コロナ禍でも一挙再放送されて話題となった、戸田恵梨香×加瀬亮W主演、堤幸彦監督のドラマ『SPEC』シリーズ。その最新作『SPEC サーガ黎明篇「Knockin'on 冷泉's SPEC Door」~絶対預言者 冷泉俊明が守りたかった幸福の欠片~』が2月18日(木)から動画配信サービス「Paravi」で独占配信されている。最新作をより楽しむべく、改めて『SPEC』シリーズの魅力を紹介していきたい。
2010年に放送された『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』は『ケイゾク』(1999年)のスタッフと演出・堤幸彦が11年ぶりに再集結し、2013年までシリーズ化された、今でも熱狂的人気を誇る作品である。
放送当時大いに話題になった映像や音楽のスタイリッシュさは、今観てもまるで古びていない。また、『ケイゾク』シリーズから引き続き西荻弓絵が手掛ける脚本は、なかなかに難解さを孕んでいる。
そもそも「警視庁」と冠していても、いわゆる「刑事モノ」の物語じゃない。
「SPEC」とは、常識では計り知れない特殊能力のこと。そして、そんな特殊能力を持つ「スペックホルダー」が巻き起こす不思議な事件を取り扱う部署が、警視庁内の「通称・未詳」なのだ。
本作で戸田恵梨香が演じるのは、変人だが、IQ201の天才、未詳所属の警部補・当麻紗綾である。ボサボサの長い髪に、三角巾で吊った左腕、いつも資料となる書籍などを詰め込んだキャリーバッグを引いて歩く姿は、見るからに風変りだ。語尾は「○っすね」が特徴で、性格はぶっきらぼうで、がさつで、非常識で、おまけに味覚オンチで、餃子を10人前ぺろりと平らげる。
推理するときもまた珍妙で、書道セットを広げ、筆で未解決事件の糸口となるキーワードを何枚も大書していくのだが、天才のくせに漢字は苦手で、誤字が多い。そして何枚も書きなぐった半紙の束を踏みつけ、ちぎって頭上にまき散らした後、「いただきました!」というのが定番シーンとなっている。
ちなみに、戸田恵梨香のまだ少女の面影を残していた丸みのある顔と、ヒョロリと伸びた極細の手足、鋭い眼光が、可愛いのに見事な「変人」感につながっていた。
『ケイゾク』『TRICK』それぞれのシリーズに続いて、堤監督作品のヒロインたちは、みんなかなり風変わりで、だからこそ魅力的なのだ。
一方、W主演の加瀬亮が演じる瀬文焚流は、警視庁特殊部隊(SIT)出身の肉体派で、堅物で、体力お化けで、無表情が特徴である。坊主頭であることから、当麻には「ハゲ!」と呼ばれ、餃子ばかり食べる当麻に「ニンニクくせえ!」と苦情を言う。2人は衝突ばかりを繰り返し、まるで色気のないをやり取りをすることが特徴だが、それでいて信頼関係は抜群で、当麻が危機に陥ったときは体を張って命がけで守る。
その驚異的に強靭な精神力と肉体は、ときにはさまざまなスペックホルダーをしのぐほどの威力を持っているのだ。この甘さ控えめ・絆はかなり強めの"男女バディ"感も、『SPEC』シリーズの大きな魅力となっている。
さらに、同作の大きな特徴は、題材として描かれるのは、SFやダークなバイオレンス、シリアスな要素がたっぷりであること。
にもかかわらず、独特なのは、作品全体の印象として、随所に散りばめられた笑いが際立っていること。しかも、とある場面で「ブブゼラ」を使用するなど、意表をついたハズシ方、笑えるような演出にこそ、むしろ恐ろしさがあることだ。
聞きなれない「用語」も多く、難解な物語が展開される本作。まずぶち当たるのが、「どれから観たら良いのか」と戸惑うこと。『SPEC』シリーズは、数字でナンバリングされていないし、連続ドラマの他に、スペシャルドラマと映画があり、ちょっと複雑なのだ。
作品内で描かれる時間軸を考えると、混乱しそうなので、基本的には放送・公開順で観るのがお勧めだ。いったん整理しておこう。
まずは連続ドラマの『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』を観た後に、スペシャルドラマの『SPEC~翔~』(2012年)、次に『劇場版 SPEC 天』(2012年)、スペシャルドラマ『SPEC~零~』(2013年)、『劇場版SPEC~結~漸ノ篇』(2013年)、『劇場版SPEC~結~爻ノ篇』(2013年)だ。
そもそも連ドラ時も「甲、乙、丙」と"十干"を用いた表記で進み、その先がわかりにくいうえに10話は「癸」。その「癸(き)」から、一応、音では「起承転結」と続いてくわけだが、文字は「癸翔天結」で、しかも「結」は「前・後」でなく「漸・爻」なのだ。
また、本作にはParaviで配信される最新作の主人公・冷泉俊明の他、非常に重要な役割を担う人物・一十一役で神木隆之介が、そして"雅ちゃん"役でブレイク前の当時17歳の有村架純など今をときめく若手俳優のさらにフレッシュな姿を観ることが出来るのも楽しいところ。
さらに、『ケイゾク』の登場人物も出てくるとあって『SPEC』の世界を十分に楽しむためには、その世界観がつながってくる前身にあたる作品『ケイゾク』シリーズもぜひ観ておきたい・・・視聴者としては、まるでどこまでついてこられるか試されているような気分になるほど、難解で、果てしない道のりである。
しかし、いったん観始めると、止まらなくなり、どうせなら、さかのぼってもっと知りたくなってくるのが、この作品の恐ろしい吸引力である。
そして、この複雑な時間軸に巻き込まれ、混乱する体験そのものが、まさに『SPEC』の世界観の「スペックホルダー」たちが持てる、時間を止めたり、未知を予知したりする能力と重なってくるのだ。つまり、視聴者もまた、スペックホルダーたちの掌の上にいるような感覚である。
最新作『SPECサーガ黎明篇「Knockin'on冷泉's SPEC Door」~絶対預言者 冷泉俊明が守りたかった幸福の欠片~』が放送される前に、混乱しつつも、この難解かつ不思議な「SPEC」シリーズの時間軸の旅を一挙に振り返ってみたいものだ。
(文・田幸和歌子)
◆配信情報
『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』ほか、『SPEC』シリーズ全作が動画配信サービス「Paravi」にて配信中。
最新作『SPEC サーガ黎明篇「Knockin'on 冷泉's SPEC Door」~絶対預言者 冷泉俊明が守りたかった幸福の欠片~』も毎週木曜深夜0:00より独占配信中。
(C)TBS