こんな時だからじっくり見たい 野木亜紀子ドラマ(3) 『アンナチュラル』

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こんな時だからじっくり見たい 野木亜紀子ドラマ(3) 『アンナチュラル』
こんな時だからじっくり見たい 野木亜紀子ドラマ(3) 『アンナチュラル』

間もなく始まる新ドラマ『MIU404(読み:ミュウ ヨンマルヨン)』(TBS系)に向けて、脚本・野木亜紀子の過去作品をフィーチャー。特集の最後を飾るのは、2018年1月期に放送された『アンナチュラル』(TBS系)だ。

塚原あゆ子監督、新井順子プロデューサーという『MIU404』と同じチームで挑んだ完全オリジナル作品。多くのドラマ好きを唸らせた理由はどこにあるのか。その真価を改めて語ってみたい。

面白さの極限に挑んだエンターテイメントドラマの決定版

本当に面白いドラマは、決して安易に消費されない。いかなる経年劣化にも負けず、いつ観ても、何度観ても損なわれない輝きを放っている。野木亜紀子の『アンナチュラル』は、まさに古びることも錆びることもなく、多くの人を夢中にさせる強度を持った作品だ。

主人公は、架空の研究機関である不自然死究明研究所(通称UDIラボ)で働く法医解剖医・三澄ミコト(石原さとみ)。先進国の中で最低水準という日本の解剖率を改善するべく設立されたUDIラボで、ミコトはさまざまな遺体と向き合いながら、その死の謎を解明する。

この『アンナチュラル』は、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)が大ヒットを記録し、注目の脚本家として名を高めた野木亜紀子による待望のオリジナル作品。野木にとって挑戦作であり、野木の持つエンターテインメント性とジャーナリズムが唸るようなバランスで両立した、法医学ミステリーの最高峰だ。

まずはそのエンターテインメント性についてだが、第1話の時点で完成度は群を抜いていた。UDIラボに運び込まれた一体の男性の遺体。虚血性心疾患(心不全)という警察の見立てに疑問を持った遺族は、本当の死因を究明してほしいと懇願する。

解剖の結果、急性腎不全の疑いが浮上。薬毒物死の可能性を探るべく、ミコトらはさらに詳細な調査に取りかかる。その中で浮かび上がったのが、第一発見者の馬場路子(山口紗弥加)だ。彼女は死んだ男の恋人であり、劇薬毒物製品の開発者だった。痴情のもつれによる毒殺か。そんな疑惑が錯綜する中、新たな事実が判明。男は死の直前にサウジアラビアへ出張に行っており、そこでMERSコロナウイルスに感染したことから死亡したことが明らかとなるのだ。

ひとりの男の突然死が、日本中を揺るがすパンデミックへ発展。相次ぐバッシング。広がる混乱と恐怖。まさに現在の日本の状況にそっくりな光景が、画面の中で繰り広げられる。だが、事件はここで終わらなかった。恋人・馬場路子の証言によって明らかになる、さらなる真実。その裏側に眠る日本特有の隠蔽体質。わずか60分の間に二転三転するストーリーに、誰もが釘付けになるはずだ。

以降も、甲乙つけがたい「神回」の連続。ミコトと久部六郎(窪田正孝)が冷凍車に閉じ込められる第2話はスリルと恐怖で身がすくみ、第7話の殺人中継は最後の最後まで目が離せなかった。一方で、第4話の過労死や第5話のラストなど号泣必至の展開も多く、その感情の振り幅の激しさに観終わったあとは思わず呆然としてしまうほど。

やがて物語はUDIラボの法医解剖医・中堂系(井浦新)の死んだ恋人の事件へと収斂していく。誰が中堂の恋人を殺害したのか。迷宮入り寸前の難事件に、法医学という観点から立ち向かうミコトたち。終盤は、思わず喝采をあげたくなる巧妙な伏線の連続で、日本のドラマの水準を一段上へとアップデートする野木の脚本術にはため息が漏れるばかり。その軽妙な台詞。練り込まれた構成。スピーディーな展開。まさにエンターテインメントドラマの決定版と呼んでも過言ではない圧倒的なクオリティだ。

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エンタメの中にひそむ野木の社会に対する真摯な眼差し

しかも、ただエンタメとして消費されない強さを『アンナチュラル』は持っている。その秘密が、作品に通底する野木のジャーナリズムだ。第1話では、死んだ男の両親が、感染症の自覚症状がありながら息子が出勤したことに対して「子どもの頃から私は、風邪ぐらいで学校を休むなと、我慢強い男になれと、そう言い聞かせて育てました」と悔いる。短いやりとりだが、根性論のはびこる日本の体質への野木の批判精神が見える台詞だ。

また、第3話でミコトは女性蔑視の強い検事・烏田守(吹越満)と対決する。綿密な鑑定のもと、凶器の矛盾を指摘するミコトに対し、烏田はベテラン大学教授の権威と実績で対抗。「責任転嫁は女性の特徴です」「神聖なる司法の場が、女性の気まぐれで振り回されるとは由々しき事態です」など差別的な発言を繰り返す烏田に反論するや、ミコトは「ヒステリー女法医学者」とマスコミの餌食に。当時、日本でも「#MeToo運動」が広がりを見せる中、いち早くフェミニズムを取り入れたところに、野木のジャーナリスティックな視点が光る。

世にはびこる不条理を一蹴し、合理的かつフラットな価値観へと鮮やかに塗り替える野木のスマートな脚本に、多くの人が共感を覚え、勇気をもらった。『アンナチュラル』が数々の賞に輝いたのは、優れたエンタメでありながら、こうした鋭いメッセージ性を秘めていたからに他ならない。

この駆け抜けるような面白さは、まさしく本物。まだ観たことがない人には、一も二もなくオススメしたい。日本のドラマはこんなに面白いんだと鼓舞される第一級のエンターテインメントだ。

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この春の新ドラマ『MIU404』は、制作チームから考えても『アンナチュラル』のDNAが色濃く継承されていることが予想される。舞台は、「機動捜査隊」。この一般的には馴染みの薄い特殊な舞台設定を借りて、野木が今の世の中にどんなメッセージを放つのか、期待は膨らむ一方だ。野木脚本の魅力を改めて堪能しながら、『MIU404』の放送開始を楽しみに待ちたい。

(文・横川良明/イラスト・月野くみ)