスとなった面もあると思います。が、ハマり役を見つけることで輝くのが女優というもの。余人に代えがたい味を、この年齢にして持ちはじめている渋谷は、もしかしたら未完の大器かも。
一方、これまで完全勝利で首位を独走していた飯沼は、2票獲得で勝利とはなるものの、初めて1票を落とす結果に。確かに演技の正確さでは、飯沼は際立っています。けれど、逆に言うと優等生的で、渋谷のような「この人にしかないもの」が今のところ見えてこないのが弱点。変に完成されすぎているところがあって、それがこのリモート演技のようなコミカルな芝居では足を引っ張ることに。本人も自覚しているようで、「自分の強みとか個性とかがない」と焦りを吐露していました。
不思議なもので芸能界というのは平均95点を出せる子よりも、平均点は赤点なんだけど、どれかひとつだけ200点を出せる人の方が売れたりするもので。そう考えると、この演技バトルですでに盤石の地位を築いている飯沼が必ずしも勝者になり得るのかと言うと、読めないところが出てきました。
こんな感じで、観れば観るほどつい語りたくなるのが『私が女優になる日_』。誰か一緒に語りたいので、お願い1回観て!!
(文・横川良明)
◆番組情報
TBSスター育成プロジェクト『私が女優になる日_』
毎週土曜日深夜0:58からTBSで放送。
動画配信サービス「Paravi」で初回放送分から見逃し配信中。
(C)TBS