【ネタバレ】『わたナギ』癒し現象に見る、今求められる理想のおじさん像

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【ネタバレ】『わたナギ』癒し現象に見る、今求められる理想のおじさん像
【ネタバレ】『わたナギ』癒し現象に見る、今求められる理想のおじさん像

真面目な人ほど自分を追いこむ。優しい人ほど自分が許せなくなる。『私の家政夫ナギサさん』(TBS系/毎週火曜22:00~)が今こんなに人気を呼んでいるのは、現代を生きる頑張り屋さんたちを温かく受け入れてくれるからだろう。それこそお母さんのように。

心が壊れてしまった人を救えなかった人への"救い"

第7話で、ついにナギサさん(大森南朋)の隠されていた過去が明らかとなった。仕事に邁進するあまり、心を壊してしまったかつての同僚・箸尾さん(松本若菜)。そして大好きなお母さん(岩本多代)。そのどちらも、仕事に忙殺されるあまり、いちばん大事なタイミングにそばにいてあげられなかった。そのことが、ずっと良心の呵責となってナギサさんを苦しめてきた。

頑張りすぎるのはよくない。今、社会全体がそういったメッセージを積極的に発信しようという流れになっている。それだけ頑張りすぎる人たちがいるからこそなんだけど、この第7話の良かったところは、その一歩先。頑張りすぎて心を壊してしまった人の周りにいた人たちにまで目を向けられていたことだと思う。

特にナギサさんのように心の優しい人ほど、何かできたんじゃないかと自分を責めてしまう。罪の意識を背負いこんでしまう。もちろん周りのケアが救いになるときはある。追いつめられている人のシグナルを見落とさない体制づくりは重要だ。でもだからと言って、自罰的になってしまっても、誰も救われない。ナギサさんの涙を描くことで、手を差し伸べられなかった人たちの救済を描けたところが、このドラマのオリジナリティになったんじゃないだろうか。

自分のことをダメだダメだと思って生きるのはやめよう。もっと自分を許してあげよう。自分で自分を幸せにしてあげよう。『私の家政夫ナギサさん』からは一貫してそんなメッセージが伝わってくる。今日やっとナギサさんは自分を許してあげられた。きっとここからまたナギサさんの生き方は変わっていくだろう。

ナギサさんと箸尾さんの問題は今回で解決したが、仕事への情熱に燃えはじめたあかり(若月佑美)に次なる黄色信号が灯っているような気も。このあたりをどう描いていくはまた次回以降の楽しみになりそうだ。

ナギサさんは、おじさんにはこうあってほしいという願望の集合体

今、この『私の家政夫ナギサさん』を筆頭に、ドラマ界はちょっとした"おじさんブーム"だと言われている。だが、これは実際に私たちが生きる現実とは対照的で、むしろ今、「おじさん」という概念は旧態依然とした価値観や、既得権益、前時代的な人権感覚の象徴となっていて、ちょっとした社会悪として見なされている傾向がある(以降、こうした概念としての「おじさん」に関しては「」付きで表記をする)。

職場で起きるセクハラ/パワハラや、痴漢などの性被害、あるいは駅構内などで女性にだけわざとぶつかってくる「ぶつかりおじさん」など例を挙げればキリがなく、多くの人たちが「おじさん」という概念に辟易としている。

そんな中で、ナギサさんに心を癒されるのは、ナギサさんに「男性性」を感じないから。他者に対して性的な視線を向けないし、凝り固まったジェンダーロールに根ざした発言もしない。メイ(多部未華子)のことを若い未熟な女性と見なすのではなく、ひとりの自立した成人として見てくれる。こう書くとどれも当たり前のことなんだけど、その当たり前のことがなかなかできない「おじさん」が世の中に多いから、私たちはナギサさんになら心を許せる。ナギサさんは、おじさんにはこうあってほしいという願望の集合体なのだ。この描写に、ナギサさん人気の理由がある気がする。

実際、第7話のラストでメイはナギサさんにハグをするけれど、それは仲良しのお母さんに対してするようなハグで、メイはナギサさんに「男性性」をまったく感じていないことがわかる。今のところメイを取り巻く男性の中で、メイがいちばん心を開いている相手はナギサさんであることは間違いない。だが、はたしてナギサさんに「男性性」を感じ取ったとき、メイの気持ちはどう変わるのだろうか。

瀬戸康史が、かつての東幹久ポジションになってきた

そして、田所さん(瀬戸康史)に関しては残念ながら完全な当て馬コースに入ってきた。『パーフェクトワールド』(2019年/フジテレビ系)でも報われない片想いに振り回される青年役がばっちりハマっていた瀬戸康史だけになんとなく予想はしていたけれど、もうキャスティングされただけで瀬戸康史は最終的にヒロインと結ばれないイメージが定着してきた感がある。これはもうかつての東幹久ポジション。せっかくならこのまま当て馬として邁進してほしいところだけど、メイと田所さんの恋に可能性はあるのか。

とりあえず今回は

【1】おそらく散らかっている状態なんだろう玄関をメイに見られそうになって、「お○※↓〒%@さい!」と何語かわかんない挨拶で家の中に引っ込んだところ(かわいい)

【2】せっかく一発でグリーンに乗せられたのに、メイが全然見ていないところ(かわいそう)

【3】メイがナギサさんに抱きつくところを偶然目撃してしまったところ(定番)

が最高でした。あんだけ手にマメをつくるなんて、相当ゴルフの練習をしたはずだろうに、全然報われていないところが瀬戸康史の真骨頂。今のところまったく勝算のなさそうなメイと田所さんの恋模様だが、実は逆転の一手がまだ残されている。

それが、田所さんもおそらく片付けられない人間であること。田所さんが家事が苦手であることは、これまで何度もチラつかせていたので、ほぼ確定だと思う。ゴルフの練習の描写から見るに、決して田所さんは器用な人間ではないのだろう。ただ、頑張ればなんでもできるのでそう見えていただけで、根は決して完璧人間ではない。

そもそもメイがナギサさんに癒しを感じているのも、ナギサさんといるときはダメな自分でもオッケーだから。完璧主義のメイにとってそれは特別で、その居心地の良さがナギサさんへの親しみに変換されている。逆に言うと、田所さんといるときにまだギクシャクしているのは、どうしてもよそ行きの自分を見せなければいけないから。

もし田所さんが本来の自分らしさをメイの前で見せることができたとしたら、メイもまたダメな自分を見せられるんじゃないだろうか。ふたりの恋は、そこからがスタートのはず。今のところ10馬身くらいナギサさんにリードされているこの恋のレース。田所さんが当て馬で終わるかどうかもまた、ダメな自分を許してあげることにあるのかもしれない。

(文・横川良明/イラスト・まつもとりえこ)

【第8話(8月25日[火]放送)あらすじ】
メイ(多部未華子)とナギサさん(大森南朋)の親密な様子を目撃した田所(瀬戸康史)は、二人が親子ではないと確信。
ナギサさんに核心を突く問いを投げかける。すると、ナギサさんは田所を伴い、メイの部屋へ・・・。
ナギサさんの表情から状況を察したメイも観念して、田所にこれまで隠し続けていたヒミツを告白することに。
そんな中、天保山製薬ではこれまで経験したことのない症例の問題が発生。メイは田所に相談を持ち掛ける。
一方、ナギサさんは唯(趣里)から「ナギサさんに本社への異動の話が出ている」と聞かされ、思わず動揺してしまい・・・。

◆番組情報
『私の家政夫ナギサさん』
毎週火曜22:00からTBS系で放送
地上波放送後に動画配信サービス「Paravi(パラビ)」でも配信。
またParaviオリジナルストーリー『私の部下のハルトくん』も独占配信中だ。