【ネタバレ】上々の発進!期待の話題作『天国と地獄』見逃す理由はない

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【ネタバレ】上々の発進!期待の話題作『天国と地獄』見逃す理由はない
【ネタバレ】上々の発進!期待の話題作『天国と地獄』見逃す理由はない

この先いったいどうなっていくのか。予想もつかない展開に胸躍らせることができるのは、オリジナル脚本の最大の醍醐味。日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』(TBS系/毎週日曜21:00~)第1話は面白いオリジナル作品をつくるぞ、というつくり手たちの意気込みが存分に感じられるスタートだった。

綾瀬&高橋の入れ替わり演技が、ドラマを盛り上げる

ふとした拍子に人格が入れ替わる。こうした"スイッチドラマ"は『転校生』から『君の名は。』までフィクションの世界では定番だ。正直、新鮮味はない。だけど、入れ替わる相手に「刑事」と「殺人鬼」の組み合わせを持ってきたところが本作の面白さ。

一方、発想は大胆だが、奇抜さを狙いすぎて策に溺れる危険性もある。はたして賽の目はどう出るか。期待と不安を抱えながら初回を観たが、大きく期待が上乗せされる滑り出しとなった。

まずは何と言っても、入れ替わりを演じる綾瀬はるか高橋一生の演技が魅せる。綾瀬が演じるのは、正義感は強いが、その鼻っ柱の強さが時に空回りする捜査一課の刑事・望月彩子。高橋が演じるのは、ボストンのMITで分子生物学を学び、帰国後、創薬ベンチャーを立ち上げたやり手の経営者・日高陽斗。

「月」と「日」の名を持つ2人は、満月の夜、一緒に階段から転げ落ちたことから、人格が入れ替わる。殺人事件の容疑者として彩子に追いつめられていた日高は形勢逆転。目の笑っていない不気味な笑顔で、日高の姿となった彩子の腕に手錠をかける。

入れ替わりが起きるまで、綾瀬が普段よりも低めの声で上昇志向の強い彩子を演じれば、高橋は穏やかだが底の見えない微笑みで日高の狂気性をちらつかせる。そして、入れ替わり発生後は、まず高橋が、彩子となった様子を、目を覚ましてベッドから起きるという何気ない日常動作だけで完璧に表現する。地声より高くした声色もそうだが、それ以上に目だけでもう日高ではないことがわかるのだ。ベッドから降りたあとの立ち姿も、肩を下げ、足を内股にしているからだろうか、自然と女性のラインになっている。

対する綾瀬も口調が違和感なく日高だ。そして、彩子を演じていたときのガサツさは見る影もなく、ミステリアスで、知的で、何とも言えない魔性をまとっている。そこから、「こざかしいんだよ、いちいち」と彩子となった日高に迫るシーンは、思わず呼吸が止まりそうになるほど迫力があった。入れ替わり後の2人を見ただけで、次回以降も視聴を継続しようと思わせる緊迫感満載のクライマックスだった。

月の満ち欠けが果たして何を意味しているのか?

肝心のストーリーも、初回から気になる謎がいくつも散りばめられていた。まず最大の謎は、この猟奇殺人事件の犯人は誰かということ。被害者の手のひらにつけられた謎の模様。そして、事件は新月の夜に起きていたということ。新月とは、月の見えない夜のこと。入れ替わりが発生したのが、満月の夜であることを考えても、月の満ち欠けがこの物語の鍵を握っていると見て間違いないだろう。

冒頭で登場した、奇妙な漫画のようなイラストも気になる。漫画の中で描かれた男の振り向いたときのがらんどうの目は、高橋演じる日高が時折見せる見開いた目にそっくりだ。あの感情が消え失せた昆虫のような目は何を象徴しているのだろう。

イラストの男は、手にモップのようなものを持っている。容疑者と思われる人物が、なぜ一部しか出回っていない(つまり、所有者を特定しやすい)洗剤のサンプル品を使ったのか。彩子の同居人・渡辺陸(柄本佑)が清掃員のアルバイトをしていることも奇妙な符号だ。もしかしたらイラストの男は、日高ではなく陸なのだろうか。

次なる謎は、日高の正体だ。ボストン滞在時に、殺人容疑をかけられたこともある、謎の男。カバンの中から出てきた凶器と思われる石も含めて、現時点では最も容疑者の可能性が高いのは、日高だ。つまり、ミステリーの定石を考えれば、犯人は日高ではないとも言える。入れ替わりが発生したことで、逆に彩子は日高の素顔に迫りやすくなったという利点もできた。今後、日高となった彩子が、どう彼のこれまでの歩みを追いかけていくのかも大きな見どころだろう。

メインの登場人物は、河原三雄(北村一輝)、陸、八巻英雄(溝端淳平)、五木樹里(中村ゆり)、五十嵐公平(野間口徹)、十久河広明(吉見一豊)と、全員ではないが数字が振られている。これが深読みを誘うためのミスリードなのか、何か重大な意味合いがあるのかは、現時点では判別不能。だが、ミステリー好きとしては、彩子と日高以外の人物の動向も見逃せない。

彩子が夢の中で見た浜辺は、「月と太陽の伝説」が眠る鹿児島の奄美大島だろう。この奄美大島という土地が彩子と日高にどんな関係があるのかも、今後紐解かれていくはずだ。

懸念材料といえば、刑事と殺人鬼が入れ替わるという設定だけで、はたして1クールを乗り切るのかということ。インパクトはあるが、彩子と日高がお互いの素性をほとんど知らない以上、ボロが出るのは時間の問題。最終回までこの状態のまま進むかと言うと、そうでもない気がする。おそらく次の新月の夜にまた話は一気に進むはず。このあたりは、『世界の中心で、愛をさけぶ』『白夜行』から、『JIN -仁-』『義母と娘のブルース』(すべてTBS系)まで、数々の名作を世に放ってきた脚本・森下佳子のストーリーテリング術に存分に翻弄されたい。

演出の平川雄一朗との相性も良く、凄惨な場面も登場するサスペンスでありながら、家族で楽しめる日曜劇場の要素も同居させたバランスのいい仕上がりとなっていた。

ここからさらに化けるか、それとも・・・。いずれにせよ、この冬クール最大の話題作を見逃す理由はなさそうだ。

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第2話(1月24日[日]放送)あらすじ】
※<>内は入れ替わった後の人物名
捜査一課の刑事・彩子(綾瀬はるか)と殺人事件の容疑者・日高(高橋一生)は、階段から転げ落ちた拍子に魂が入れ替わってしまった・・・。

彩子<日高>は日高<彩子>に「出頭して一生を塀の中で過ごすか、それとも自分と協力して容疑を晴らすか」と二者択一を迫る。仕方なく後者を選択した日高<彩子>は、彩子<日高>の指示通り、家宅捜索が入る前に日高のマンションからダンボール箱をこっそり持ち出す。中に入っていたのは連続殺人の証拠となり得る品々だった。身体が入れ替わってさえいなければ大手柄なのだが・・・。

なんとか家宅捜索を乗り切った日高<彩子>は、そのまま河原(北村一輝)の事情聴取を受ける。そして、その様子を別室で見つめる彩子<日高>と八巻(溝端淳平)。八巻は彩子の雰囲気がいつもと違うことを変に思って尋ねるが、「路線変更です」と煙に巻かれてしまう。

警察は日高が犯人である確たる証拠を見つけられないまま、秘書・樹里(中村ゆり)の素早い根回しで日高<彩子>を釈放。マンションに戻った日高<彩子>は、居候の陸(柄本佑)のことを考えた。一緒に暮らしている陸なら、きっと本物の彩子ではないことに気づいてくれるはずだ。

ところがその頃、陸は彩子<日高>と仲良く食卓を囲んでいて・・・。

◆放送情報
日曜劇場『天国と地獄 ~サイコな2人~』
毎週日曜21:00よりTBS系で放送
地上波放送後には動画配信サービス「Paravi」でも配信。