全くもって「最高にポップな」夢のような最終回だった。青山(中村倫也)に置いて行かれた寂しさと愛ゆえの暴走だったぺい(磯村勇斗)、ぼっちゃん(宮世琉弥)。そして青山の珈琲への愛が「サイコパス」的とも揶揄される垣根(夏帆)。そんな愛を拗らせた人々が、それぞれド直球に青山への愛を語り、彼の「永遠のラブ」(by ぺい)を求めて、子どものようにわちゃわちゃと言い争う。
蒸らされている最中の珈琲豆は、いつもながらまるでタコのように膨らむ。異例のラストに流れたオープニングテーマ、小沢健二『エル・フエゴ(ザ・炎)』の歌詞「骨の中に 時は降りつもる 地層のように」の通り、たこの妻・幸子(市毛良枝)は、たこの骨を砕いて珈琲に混ぜ、体内に入れた。「これでたこさんは私の一部」であると。
その少しばかり度肝を抜く美しい愛の行為は、青山と父親、二代目(内田朝陽)を失った悲しみを「権力と暴力で塗り固める」方法でしか埋めることができなかったぼっちゃんが、亡き父の仏前に供えた「青山の指入り珈琲」のグロテスクさを、鮮やかに変換し霧散させる。「指」も「骨」も、どちらも青山とたこ、それぞれの大きすぎる愛が詰まっていた。
久々の2部構成で幕を開けた最終話。1杯目の『暴力珈琲』では、父親に愛されず、さらには慕っていた「僕だけのとらモン」の青山にまで裏切られ、自分は人から愛される才能がないと思い込んでいたぼっちゃんが、彼らの真実を知る。二代目は息子のことを誰よりも愛し、息子のために死んだ父親で、青山もまた落とさなくていいはずの指を、ぼっちゃんとの約束を守るために落としたのであった。
誰よりも大人たちに深く愛されていたのは、ぼっちゃんだったのだ。本当に「ちょっとした加減で変わってくるもんだよ。珈琲の味も、人間も」という、たこの言葉通り、少し角度を変えてみるだけで、人生は全く違って見えるのである。
2杯目は、亡きたこが主役の『ポップ珈琲』。奥さんと同じ墓に入りたい、というたこの願いであり、青山の旅の最終目標を達成するために、「地元の峠で腕をよく鳴らしてた」運転技術を嬉々として披露する垣根と、嬉しそうについてきたぺいと青山の3人は、手がかりの住所へと向かう。そこにいたのは、たこが既に亡くなっていると勘違いしていた妻・幸子と、孫のマコ(宮野陽名)だった。
そこで味わう、たこの珈琲の味そっくりの幸子の淹れる珈琲。青山の珈琲の師匠であるたこに珈琲の淹れ方を教えたのは、若き日の幸子(森迫永依)だったのだ。さらに、たこが青山に語っていた「移動珈琲屋の夢」は、かつて幸子がたこに語った夢でもあった。青山は、知らないうちに、たこと幸子、そして青山自身の3人分の夢をワゴン車に乗せて走っていた。
「死に際は一人でしたけど、でも、たこさんの周りにはいつも人が溢れてました」と青山が語る、最高にポップな男・たこは、亡くなった今も青山と幸子、そして青山の珈琲を飲んだ人々の中に生きている。たこの珈琲の味を、まるで散骨さながら広めていった青山。そして最後の骨である「喉ぼとけの骨」は、たこが生涯愛した女性・幸子の体内に吸収された。人生に少し躓いた人たちの心を救ってきた青山の珈琲は、たこへの弔いの珈琲でもあった。
青山は、幸子とたこが眠る墓の予定地の傍で「たこ珈琲」を開店する。幸子にとっては「たこさんの珈琲の味」、垣根にとっては「特別に美味しい青山さんの珈琲の味で」あるその一杯は、祖父を知らない孫に届ける祖父の味でもあり、孤独だった青山が継承することによって得た、人との繋がりの味でもあった。
珈琲を飲んで口々に感想を言う三人に並んで、一人だけ感想を言わず、青山を見て困ったようにニヤッと笑うぺいと、その笑顔を見て目配せしながら笑う青山という無言の交流も絶品だった。
今日もどこかで青山とぺいの「たこ珈琲」は開店していて、垣根が嬉しそうにそれを飲んでいる。ぼっちゃん改め三代目も、成長して「とらモンにプロポーズ」するために頑張って生きている。いつか私たちの街にも、たこ模様のワゴン車がやってくることを夢見て過ごそう。美味しい珈琲を飲みながら。それだけで世界はポップに、色を変えるのだ。
Paraviオリジナルストーリー『珈琲"もう一杯"いかがでしょう』では、まさかの新事業を展開するぺいの活躍ほか、職場で丁寧・誠実が報われた垣根の働きぶりが垣間見れる。ロスの方は、こちらでぜひ"おかわり"を。
(文・藤原奈緒/イラスト・まつもとりえこ)
◆番組情報
『珈琲いかがでしょう』
出演:中村倫也 夏帆 磯村勇斗 ほか
動画配信サービス「Paravi」では本編「珈琲いかがでしょう」を全話配信中
さらに Paraviオリジナルストーリー「珈琲"もう一杯"いかがでしょう」を全話独占配信中
【公式HP】https://www.tv-tokyo.co.jp/coffee_ikaga/
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(C)「珈琲いかがでしょう」製作委員会