「高橋一生は2.5枚目が最もいきる説」クドカンはデビュー作から知っていた!?

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「高橋一生は2.5枚目が最もいきる説」クドカンはデビュー作から知っていた!?
「高橋一生は2.5枚目が最もいきる説」クドカンはデビュー作から知っていた!?

人生に効くドラマことば~あなたの人生をちょっと変えるセリフ~

ドラマにはときに、人生を変えるような言葉がつまっている――。

映画、アニメ、バラエティ、ビジネス、スポーツ、など幅広い動画を配信している「Paravi(パラビ)」。国内ドラマも(なんといっても国内ドラマが充実、)最新のものから昔懐かしい作品まで揃っている。しかし、作品がありすぎて、まだ出会うべき名作に出会っていないかもしれない・・・!

ということで、このコーナーでは、パラビで見られるドラマを名セリフとともに紹介。

その言葉は、そのドラマは、あなたの人生を変えるかもしれない。

■クドカン初脚本で栗山千明高橋一生の異色恋愛ドラマ

第1回の今回は【コワイ童話『親ゆび姫』】。

1999年9月からTBSで放送された全4回の深夜ドラマ。当時ベストセラーになっていた『本当は恐ろしいグリム童話』に触発されたのか、童話に着想を得たドラマシリーズ『コワイ童話』のうちのひとつで、ともすれば「色モノ深夜ドラマ」とくくられ、見逃されてしまいそうだが・・・。

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なんとこの『親ゆび姫』は宮藤官九郎のテレビドラマの初単独脚本デビュー作。しかもプロデュースは、翌年・2000年の連ドラデビュー作『池袋ウエストゲートパーク』でタッグを組む、磯山晶プロデューサーである。その後"クドカン&磯P"コンビは『木更津キャッツアイ』(2002年)『タイガー&ドラゴン』(2005年)『ごめんね青春!』(2014年)と現在に繋がってくるが、この作品が初の出会いとなる。

そして、10代の栗山千明と高橋一生が高校生役で出演。見逃すにはもったいない、むしろ20年が経ち、クドカンも大河ドラマを担当するようになった今、歴史的価値が高まっているといってもいい作品なのである・・・!

物語は簡単に言ってしまえば、逆・『南くんの恋人』。

栗山千明演じる主人公・冴子が、片想いを寄せる、高橋一生演じる君島祐一に、不思議な液体をかける。すると、君島の体が小さくなり、冴子は自室の机の中で君島を飼う共同生活を始める――というものだ。

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■当時は珍しい"2枚目じゃない"高橋一生

まず注目すべきは、"高橋一生の使い方"である。

子役としてキャリアを始めた高橋一生だが、90年代後半から2000年代前半は、天沢聖司の声を演じた映画『耳をすませば』や、岩井俊二監督の映画『リリイ・シュシュのすべて』での後輩女子に憧れられる剣道部の先輩など2枚目としての起用のされ方が目立っていた。

しかし、ブレイクのきっかけとなったドラマ『カルテット』(2017年、TBS)や最新主演ドラマの『東京独身男子』(2019年、テレビ朝日)など、現在では2枚目と3枚目を行き来することで、その魅力を爆発させている。

この『親ゆび姫』でも、学校で人気の男子という基本は2枚目設定だが、ところどころに3枚目の顔も見える。例えば、小さくなってラジコンに乗り、主人公のスカートの下をくぐって「すごいもん見てしまいましたぁ」と見上げて喜ぶなど、宮藤官九郎お得意の童貞性が注入されることで、うまく2枚目と3枚目を行き来しているのだ。

このあと、『池袋ウエストゲートパーク』で、高橋一生の2枚目性を完全に封じてオタクを演じさせた磯山プロデューサーとクドカンは、この作品で高橋一生の3枚目としての魅力を見抜いたのでは――と勘ぐりたくなるくらい、2枚目じゃない部分がハマっている。

そう、20年後のブレイク後を予感させるような高橋一生が、この『親ゆび姫』では見られるのである。

もちろん、『バトル・ロワイアル』(2000年)や『キル・ビル Vol.1』(2003年)で注目を集める前、これがドラマ初主演作となった栗山千明も魅力的。教室の中での好きな人の会話を聞きながら「寝るときジャージにタンクトップ」「コーラよりドクターペッパーが好き」「ご飯の前にオーザック」とメモしていくシーンは、当時14歳の美少女・栗山千明に、宮藤官九郎の独自の世界観が注入されていく貴重な瞬間である。思春期の片想いが狂気に変わり、さらに恋をすることで美しくなる10代の変化を4話という短い中で表現し、初主演にして既にその才能を開花させている。

ちなみに他にも、TBS・岡村仁美アナウンサーの妹・岡村麻純や、まだ世に広く知られる前の皆川猿時佐藤二朗も出演。そして、スクランブル交差点前にSHIBUYA TSUTAYAが建設中で、まだ6階建てのブックファーストがあった頃の渋谷の街が映し出されている、1999年を切り取った貴重な作品でもある。

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■『世界』を見て『セカイ』での告白を決意するセリフ

さて、今回紹介するのは第1話のセリフ。

なかなか想いを伝える勇気の出なかった主人公・冴子は、想いをよせる君島への告白を決意するシーンで、こう叫ぶ。

「海の向こうじゃ、戦争してる国だってあるんだから、それにくらべたら好きって言うくらい、どうってことないもん。なによ、あんな奴・・・あいつなんか・・・大好き、大好き!!」

戦争が起きている海の向こうが「世界」だとすると、自分が生きている学校という小さな空間は「セカイ」と表現できる。「セカイ」は小さくも見えるが、思春期においてはほぼそれが全てで、「世界」の存在を忘れがちである。

しかし、ここで主人公はあえて大きな「世界」を見ることで、自分の「セカイ」を小さく捉えて、告白への勇気を振り絞る。

「あんな奴」のあとにくる言葉は「大嫌い」ではなく「大好き」。

女子中高生がカラオケで「大キライ 大キライ 大キライ 大スキ Ah」と叫んでいたモーニング娘。全盛の世紀末に叫ばれる、裏切りの「大好き」。

女子高校生が自分の「セカイ」を充実させる第一歩として、『世界』に言及する名セリフ

である。

■「大人になる」と真逆のストーリー

この後、告白をするも断られた冴子は、魔法の薬を君島にかける。そして、小さくなった君島を自室の机の中で飼いならすという新たな小さい「セカイ」を作り出す・・・。

自分の『セカイ』だけではなく、本当の『世界』が見えるようになるのが成長であり、そしてその成長がもたらされるのが、恋愛の効用とも言える。自分の「セカイ」が充実してくると『世界』にまで思いが及ぶようになってくる。それが一般的な10代が大人になっていくときに起こる変化であり、それこそが大人になることだ、と言ってもいいかもしれない。

しかし、この『親ゆび姫』では、最初に「世界」を見据えられていた主人公が、君島と2人きりという自分の「セカイ」が作られていくにつれて、「世界」が見えなくなっていくのが特徴。そして見えなくなる中でも主人公はその「セカイ」を必死に守ろうとしていく様は、思春期を延長させようとしている姿にも見える。

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全4話のこの作品では、第2話でその「セカイ」の幸せが絶頂になり、3話から「世界」との均衡が取れなくなっていく。そしてラストに向け、その均衡の崩壊がタイトル通りの"コワイ"話になっていく――。

その意味で、クドカンはドラマデビュー作にして、普通の青春恋愛モノとは真逆のアプローチの作品を作っていたのかもしれない。

■コワイ童話「親ゆび姫」
出演:栗山千明、高橋一生、矢沢心ほか
脚本:宮藤官九郎
演出:金子文紀ほか
プロデューサー:磯山晶ほか
制作年:1999

(C)TBS

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