【ネタバレ】『生きるとか死ぬとか父親とか』元パートナーと東から考える女性の役割

PlusParavi
【ネタバレ】『生きるとか死ぬとか父親とか』元パートナーと東から考える女性の役割
【ネタバレ】『生きるとか死ぬとか父親とか』元パートナーと東から考える女性の役割

ラジオパーソナリティーでコラムニスト、ジェーン・スーのエッセイを原作に据え、吉田羊×國村隼のW主演で家族の愛憎物語を描いた『生きるとか死ぬとか父親とか』(テレビ東京ほか)の第8回が、5月28日(金)に放送された。

今回のラジオの相談は、「家族と離れて単身赴任になってから、柿ピーを食べるとピーナッツだけ残ってしまう」というもの。相談主の性別が書かれていなかったことから、それを「中年男性の悲哀」と見る男性スタッフと、「女性にだって単身赴任はある。これは男女関係ない普遍的な悲しみ」と見る東(田中みな実)の対比が、今回の物語に反映されてくる。

トキコ(吉田)のもとに、結婚直前で別れた元パートナー・青柳(岩崎う大)から連絡がくる。仕事の忙しさなどを理由にいったん断ったトキコだが、田舎に帰ると聞き、会うことに。

青柳は、一人で暮らす母が脳梗塞になりマヒが残ってリハビリ生活になったため、一緒に住むことを決めたと話す。かつては売れっ子ライターだった青柳。しかし、雑誌が廃刊になり、次第に書く場所が減っていったことで、だんだんと稼ぎが減少。気づいたら「専業主夫」になっていたという。

バリバリ働くトキコと、「専業主夫」の青柳――それが二人の合意であればある意味理想的にも思えるが、現実はそう簡単ではない。

「思っていた以上に男が専業主夫することに、社会が対応していなかった」、さらに「夕飯作って待っているのに、帰りが何時になるかって連絡がないこと」がストレスでヒステリーを起こしていた青柳の話には、ちゃんと"専業主夫"をしていたからこその切実さが滲む。

「世の中の『男といえば、こう』『女といえば、こう』っていうのは、性別から来るものじゃなくて、『役割』からくるんだってことよくがわかった」という呟きは、生々しく説得力を伴っていた。

二人は、入籍をめぐって別れを決めたのだった。青柳が入籍にこだわったのは、田舎の友人や母に結婚のことを言われたため。さらに専業主夫となって家事や炊事ばかりやっていると、何者でもない自分に不安を感じ、よりどころが欲しくなったためだ。彼の不安は、世の中の「専業主婦」という"役割"に伴う普遍的な感情だろう。

「ホントはさ、炊事や家事の合間に、何でもいいから書き続けてれば良かったんだよ。稼ぎにならなくたって。(中略)そしたら自分を見失わずに済んだのかなあ」――語られていないが、そこにはエッセイストで"モノ書き"という大きな意味での同業者・トキコに対する引け目もおそらくあったろう。

ライターの仕事が減った青柳を支えようと仕事を頑張るトキコが、結果的に青柳を「家事担当」の人にして、仕事を奪ってしまったこと。逆に青柳が家事をすることで、トキコから家事を奪ったこと。お互いを思うからこそたどり着いた「別れ」が切ない。

そうした中、トキコは仕事仲間の東の無言のSOSをキャッチし、飲みに誘う。東はお付き合いしている相手との結婚を考えていて、「アナウンサーとして生きるより、一人の主婦として生きる方が自分には合っているのかな」「女性としての幸せ、優先したいなあって」と漏らす。実は東は後輩がどんどん進出してくることに不安を感じていて、「結局は容姿や若さで選ばれている」「私なんてしょせん、男が女に求める役割をこなすだけのお飾りに過ぎない」と不安に駆られていたのだ。

結婚していても、いなくても、人が一緒に暮らす上でできていく「役割」や、仕事の中で求められる「役割」、そして世間の目――気づいたら様々なモノに縛られ、がんじがらめになっているのは、私たちの日々そのものだ。

少しだけ胸が苦しくなるようなドラマの最後に描かれた、田舎に帰った青柳がタウン誌に売り込んで、書く仕事を再び始めた話に、心が救われる思いがした。

(文・田幸和歌子/イラスト・月野くみ)

【第9話(6月4日[金]放送)あらすじ】
トキコ(吉田羊)と父(國村隼)は母のお墓参りに行く。母(富田靖子)との思い出話をしているうちに、トキコは家族の中で起きたある出来事の始まりを思い出す。時は遡り、20代のトキコ(松岡茉優)。C型肝炎で入院する父を毎日のように見舞う若き日のトキコと母だったが、なんと母自身にも癌がみつかってしまう。トキコにとって父と母を同時に介護する壮絶な日々が始まった。ある日、父の病室に見慣れぬ赤い花が飾られており・・・。

◆放送情報
番組名:ドラマ24『生きるとか死ぬとか父親とか』
放送日時:毎週金曜深夜0:12~
放送局:テレビ東京、テレビ大阪、テレビ愛知、テレビせとうち、テレビ北海道、TVQ九州放送
※テレビ大阪のみ、翌週月曜深夜0:00から放送
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi」でも配信