今、韓国ドラマに新しい動きが出てきている。今まで、韓国ドラマというと、一部のコアなファン以外、「女性が観るもの」という意識を持っていた男性が多かった。ところが、コロナ禍で、その流れが大きく変わってきている。外出自粛が続く中、韓国ドラマにハマる男性が急増中なのだ。「最初はどうかなと思っていたら知らぬ間に沼落ちしていた」「妻につき合い見ていたら、どっぷりファンに」といった声も続々と聞かれる。
数ある韓国ドラマ、今回は動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信中の作品の中から男性がキュンとときめく恋心を描いた3作をご紹介しよう。
最初にご紹介するのは、『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』(2018年)だ。
韓国JTBCにて2018年3月30日から5月19日に公開されたドラマで、2018年の韓国でもっとも話題になったドラマ1位に選ばれている。主人公は、30代独身の女性。見た目も性格も悪くないのに、仕事も恋も何かうまくいかない。そんな女性の前に、仕事で海外滞在していた親友の弟が帰国し再会したことで今まで感じなかった感情がふたりの中に目覚め、恋落ちていく・・・ストーリーの概要だけを聞くと、ありきたりのストーリーに思うかもしれないが、いやいや、大違いなのだ。
主演は、人気女優のソン・イェジン。そう、あの『愛の不時着』(2019年~2020年)の主演女優だ。"不時着"では、ちょっとわがままな財閥令嬢役が魅力的だったが、この作品では中流家庭の標準的な生活をする30代女性・ジナを演じている。そして、年下の男性との恋愛がなんともリアルなのだ。
韓国ドラマというと、突拍子もない設定も多いが、この作品は韓国社会の現実を美しい映像とともに描くことで定評があるアン・パンソク氏が演出を担当している。前半は互いの気持ちに気づきながらも、それを表に出していいのか揺れる心理に、まるで自分が当事者のように、「ここで手を握るべきか、あぁぁ・・・」とやきもきさせられる。姉弟的な近しい関係が故に、周囲に悟られないように秘密に進む恋。秘密であればあるほどふたりの気持ちは抑えられないところまで高まっていく。途中、母親の反対など日本よりも厳しい親との関わりに少しビクついてしまうところがあるかもしれないが、それでもふたりの恋の行方から目が離せなくなってしまうのだ。
イェジンの相手役はこのドラマで「国民の年下男子」と称されるようになったチョン・ヘイン。韓国でも彼に自分を投影する男子が続出した。ヘイン演じるジュニが、ジナをなんとも甘える感じで「ヌナ(お姉さん)」と呼ぶ姿に憧れを抱く人が多かったのだ。"ヌナ"という言葉は単に姉弟間で使用や年上の女性に対して使うだけでなく、好意がある女性に対してちょっと甘える気持ちを含めて使うことが多い。「自分も『ヌナ~』といいながら抱きしめる人がほしい」「ヌナ、ヌナとつぶやきながら眠ります・・・」「まるでジュニが自分のように思えて、辛くて涙が出てしまった」なんていう男性のコメントが放映中ネットに踊ったのだ。
私の周りにいる日本の男性たちの中にも『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』にハマり始めている人は多い。話を聞いてみると、「"不時着"よりもラブシーンがリアルで投影しやすい。キスするときのイェジンの表情がとにかく魅力的」「年下が故のジレンマや男の不甲斐なさに、過去の恋愛を思い出して心が痛くなった」「韓国ドラマのイメージが変わるほど、使われている音楽や映像が美しくて驚いた」といった声が上がった。とにかくラブシーンも多く、イェジンのセクシーでかわいい姿も見逃せないのだ。
韓国でも「死んでいた恋愛細胞を覚醒させる作品」と称されたが、イェジンファンはもちろん、最近ときめいてないな、という人にぜひとも見てもらいたい作品だ。
そして、次におすすめしたいのが、『刑務所のルールブック』(2017年)だ。
刑務所なのに、恋愛? と思う人もいるだろう。実際に、このドラマは恋愛ドラマではない。かといって、刑務所の荒くれ者を描いたバイオレンスドラマでもない。さまざまな過去や罪を背負い刑務所で暮らす受刑者と刑務官たちの人間ドラマを描いている。なんて書くと、シリアスなドラマと思いがちだが、新しい韓国ドラマの筆頭とされる『応答せよシリーズ』や白い巨塔感なく、医師の普通の生活をユニークに描いた『賢い医師生活』(2020年)を制作したシン・ウォンホ監督が手がけているだけあって、笑い多め、涙もある、男性にはめちゃくちゃ楽しめる作品だ。
主人公は、メジャー行きが決定していた韓国プロ野球界のスーパースター、キム・ジェヒョク(パク・ヘス)選手が、事件を起こすところから始まる。暴漢に襲われた妹を助けようと格闘の果て、暴漢に重傷を負わせ、まさかの実刑判決が下ってしまうのだ。突然の不幸に絶望しながらも、持ち前の飄々としたキャラクターが幸いして、キム・ジェヒョクは刑務所の中で、受刑者や刑務官たちと不思議な絆で結ばれていくのだ。
しかし、ひょうひょうとしながらもメジャー行きが絶たれ、選手生命も危うくなったキム・ジェヒョク。感情を表に出さない彼が唯一、本音を出せるのが、元カノのジホ(チョン・スジョン)の存在だ。スーパースターの面影すらなくなってしまうほど恋愛にはとことん疎いキム・ジェヒョクと気が強く情熱的なジホ。アクリル板を挟んで会うことしかできないながらも、ふたりの過去の恋模様や大切に思う気持ちが丁寧に描かれていく。紆余曲折ありながらも、支えるとはどういうことなのか、ふたりの恋愛の成長記も描かれているのだ。
女性からは「バカがつくほどまっすぐなキム・ジェヒョクの愛情は、笑ってしまうことも多いけど、あんな人に愛されたいと思う女性は多いと思う」という声も多い。恋愛下手な人にこそ、ぜひともみてほしい作品なのだ。
最後にご紹介するのは、2006年に韓国で放映された『雪の女王』だ。
『愛の不時着』で一途に愛する人を守り通す北朝鮮将校を演じたヒョンビンの悲恋ドラマだ。"不時着"では、非の打ち所がない将校を演じていたが、このドラマのヒョンビンはちょっと暗い。
韓国の名門中の名門・韓国科学高校で天才的な数学の才能を発揮していたハン・テウン。しかし事件から、夢も希望も捨て、名前もハン・ドックと変えて生きることを決めたテウン。潰れそうなボクシングジムのスパーリングトレーナーとして世捨て人のように生きている。そんな彼はある日、ひとりの美しい財閥令嬢のキム・ボラ(ソン・ユリ)と偶然出会う。恵まれた環境であるにもかかわらず、ヒステリックに怒鳴り散らすボラ。しかし、それは単なるわがままではなく、彼女自身も絶望を背負っていることが次第にわかっていく。最初は対立する二人だが、希望が持てないもの同士、次第に惹かれあっていく。しかし、ふたりには過去のさまざまな問題が複雑に絡み合っていたことが次第にわかっていく、というストーリーだ。
ストーリー自体は、先に紹介した2作に比べると従来の王道韓国ドラマの印象は強い。実は放映当時は、似たような設定の作品が続いたため、思ったほど視聴率が伸びなかった。が、"不時着"ヒットから、ヒョンビン作品に行き着き、新たに見た人たちから「メチャクチャ泣けた」「泣きでは"不時着"以上」という声が増えているというのだ。これは個人的に驚いたことだが、男性からも泣けたという声が多いというのだ。
さらに、このドラマには男性萌えするポイントが別にもある。
私はこの作品が放映されていた当時、仕事で頻繁に渡韓していた。そのとき、男性たちからもこんな声をよく聞いた。「『雪の女王』で、ボラがテウンに言う"オッパ~(お兄さん)"って言い方がメチャクチャかわいい。あの語尾の伸ばし方、一度でいいから言ってほしい」という、"オッパ~"話だ。先に紹介した『よくおごってくれる―』では、男性が年上の女性にいう"ヌナ~(お姉さん)"にこだわりがあるといったが、もうひとつ韓国男性にとって欠かせないのが、年下の女性から言われる"オッパ~"だ。こちらも単なる兄という意味ではなく、恋人同士はもちろん、好きな年上の男性に女性が少し甘えていうときなどにも使用される言葉だ。以前、韓国全土を取材・撮影で巡った際に、夜食事の席で、現地の男性スタッフたちが、「釜山の女性に『オッパヤ~』と言われると、なんともいえずうれしくなる」「わかるわかる!同じオッパでも方言や言い方で感じ方は変わるよね~」と熱く話しているのがとてもおもしろかった。
このドラマは方言は使っていないが、とてもかわいい言い方で"オッパ~"という。そんなところもチェックしながら、ぜひ韓国男子の萌えポイントなども感じてもらえればと思うのだ。
(文・伊藤まなび)
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『雪の女王』(C)2006 YOON'S COLOR