"ちゃんと"生きるって、なんだろう。たくさんお金を稼ぎ、社会的に認められること？ 大きな夢など持たず、しっかり現実を見据えること？ 周囲からどう見られるかを気にして、"ちゃんと"生きなきゃと踏ん張り続ける。多くの人は、そんな生き方をしてしまっているのではないだろうか。そして、ふと立ち止まった時に考える。「この人生は、誰のもの？」と。
9月20日にスタートした新ドラマ『階段下のゴッホ』（TBS）は、"ちゃんと"生きてきたバリキャリな主人公・都（SUMIRE）が、"好き"に生きることを目指す物語だ。年収1000万越えで、何不自由ない生活を送っている都。でも、なんだか虚しい。傍から見たら、贅沢な悩みのように思えるかもしれないが、そんな葛藤を抱いている人って多いと思う。SNS全盛時代に加えて、コロナ禍のいま、焦燥感を募らせている人も増えているはずだ。
しかし、何かの出会いがきっかけとなり、人生を好転させることはできるのかもしれない。『階段下のゴッホ』第1話を観て、筆者はそんな"希望"を抱いた。人生100年時代、人は何歳からでも挑戦することができる。私たちの人生は、一度きりなのだから。都が、自分の生き様を通して、そんなメッセージを届けてくれているような気がした。
幼いころにかけられた母親の"呪い" 夢を持つのは悪いこと？
夢を見ても、保険はきかない。真面目に、堅実に。都がそんな生き方をするようになったのは、母親の"呪い"の影響が大きいのだろう。子どものころ、先生に「これなら絶対に画家になれる」と褒められて喜んでいた都に、母はこう語りかけた。
「画家なんて、食べていけないでしょ？」
母からしたら、何気ない一言だったのかも知れない。芸術の世界で食べていける人なんて、一握りだし。何も、間違ったことは言っていない。しかし、夢を持つことはいけないことなのだろうか。私たちの人生で、いちばん大事なのは、"食べていける"ことなのだろうか。
それから、都は夢にふたをして生きてきた。必死に働いて、キャリアを積んで。しかし、とあるギャラリーで巨大な赤い絵と鮮烈な出会いを果たしたことで、ふたたび夢への歯車が回り始める。幼少期からの夢だった美大を目指すべく、働きながら美術予備校に通うことを決めたのだ。
安定した仕事があるから、安心して夢を目指すことができる。なんだか、ちょっぴり皮肉のようにも思えるが、チャレンジしようという気持ちになったのは、いいことだ。"ちゃんと"生きてきた人の人生も否定しないのが、本作の好きなところ。夢を持てなかった人のことも、肯定してくれる。
"瞳"が印象的なSUMIRE &神尾楓珠が織りなす妖艶な世界観
美術予備校にいたのは、"好き"なことに時間を費やすのが当たり前だと思っている人ばかり。たとえ、美大に入ったからといって、絵で稼ぐ方法を教えてくれるわけではない。それなのに、絵を描くためにすべてを捧げている人がいる。
なかでも、都に鮮烈な印象を残したのが、東京藝大を目指して六浪中の"ダビデ"こと真太郎（神尾楓珠）だ。天才的な画力を持つ彼は、自分が分かっていたらそれでいいというスタンスで生きている。そんな真太郎の存在が、都の価値観を大きく揺るがしていくのだろう。"ヒューマンラブストーリー"ということは、都と真太郎が恋に発展することもあるのだろうか。
"瞳"が印象的なSUMIREと神尾楓珠だからこそ、織りなすことができる妖艶な世界観。希望を感じさせる物語のはずなのに、どこかに残る"影"に惹きつけられてしまう。毎週火曜日の深夜、この2人のタッグが観られるのが楽しみだ。
（文・菜本かな／イラスト・まつもとりえこ）
【第2 話（9月27日[火]放送）あらすじ】
美術予備校に通い絵を学ぶ傍ら、仕事も手を抜かず両立しようと奮闘を続ける都 （SUMIRE） だが、先輩の洋二 （朝井大智） も関わる若者向けの新規ブランドの立ち上げメンバーに抜擢されることに。
しかし最初の会議で待ち受けていたのは、総合ディレクターである新進気鋭の若手カメラマン・夏目きいろ （田辺桃子）。誰もが知る女優ではなく、新しいブランドモデルを自分たちの手で探そうと、予算や時間を度外視した夏目の歯に衣着せぬ物言いにタジタジの都。なんとか打ち解けようと悩んでいると、どの年代でも垣根のないものとして "絵" がある、と真太郎（神尾楓珠）。都は夏目をある場所へと連れていくことにする･･･。
◆放送情報
『階段下のゴッホ』
毎週火曜深夜24：58よりTBSほかで放送。
動画配信サービス「Paravi」では、毎週1週間先行配信中。
