この世に地獄があるとしたら、付き合ってる男性と別の男性がなぜか同時に実家に転がり込んできたとき〜〜〜〜。
そんな考えるだけで頭がおかしくなりそうな地獄をとってもキュートに描いた『着飾る恋には理由があって』(TBS系/毎週火曜22:00より放送)第7話。それは、クライマックスに向けた狼煙となる回でした。
今夜の晩餐は、男の嫉妬とモヤモヤがてんこ盛り!
ランプの買い付けをするため、生まれ育った故郷・初島へ帰ってきたくるみ(川口春奈)。そこへ駿(横浜流星)と葉山(向井理)の2人もやってきて、なぜかみんなで実家に泊まることに。
くるみの母・すみれ(工藤夕貴)をまじえ、4人での夕食。いつになくテンションの高い駿は明らかに嫉妬むき出しの様子。一方、葉山は葉山でさりげなく話題を避けるように犬にエサをあげたり、「藤野くんは、釣りしにきたの?」と本心を探るような質問をしたり。まったく穏やかじゃない晩餐。楽しいのはお母さんだけ。読んで、お母さん、空気読んで!
「スペック:空気を読まない」なお母さんは、とことん空気を読まず、くるみのスクラップブックを持ち出す始末。そこには、若かりし日の葉山のインタビュー記事の切り抜きが。なんだこの公開処刑は。こんなの、下駄箱に入れたラブレターを教室の黒板に貼り出されているようなもの。明らかに好意がダダ漏れている。
「ラッキーなのは僕の方です。真柴さんが入社して、広報として一生懸命支えてくれました」
そうすみれに伝える葉山。そして、「会社にとって、とても大事な存在です」と付け加える。そのときだけは、くるみの目を見て。「会社にとって」という言葉は、「僕にとって」のようにも聞こえて、くるみのラブレターのようなスクラップブックに対する返事のよう。
2人の間に立ち入れないものを感じた駿は、その場を避けるように台所へ。膨らむモヤモヤを断ち切るように、お裾分けでもらった果物に包丁を入れる。わかるで〜、駿〜、さすがに今のは辛いよね〜。僕だったら、確実に葉山の分のフルーツだけ下剤とか入れちゃいます。
故郷を離れて頑張るすべての人へのエールのような回だった
とはいえ、くるみを2人の男性のあいだで揺れるヒロインとして描こうとはしないのがこのドラマの美学。あくまで葉山への気持ちは憧れで、一貫してくるみの恋愛感情は駿に向けられています。
深夜の台所での「顔むぎゅ」シーンも当然のようにいいのですが、個人的にそれ以上にグッときたのは、駿とすみれが2人でくるみについて語り合っていた場面。くるみのインスタに元気をもらっているという一方で、無理しているんじゃないか、陰で落ち込んでいるんじゃないかと心配を隠せないすみれ。そんなすみれにかけた駿の言葉が、今回のキーポイントです。
「裏で、一生懸命頑張ってるところ。いつもまっすぐ進もうとしているところ。俺にはできない、ちょっと憧れます」
着飾ることに否定的で、頑張らなくてもいいというスタイルの駿が、くるみの前向きさに眩しさを感じていたこと。「俺にはできない」の言葉の裏側にある、本当は自分ももう一度まっすぐ突き進んでみたいという気持ち。それをちゃんと口にできたことこそが、ずっと着飾らないことで自分をガードしていた駿の始まりの一歩で。価値観の異なる2人がお互いを認め合いながら、少しずつ成長していってるんだと感じられた瞬間でした。
「そりゃさ、若いんだもん、失敗だってあるよ。でも、年をとって思い出すのは何を失敗したかじゃなくて、そのときにまた立ち上がれたか。くじけるもんか、まだまだやれる、こんちくしょうってね。だから、何度でも立ち上がってほしい」
そんなすみれの言葉は、買い付けの交渉が暗礁に乗り上げたくるみへの激励であると同時に、店を潰した失敗を引きずり、どこにも行けないまま小さなキッチンカーに閉じこもっている駿の背中を押すメッセージでもあったと思う。そういう意味でも、この第7話はクライマックスに向けた大きな転換点だったんじゃないだろうか。
正直、ラブコメという点だけで見れば、ちょっと休憩回だった気もする。恋愛ドラマとしてはもっとくるみと駿と葉山の三角関係に振り切った方が盛り上がりは増すはず。ただ、恋愛ということに限らず、毎日おしゃれをして、いろんな仕事を抱えながらも任せられたことを一生懸命頑張って、その上で自分のやりたいことへ背伸びをする人たちへのエールとするなら、すみれとくるみのお互い大事に思っているのにうまくやれない母娘関係を1話をかけて描いたことは良かった。
仲が悪いわけじゃない。だけど、必要以上に干渉してくる母親につい冷たい態度をとってしまう娘の気持ちはすごく普遍的で。同様に、もう立派に自立しているんだからほっておけばいいとわかってはいるけど、ついついお節介を焼いてしまう母の心理も多くの人が頷けるところで。
全然ドラマティックじゃないけど、そういう凡庸さにこそ人間の機微がある。特に、川口春奈が五島列島の出身だということを知っているからか、いつも以上に真柴くるみというキャラクターが川口春奈自身と重なって見えて。定期船を見送りながら「いつでも帰っておいで」「頑張れ、くるみ」と手を振るすみれについ目が潤んでしまった。
今、故郷を離れ、働いたり、学んだりしている人たちの多くが帰省もできずにいる。ただでさえ、決してもうそれほど長くずっと一緒にはいられないことがわかっている親との時間を、不毛に削られていることに寂しさや焦りを感じている人も多いはずだ。そんな人たちがこのドラマを観て、故郷の親にせめて電話でもしてみようと思えたらいいな、と思った。そういうこともまたドラマにできるひとつの大事な役目だから。
向井プロはここからどう反撃に出るのか!?
一方、東京では陽人(丸山隆平)と羽瀬(中村アン)の間にも進展が。かつて男女の関係にあったバイト先の清水(加治将樹)と羽瀬が一緒にいるところを目撃した陽人は、つい清水に「ええ加減にせえよ!」と噛み付いてしまう。羽瀬への気持ちが、困っている人をほっとけない陽人の博愛精神から来るものなのか、恋なのか、なかなか判断がつかなかったけど、あのバックハグは好きという気持ちでいいのだろうか。2人の間に特に障害は見当たらないのだけど、ここで結ばれとしたら、残りのエピソードでどんな展開を迎えるのかが気になる。
今のところそんな発想はまったくなさそうだけど、香子(夏川結衣)が元夫の礼史(生瀬勝久)との復縁を選ぶのか、それとも婚姻や恋愛に寄りかからない生き方を選ぶのかも、終盤に向けた大きな宿題の1つ。
そして何より、ラストで告げた「本当は、真柴に会いにきたのかもしれない。やっと気づけた気がするよ。君のおかげで」という葉山からの宣戦布告。反撃に出るにはもう時すでに遅しな感じがするけど、ここから葉山はどう攻めるのか。
とりあえず三角座りをしながらご飯を食べる葉山が最強に可愛かったので、やっぱり向井プロは只者じゃねえと思いました。
(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)
【第8話(6月8日[月]放送)あらすじ】元彼女で、以前勤めていた店『オルテンシア』のオーナーの娘でもある葉菜(山本千尋)と再会した駿(横浜流星)。葉菜に店にまた来るように言われ動揺する。真柴(川口春奈)は駿の元気のない様子が気になり声をかけるが、はぐらかされるばかり。
そんな中、真柴と駿の関係を知った香子(夏川結衣)は、ふたりにフレンチレストランの大人のデートをプレゼントする。デートを楽しみに過ごす真柴と、以前の店に戻るか苦悩する駿。すれ違う日々が続き、真柴の不安は増すばかり・・・。そんな真柴の様子を見かねた祥吾(向井理)が動き出し、真柴と駿の関係に大きな変化をもたらすことに。
一方、酔い潰れた羽瀬(中村アン)を部屋へ運んだ陽人(丸山隆平)は、羽瀬に自分の正直な想いを伝える。
◆放送情報
『着飾る恋には理由があって』
毎週火曜日22:00よりTBS系にて放送中
地上波放送終了後、動画配信サービス『Paravi』にて配信。
Paraviオリジナルストーリー『着飾らない恋には理由があって』も独占配信中。
(C)TBS