事前勉強は必要なし、サンキュータツオ『渋谷らくご』で価値観を広げたい

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事前勉強は必要なし、サンキュータツオ『渋谷らくご』で価値観を広げたい
事前勉強は必要なし、サンキュータツオ『渋谷らくご』で価値観を広げたい

初心者でも気軽に"落語"を楽しめる場として、毎月第二金曜から5日間、渋谷のユーロスペースにて開催されている「渋谷らくご(通称:シブラク)」。落語文化を広めるべく、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」が毎週「ぷらすと×Paravi」の中で生中継するなど、新たな試みも取り入れられている。本インタビューでは、イベントのキュレーターであるサンキュータツオ氏に今ならではの「落語の楽しみ方」や、自身の注目ポイントなどを聞いた。今回はその後編。

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――「渋谷らくご」の特徴的なものとして、もう一つ、プロモーション手法が挙げられると思います。ポッドキャスト、SNSなどをどう位置づけられているのでしょうか。

既存の落語ファンを奪い合うよりは、新しい人たちを開拓し、潜在的に落語に興味を持っている人たちに訴求したかったので、まずはWebだ、と。お金がなかったので、Web媒体で勝負するしかなかったというのもあります。僕自身も、ポッドキャストで世に出た人間だと思っているので、やはりそういう媒体を使って、まずは存在を知ってもらわないといけないと思いました。最初の頃は、潜在的に落語に興味がありそうなフォロワーを抱えている方にトークゲストに来ていただいて、実際に足を運ばないまででも、渋谷で「落語会」をやっていることを知って欲しかったので、積極的に他ジャンルの文化に興味がある人たちを招いて、告知の協力してもらうところから始めました。

それは、今までの落語界にはなかったプロモーション方法だったと思います。人気のある落語家さんを集めてチラシを撒けば、お客さんは来てくださるというのが既存の落語会の在り方でした。でもそのやり方だと、既存のパイの奪い合いになるだけですから、落語ファンの取り合いをするよりは新規開拓を目指してきました。今も、月に何回も落語を観るという方はごく一部なので、半年に一回、むしろ人生で一回だけでも、落語に来た以上はいい体験をしてもらうことを目標にしています。どのタイミングで次に繋がるかもわかりませんが、落語おもしろかったよね、という印象を最初に持ってもらう。最初に落語会に足を運ぶまでの背中を押す存在になれればと思っています。

――「渋谷らくご」で落語デビューする方も多いと思うので、楽しみ方の一部をレクチャーいただければ。

古典芸能というと、肩ひじ張ってしまいそうなイメージがあるかもしれませんが、落語に関しては、事前の勉強などがほぼ必要ない芸能です。ですから、まったく勉強せずに観に来られても楽しめます。逆に、勉強しないで来てもらいたいですね。

最も重要なのは、演者さんがしゃべっている言葉を聞いて、想像するということ。入門本などもありますから、それを読まないと理解出来ないと思ってしまいがちかもしれませんが、全然そんなことはないです。「渋谷らくご」を、興味を持つ一歩にしてもらって、足を踏み入れて世界を広げるその手助けになる存在にしてもらえたらいいかなと思います。

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――「渋谷らくご」は、配信などでも観ることができますが、それについては?

基本的に音声メディア、映像メディアというのは、その経験を持つ人が実際に行けなかった時に保管するような意味の媒体であって、入口の媒体ではない気がするんですよ。映像を観るのと実際目にするのでは、情報量や環境もまったく違いますから。料理番組を見るのと、実際に食べるのとでは全然違いますよね。音だけでなく、演者さんによっては眉毛の動き一つも大きな情報になっています。映像では、"逃げられない"という状況でその世界に「浸る」「想像する」ことは難しいと思うんですよね。

テレビで落語の放送を観ていると、目の前にいろんなものがあるじゃないですか、家族がいたり、食べ物があったり、チャンネルを変えることも出来てしまう。録画していたら、ストップしたり、見直したりも出来る。そうではなく、逃げ場のない環境で、本当に集中して聞くのは、劇場でしかできない体験です。これは、お芝居を観に行くこと、ミュージカルを観に行くことと同じです。生ものは圧倒的に情報量が違います。こればっかりは実際に観に来ていただかないとわからない。ですから、配信しか観たことがない方は、ぜひ一度劇場へ足を運んでいただきたいですね。

――実際にご覧になった方が自分の目で見つけるのが一番だと思うのですが、今、タツオさんが注目しておいた方がいいと思う二つ目、真打ち、師匠をご紹介いただけますか?

二つ目は、結構いらっしゃいますね・・・。まずは、講談ですと神田松之丞(かんだ まつのじょう)さん。瀧川鯉八(たきがわ こいはち)さん、春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)さん、立川吉笑(たてかわ きっしょう)さんというところでしょうか。

とっつきやすくイケメンから入りたいという方は、昇々さん、柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)さんとかがいいと思いますし、映画がお好きな方には鯉八さんがおすすめです。ゴリゴリの古典聞きたいという方には柳亭市童(りゅうてい いちどう)さんを聴いてほしいなあ。
真打ちに関してはたくさんいますが、「渋谷らくご」の心臓という意味では、隅田川馬石(すみだがわ ばせき)師匠。馬石師匠は40代ですから、これからの30年は希望しかない。そして、橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)師匠、橘家圓太郎(たちばなや えんたろう)師匠という、これからキャリアの仕上げに入る50代の師匠、これらは外せないでしょう。

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――今後、「渋谷らくご」をどのように発展させていきたいとお考えですか?

「渋谷らくご」については、まだまだお声をかけていない真打ちや二つ目がいらっしゃるんですが、既存のシーンで評価されていない人たちを世に出せた感はあるので、今後は、「渋谷らくご」の文脈にのせてより輝く方などに出ていただくことも含めて、継続して新たな評価を得るようにしたいですね。昔の姿も知っている落語ファンも気がつかなかったような魅力が、この「渋谷らくご」を通して発見できるような、そういう価値観は提案していきたいです。本当にいい落語家さんが増えているので。キャリア的には二つ目前半から中盤という方にも出ていただいて、二つ目と若手真打ちが"元気な会"にしていきたいという思いがあります。新たなスターを発見できる場になっていったらいいですね。「この人しか観ない」というのは、落語を観て何十年も経っている方が辿り着けばいい境地だと思います。好きな人ばかりを追いかけていくと価値観が狭まってしまうので、演者の名前ではなく箱を信用して来てもらいたいです。

今年に入ってからは、大学の「落語研究会」が新歓で来たり、会社で結成した「落語部」が来てくださるみたいなケースが少しずつ出てきたので、みんなで一緒に観に行って、感想を言い合って帰るような、映画館に映画を観に行くのと同じような感覚で、ふらりと立ち寄ってもらえる場所になれればいいなと思いますね。

エンターテインメント・カルチャーキュレーション番組「ぷらすと×Paravi」では、毎月第2金曜日に「渋谷らくご」を生配信中。

「渋谷らくご四周年記念御礼興行」
11月9日(金)~11月14日(水)
6日間12公演
http://eurolive.jp/shibuya-rakugo/

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(C)Paravi