日経電子版、日経産業新聞と連動してイノベーティブな技術やベンチャーを深掘りする、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」オリジナル番組の「日経TechLiveX」。PlusParaviでもテキストコンテンツとしてお届けする。
AI研究の第一人者と気鋭の経済学者をゲストにAIを議論するスペシャル企画。最終回は、グーグルやFacebookに対抗できる「日本発プラットフォーマー」を創るための具体策を考える。新時代のAIスタートアップを次々と生み出す「松尾研究所」への直撃取材も。
瀧口:こんにちは。日経CNBCキャスターの瀧口友里奈です。そして、私と一緒に司会進行していただくのは、日本経済新聞編集委員の奥平和行さんです。奥平さん、よろしくお願いします。
奥平:よろしくお願いします。
瀧口:さて、前回に引き続き今回は4回目となります。『AIウォーズ ニッポン復活の未来戦略~グーグル、FBに勝つ秘策~』というテーマでお送りしていきます。
奥平:これまでの3回でいろいろなお話を伺いました。前回はAIウォーズに対して日本企業、日本社会がどう立ち向かっていくかということで、キーワードをご紹介していただきました。現状、(日本は)負けが込んでいて悲惨だというお話で終わってしまいましたが、最後となる今回はどうしたら持ち直すことができるかをテーマに、前回ご紹介いただきましたキーワードの続きからお話を伺いましょう。どちらからご紹介しましょうか。
安田:では一緒に。
奥平:安田さんは「AIとものづくりのマッチング」。松尾さんは「熟練の眼のスコア化」と「中心作業の自動化」ですね。さらに議論を深めていきたいと思います。どちらからお話していただきましょうか。
安田:ではマッチングのお話に行く前に、日本企業がなぜ負けが込んでしまったのかという要因分析からお話しさせてください。こちらのモニターをご覧いただけますか。(日本は)バブル崩壊以降、失われた10年、20年、下手したら30年近くになってしまいましたが。
奥平:ロストディケイドと言われていますが、ディケイドが複数形になってしまいましたね(笑)。
安田:経済学者の間でも様々な見方があるのですが、自分の見立てとして比較的分かりやすいのがこちらのグラフですね。上の「低賃金」の部分から見ていきましょう。日本の労働市場というのは、長時間労働があり労働分配率が低いため、時間当たりで見ると非常に賃金が低い状態になっています。これが右側の資本投資減少に移っていきます。
賃金が低いということは、人を雇うコストは安いわけです。何かを生産する時に人を雇うか、資本設備にお金をかけるかのどちらを取るかという時には投資が減ってしまう。安い優秀な労働力が手に入るのであればそちらを使おうという発想になってしまいますね。これによって投資が減ってしまう。投資が減った時に何が起こるかというと、需要面では投資需要の低迷はGDPにもマイナスの影響を与えますし、金利も当然下がってきます。投資する人が少なければ資金需要がない。こういった兆候が日本経済に現れていたわけです。
それ以上に深刻なのが供給面で、技術革新が低迷してしまいます。なぜかというと、イノベーション、技術革新というのは、とにかく投資をしていき、10回試して1個、2個上手くいけばそれが次の生産性を上げていくという世界なので、投資をしないとそもそもイノベーションの芽がなかなか出てこない。ここが10年、20年と(日本が)ずるずる行ってしまった決定的な要因ではないかと考えられます。
さらにサイクルをたどっていくと、資本投資が減少すると、労働の限界生産性も減少する。これは工場をイメージしていただくと分かりやすいと思いますが、同じ労働者の人数でたくさん機械がある工場と、少ししかない工場では、労働者一人当たりの生み出せるアウトプットが、当然機械がたくさんある工場の方が多い。投資が減ると労働者の貢献度も同時に下がってしまう。(貢献度が)下がると何が起こるかというと、「お前はたいして生産していないから、賃金を下げるぞ」とますます賃金が下がります。そうすると上の低賃金に戻り、負のサイクルが回り続けることになってしまいます。
奥平:まさに負のスパイラルですね。
安田:これが過去日本で多く起きていたのではないかと思います。ただ、通常はこのようなサイクルが続くと、どこかで終わります。具体的に言うと、安い労働力というのはどこかで枯渇します。ところが日本はなかなか枯渇しなかった。なぜだか分かりますか?
瀧口:なぜですか。
安田:非正規雇用です。
奥平:なるほど。
安田:例えば従来専業主婦だった人や、シニア層の再雇用制度で入ってくる方たちというのは賃金が安い。そういった人たちが(労働力を)補ってくれていたので、人口が減っても(日本の)安い労働力というのは枯渇しなかった。ところが最近になっていよいよ枯渇し始めた。