日経電子版、日経産業新聞と連動してイノベーティブな技術やベンチャーを深掘りする、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」オリジナル番組の「日経TechLiveX」。PlusParaviでもテキストコンテンツとしてお届けする。
若者、ITばかりが注目されがちなスタートアップの世界で、シニア起業家の存在感が高まり始めている。企業戦士時代に蓄積した技術力や人脈を生かし、かつてなしえなかったイノベーションを自ら興した会社で実現しようという若々しい挑戦が注目を浴びる。フィルム状のハイドロゲルを利用し、土耕でも水耕でもない栽培法で農業に革命を起こすメビオール。植物由来の成分とスーパーナノ粒子の技術で白髪を黒くする新ヘアケア商品を開発したNIL。両社のトップに自慢の新技術の秘密と将来性を聞く。
瀧口:こんにちは。日経CNBCキャスターの瀧口友里奈です。そして、私と一緒に司会進行していただくのは、日本経済新聞編集委員の奥平和行さんです。奥平さん、よろしくお願いします。
奥平:よろしくお願いします。
瀧口:この番組はこちらの日経産業新聞、日経電子版と連動して、革新的なテクノロジーや今後成長が見込まれるスタートアップ企業に迫る「日経TechLiveX」です。この番組はParaviのオリジナルコンテンツとしてお届けしています。
さて、早速ですが今回のテーマです。今回のテーマは『経験は力なり!シニア起業家が挑む技術革新』と題してお送りします。
奥平:起業というとインターネットの分野が比較的目立っていて、特にシリコンバレーを見ると学生起業など若い人が多いような気がしますが、実は現地でも40代、50代の方が結構多いです。意外だと思いますが。
瀧口:そうなんですか。
奥平:日本でもシニア世代の起業が増えてきているというお話がありまして、今日はシニア起業家の方にお話を伺いたいと思います。
瀧口:それでは早速ゲストをご紹介いたします。まずはメビオール株式会社代表取締役で会長の森有一さんです。森さんよろしくお願いします。
森:よろしくお願いします。
瀧口:森さんは現在76歳でいらっしゃいます。東レ・テルモ・アメリカの W.R.グレースなどの大企業を経て1995年に独立。メビオールを立ち上げました。
奥平:メビオールはもしかしたら世界の農業に革命を起こすかもしれない技術を持っていると伺っております。この後詳しく伺いたいと思います。よろしくお願いします。
瀧口:そしてもう一方です。株式会社NIL代表取締役社長の佐藤幸蔵さんです。佐藤さん、よろしくお願いします。
佐藤:よろしくお願いします。
瀧口:佐藤さんのお年は69歳でいらっしゃいます。40年近く勤めた富士フイルムを4年前に退社され、スタートアップを立ち上げました。
奥平:今回は皆さんの年齢がご紹介に含まれていますね。
瀧口:そうですね(笑)。
奥平:佐藤さんはナノ技術を使った、白髪を黒くするヘアケア商品が注目を集めているということですね。私もポツポツ白髪が出てきましたので、個人的にも非常に興味があります。よろしくお願いします。
瀧口:実はお二人とも工学博士で会社は同じ神奈川県にあるということですが、元々面識はありましたか?
森:ありませんね。
佐藤:今日初めてです(笑)。
瀧口:そうでしたか。
佐藤:ただ私は森さんが開発した製品のことは存じ上げておりました。
瀧口:そうなんですね。それではキーワードに沿って進めていきたいと思いますが、一つ目のキーワードはこちらです。「土は不要"フィルム農法"とは?」ということで、まずは森さんの技術のご紹介です。アイメックと名付けられた農法ですが、今日は実際に森さんに実物を持ってきていただきました。
森:こちらがフィルムです。サランラップみたいなものですね。
奥平:パッと見たところ、普通のビニール袋のようですね。
森:ちょっとお皿に入れて持ってきたんですが、ご覧になれますか?レタスがフィルムの上に育っています。
奥平:これは今裏から見た状態ですね。根がぎっしり張っていますね。
森:レタスがぴったりフィルムの表面にくっついて、この下に肥料溶液があります。ここに置いていくと、このフィルムが肥料溶液を吸うんですね。こちらが吸う前のものです。結構硬いでしょう?
奥平:触ってみてもいいですか?
森:どうぞ。
瀧口:パリパリした音がしますね。
森:吸うとこのように柔らかくなります。これはハイドロゲルといいます。
奥平:ソフトコンタクトレンズのようですね。
森:まさにコンタクトレンズの素材です。
瀧口:すごく柔らかくて。サランラップよりしっかりした素材という感触ですね。
森:(フィルムを使うと)非常に栄養価の高い野菜ができます。
瀧口:では実際に画像で説明させていただきたいと思います。フィルムはナノサイズの穴が無数にあいた、非常に細かい網目構造になっています。水や養分は通しますが、害虫や病原菌は通さないということです。
森:これは私が東レに勤めていた時に、透析膜という人工腎臓がありまして。腎臓がダメになると血中にアンモニアや尿素がたまって肝性昏睡で死んでしまいますので、(予防のために)血を洗う装置です。そのフィルムを開発していました。
奥平:その技術の応用というわけですね。
森:(フィルムを通す)サイズを厳密にコントロールするという技術です。ある時水耕栽培に行ったら植物が枯れているんですよ。この(透析膜の)技術を使えば絶対大丈夫だろうということで、このような形で展開しました。
瀧口:先ほどもおっしゃっていましたが、土が必要ない、水耕栽培する必要がないという以外にも、もっとすごい利点があるんですよね。トマトが非常に甘くなるということで、こちらに試食用のトマトをご用意しました。アイメックで作られた甘いと噂のトマトです。
森:(トマトの)糖度が9くらいありますかね。
瀧口:ではいただきます。ん~、甘いですね。
森:普通のトマトの倍くらいの甘さです。
奥平:これくらい甘いと果物みたいですね。
瀧口:フルーツトマトと言われる理由が分かりますね。
佐藤:私はどちらかというとトマトは苦手なのですが、これなら喜んでいただきます。
奥平:トマトも作っていらっしゃるんですか?
森:いえ、我々はフィルムとシステムだけを作っております。
奥平:ではこのトマトは、どこか(森さんの)システムを使ってらっしゃるところで作られたと。
森:おっしゃる通りです。今日お持ちしたのは、去年からやっている吉川ファームさんで作られたトマトです。
奥平:森さんの会社の事業規模や売上はどれくらいですか?
森:全社員が私を入れて7、8人です。直近の売上が3億4,000万円で、利益が6def_canm400万円くらいですね。小さい会社ですが、フィルムはOEM(受託製造)で作らせていますし、我々は非常に小さな所帯でやっておりますので苦しくはないですね。6、7人の従業員でできます。
瀧口:他にも野菜や果物がある中で、なぜトマトを作ろうと思われたんですか?
森:私は東レ、テルモ、アメリカの会社でずっと医療関係の仕事をしてまいりまして。トマトって一大産業なんですよ。世界中で作られています。例えば中国は日本の50倍作っています。
奥平:50倍も作っているんですか。人口比よりも多いですね。
森:人口比だと10倍ですよね。50倍です。ですからそういう意味では、トマトというのは非常に大産業、世界的な産業です。私は自動車産業に匹敵しているのではないかと思っています。そういう狙いがあって、トマトを始めました。