好きなドラマがあるだけで、ちょっと1週間が楽しくなる。それが、ラブコメならなおのこと。いよいよスタートした『着飾る恋には理由があって』(TBS系/毎週火曜22:00より放送)は、今日もこの街のどこかで頑張る人たちの毎日に、張りと潤いをくれるドラマになりそうだ。
美人だけど身近。川口春奈が体現する、応援したくなるヒロイン像
いいラブコメには、3つの条件がある。1つめは、ヒロインが応援できるキャラクターであること。たとえば、『やまとなでしこ』(フジテレビ系)の桜子(松嶋菜々子)はお金のことしか頭にない突飛なキャラクターだったけど、その潔(いさぎよ)すぎる人生哲学は爽快だったし、『恋ノチカラ』(フジテレビ系)の籐子(深津絵里)は男っ気がなくて部屋には使ってもいない美容健康グッズだらけという怠け者だったけど、もう一度何かに夢中になってみたい気持ちは、まるで自分を見ているみたいだった。
そういう意味では、『着飾る恋には理由があって』の真柴くるみ(川口春奈)も、応援したくなるヒロインだ。インテリアメーカー「el Arco Iris」(エル・アルコ・イリス)の広報課に勤め、フォロワー数は間もなく10万人突破のインフルエンサー。肩書きだけ見たら、オシャレでイマドキ。だけど、くるみは決して特別な女性ではない。
もちろん見た目は川口春奈なんだから間違いなく可愛い。でも、学生時代を知る早乙女香子(夏川結衣)曰く、昔は垢抜けない女の子だったという。それが、憧れの人ができて、その人の力になりたくて、一生懸命努力した。ファッションだって勉強しただろうし、似合うメイクを知るために動画も掘りあさったかもしれない。私たちの立っている延長線上にもしかしたらこんな自分もいるかもしれない、と思える身近なキャラクターだ。
仕事だってそう。約10万人のフォロワーも何かズルをしたり、特別なテクニックを使って集めたわけではない。朝、昼、夜と時間帯を狙って1日3回欠かさず更新。SNSをやっている人にとっては基本中の基本だ。それを5年間コツコツと積み重ねてきた結果が、約10万人。ガラスの靴が用意されていたわけでも、王子様が迎えに来てくれたわけでもない。ここでも一生懸命努力しただけ。
たまにはうっかり訪問先を間違えたりもする。だけど決してドジっ子というわけでもない。上には上司、下には後輩。もう若手の言い訳は通用しないし、さして給料は変わらないのに、下の子たちの面倒も見なきゃいけない。トラブルが起きたら、尻拭いを丸投げされ、だけど文句も言わず、出来る限りのフォローをする。
損をすることだって多い。見た目はきらびやかに装っているけど、根は真面目。だから、ついついタクシーを他の人に譲ってしまったりする。きっと東京の街を歩いていたら、くるみみたいな女性はたくさんいると思う。彼女となら、3ヶ月、楽しくやっていけそうかも。そんな安心感が、川口春奈の演じるくるみにはある。
横浜流星と向井理。どっちに落ちても、底なし沼
いいラブコメの2つめの条件は、男性が魅力的であること。これはもう完璧だ。しかも『着飾る恋には理由があって』には2人も魅力的な男性がいる。
1人目は、ミニマリストの藤野駿(横浜流星)。横浜流星の、こういう役を見てみたかったという要素がたっぷりつめこまれたキャラクターだ。クールだったり、ナイーブだったり、複雑な過去を背負わされることの多い横浜流星が、今回は明るく口数も多い。地声よりも声は高め。「正面から見たら驚いちゃったのかな、あまりにも男前で」とサムズアップし、恋愛相談をしようものなら、「どうでもいい相談を投げかけられて、酸っぱくなってる顔」と変顔でかわす。彼のパブリックイメージを塗り替える、陽気な三枚目キャラだ。
それでいて、キュンとさせるポイントは外さない。くるみのシートベルトを締めたり、後ろからやってくる自転車を避けようとくるみを抱き寄せたり。いちいち距離が近い。そのくせ口は悪く、すぐくるみをバカにしたような態度をとる。けれど、第1話のラストまで観た限り、もうすでに出会いの時点でくるみのことが気になっている様子。だとしたら、駿のあの茶化したような態度はすべてくるみの気を引くため? 好きな女の子には意地悪をするとか、小学生なの? そう考えると、あの軽口の応酬がすべて可愛く思えてくる。
しかも、ひとりで泣きながらカレーを食べるくるみを見つめる目は、かすかに潤んでいて。そうだ、人は恋をすると泣きそうな顔になるんだ、とあの表情だけで胸がぎゅっと締めつけられた。このあたりは繊細な表現を得意とする横浜流星の真骨頂だろう。
ファッションは、ミニマリストらしくシンプル。横浜流星は、小さな顔に対し、太めの首が男らしくて色っぽいんだけど、襟ぐりが広めのシャツが、そんな彼の首筋の逞しさを強調していて、衣装さんが早速いい仕事をしまくっている。シェフという役柄を活かし、料理シーンもふんだんに登場。料理をする男性がセクシーなのは、骨張った指先や腕の血管という男性ならではの体のラインの美しさを思う存分に堪能できるから。一点を見つめる真剣な眼差しも料理シーンの見どころのひとつ。おいしそうな料理と、横浜流星の新たな魅力に、心もお腹もぐうっと音を立てそうになる。
もう1人の男性キャラである葉山祥吾(向井理)も第1話から魅力全開。仕事のできるエリートだけど、ものぐさでちょっと適当というのは、向井理の十八番。これまで見せてきた火曜22時枠との相性の良さが今回もバッチリと発揮されている。
パーカーにスウェットというおおよそ社長らしくない恰好で出社してきたかと思えば、スーツに着替えると見とれるほどスタイリッシュ。特に喫茶店で休憩しているときのジレ姿は長身で知的な向井理だから着こなせる装い。しかも単なるシャツではなく、アームにラインの入った遊びの効いたデザインで、そこに大人の男の余裕と、枠にはまらない葉山の魅力が溢れ出ている。スプリングコートを羽織って街を歩く姿は、あまりのスタイルの良さに悲鳴が出そう。アップで撮っても引きで撮っても映えるのが、俳優・向井理なのだ。
『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)で向井理の最高値を更新させた新井順子プロデューサーと塚原あゆ子監督は、今回も向井理の見せ方を心得ている。お店にこのニットパーカーがあったらどうかと聞かれ、「ほしいです!」と即答するくるみに、返事の代わりにフードをかぶせるところとか、ここだけ切り取って延々ループ再生したい。くるみの腕を引き寄せ、そっと耳打ちしようとした鼻先のラインと伏し目の憂いは、視聴者の心臓を止める気満々。だけど、スマートなだけじゃなく、スーツに着替えるときにわざと蹴つまずかせたり、ほっとけない天然感まで盛り込んでくるから、これはもうプロの犯行です。おとなしく心ゆくまでときめきます。
10万人の「おめでとう」より、ほしいのはたった1人の「おめでとう」だった
そして、いいラブコメの3つめの条件は、ストーリーがしっかりしていること。甘いキュンシーンだけをダイジェスト的につめこんだら視聴者が喜ぶかといえば、決してそんなことはない。夢中になれる物語があるから、ドキドキも膨らむのだ。
くるみが一生懸命努力をするのは、ひそかに想いを寄せる葉山のため。好きな人がいると、頑張れる。これは、きっと有史以前から変わらない人類の法則だ。そんな恋心を、川口春奈は表情豊かに見せてくれた。目鼻立ちのはっきりした川口春奈は、台詞以上に表情が感情を語る俳優だ。特に葉山に花見に誘われて、「ん〜〜」と悶え喜ぶところなんて、可愛らしさもありながら、視聴者を「わかる!」という気持ちにさせる、等身大の演技だったと思う。
だけど、葉山は突然いなくなってしまった。葉山のために力を入れていたSNS。やっとフォロワー10万人を達成し、次々と「おめでとう」のコメントが並ぶ中、いちばん「おめでとう」を言ってほしい相手はどこにもいない。あるのは、「お誕生日おめでとう」というバースデーカードだけ。添えられた花束は、「(花を)もらって嫌な女性はいませんよ」というくるみの言葉を覚えていたのだろうか。いかにも無頓着そうな葉山が、店先でくるみのために花を見繕っている姿を思い浮かべると、余計にいとしさが募って泣きたくなる。
そして、そうやって葉山のために一生懸命着飾っていたくるみの前に現れた駿が、これからどんな影響を及ぼしていくのか。まずくるみはマネキュアをやめた。こうやってひとつひとつ彼女は着飾ることをやめていくのだろうか。
だけど、着飾ることがすべて悪いわけではない。ネットやSNSに対して否定的な駿だけど、温かいフォロワーのコメントがくるみの励みになっていた部分も間違いなくあるはず。ただのSNS批判になったらつまらない。駿は駿で、何やら過去がある様子。わずかに映ったアタッシュケースのキーホルダーには「hortensia」というタグがついていた。これはどんな意味があるのだろう。
着飾ることで背筋を伸ばせるくるみと、不要なものを持とうとしない駿。正反対の価値観を持つ2人が交わり合うことで、現代らしい生き方や考え方を提示してくれたらいいな、と思う。
オンラインカウンセラーとして人の心をケアしながら、自分は栄養ドリンクを大量に買い込んでいる寺井陽人(丸山隆平)や、そっけない態度の羽瀬彩夏(中村アン)など、同居人も役者が揃っている。何より1年間の語学留学を決意した香子の「人生100年時代。やっとこさ50になって、もうひとりでいいやと思っている。でも、ずっとひとりは無理かもしれない。だから、この家がみんなの家になったらって。好きなとき、好きなように、好きな誰かと暮らす。そんな日が来てもいいなと思ったの」という台詞が、不安と寂しさでいっぱいの現代人の心においしい味噌汁のように沁みわたった。
いいラブコメの条件は揃っている。さあ、これから3ヶ月、思い切りこの世界で夢を見よう。
(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)
【第2話(4月27日[月]放送)あらすじ】
葉山社長(向井理)の突然の退任にすっかり傷心の真柴(川口春奈)。駿(横浜流星)は元気のない真柴に仕入れた海老を食べさせることを約束する。
同じ頃、一緒に暮らしている陽人(丸山隆平)は、真柴のSNSが全面停止になっていることを知り、元気づけようと「2人で花見へ行こう」と誘うがなぜか駿、羽瀬(中村アン)、香子(夏川結衣)も一緒に行くことに。
一方、『el Arco Iris』の広報課では、社長退任の対応に追われていた。しかし、思わぬハプニングが起こり、真柴は・・・
◆放送情報
『着飾る恋には理由があって』
毎週火曜日22:00よりTBS系にて放送
地上波放送終了後、動画配信サービス『Paravi』にて配信。
Paraviオリジナルストーリー『着飾らない恋には理由があって』も独占配信中。
(C)TBS