初回からなんと濃密な情報量。でもそれは、それだけ本気で面白いドラマをつくろうとしている証拠か。ヒット作が続く伝統の日曜劇場。その最新作『DCU』(TBS系/毎週日曜21:00~)がいよいよ始まった。
裏切り者は成合か、それとも新名なのか
海上保安庁に新設された、水中事件や事故の捜査を行うスペシャリスト集団・Deep Crime Unit(潜水特殊捜査隊)=「DCU」。架空の組織を舞台とする活劇は、『MIU404』や『TOKYO MER~走る緊急救命室~』に続くTBSの近年の得意手だ。また、海上保安官の活躍を描いた作品と言えば『海猿』(フジテレビ系)が連想される。
しかし、『DCU』はこれらのいずれのドラマとも趣が異なる。まず『海猿』との違いは、『海猿』が海難救助を中心としたレスキューものであったのに対し、『DCU』は事件捜査がメイン。「手錠を持ったダイバー」という副題の通り、海上水域のみならず河川や湖など、水のあるところならすべてが彼らの捜査領域。それどころか陸上の捜査権限も有している。通常の事件モノの醍醐味に加え、何かあったら命の危険にさらされる水中捜査のスリルを味わえるのが『DCU』の魅力だ。
また、『MIU404』の伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)、『TOKYO MER~走る緊急救命室~』の喜多見(鈴木亮平)はヒロイックに描かれていたが、『DCU』の主人公・新名正義(阿部寛)は善悪ないまぜのキャラクター。警察には喧嘩腰。部下に対する態度も横暴で、傲岸不遜(ごうがんふそん)と言っていいだろう。目的を果たすためなら手段は選ばない剛腕な主人公だ。
しかも、第1話のクライマックスで明かされたのが、新名の過去。15年前、海上保安庁の機密情報をリークした疑いをかけられた瀬能陽生(横浜流星)の父・陽一(西尾浩行)が死亡した。そのとき、現場にいたのは新名とバディの成合淳(吉川晃司)。成合は爆発事故の捜査中に殉職。生き残った新名は、まだ少年だった陽生を救い、英雄視されていた。
だが、陽生が思い出した記憶は違っていた。船から放り出された自分を助けてくれたのは成合であり、成合は死の直前、新名に向かって「お前がスパイだったのか」と言葉を残していた。はたして新名は本当に信頼に足る人物なのだろうか。
陽一は、船の上で携帯電話を見てわなないていた。そして、電話口に向かって放った「やめろー!」という絶叫。あのとき、陽一は携帯の画面で何を見たのか。最後に電話をしていた相手は誰なのか。陽一の持っていた鍵が、何の鍵なのかも気になる。裏切り者は、新名か成合か、それとも別の第三者か。それを知る手がかりは、今も水の中に眠っている。
あの爆発事故も、陽一を狙う誰かによって仕組まれたものなのか、追いつめられた陽一の決死の自爆なのか、現段階では判然としない。きっといずれ新名と陽生はあの海にもう一度潜ることになるのだろう。そこで2人は何を見つけるのか。15年前の事件を縦糸に、そしてこれから起こる様々な事件を横糸にした壮大なミステリーが、この『DCU』だ。
『DCU』に息づく、往年のヒットドラマのDNA
「空気は読めないが、水の流れは読める」
「水の中で俺たちDCUに不可能はないんだ」
「真実は必ず水の中にある」
「水は嘘をつかない」
など、わかりやすい決め台詞が満載。このあたりは、『金田一少年の事件簿』『銀狼怪奇ファイル』(共に日本テレビ系)など1990年代の土9ドラマを彷彿とさせるノリだ。何かあると瞑想するかのように水中に潜るところは、『医龍 Team Medical Dragon』(フジテレビ系)の屋上でのエア手術シーンを思い出した。日曜劇場らしい重厚感は残しつつ、コミック的な活劇要素をふんだんに盛り込んでいるのも本作の特徴だ。
そこに日曜劇場のお家芸である組織内のパワーゲームや対立構造を取り入れ、当面はドラマを盛り上げていくことだろう。ひとまず序盤を引っ張っていきそうなのは、副隊長の西野斗真(高橋光臣)。終盤で、新名を良く思わない西野が、海上保安庁次長の早川守(春風亭昇太)に近づく様子が描写されていた。DCUから新名を追放するために、何やら画策しているのだろう。衝突を繰り返しながら、新名と西野が同じチームの仲間として信頼関係を築き上げていくさまが、きっと感動を生むポイントになるはず。
また、ナルシスティックな立ち姿が強烈な清水健治(山崎育三郎)も気になるキャラクター。こちらに関しては新名と勝手知ったる仲のようで、食えない相手と思いつつ、新名の力量は認めており、利害が合えばお互いうまく利用しているような面も。この関係性も、話が進めば進むほど思わず頰が緩むものになる気がする。
そして何より命の恩人として慕い、最高のバディとなるはずが一転、新名に憎悪を向けることとなった陽生との関係が最大の見どころだ。水中は危険がつきもの。バディは自らの命を預ける存在だ。そんな相手が、自分にとって憎き男だったら・・・。新名と陽生の今後の水中捜査は、今まで以上にスリリングでエモーショナルなものになりそうだ。
おそらく潜水中に新名か陽生にアクシデントが起こる場面もあるのでは、というのが今後の予想。そのとき、2人はどうするのか。命を預ける相手が、最愛の父を裏切った男だとしたら、こんなに滾る関係はない。そんな男と男の信頼と憎しみのドラマを、阿部寛と横浜流星がダイナミックに演じてくれたら、かなり見ごたえのある作品になりそうだけど、はたしてどうなるだろう。
いずれにせよドラマは始まったばかり。ここから3ヶ月、『DCU』の世界にどっぷりとダイブしたい。
(文:横川良明/イラスト:たけだあや)
【第2話(1月23日[日]放送)あらすじ】
新名(阿部寛)と瀬能(横浜流星)のわだかまりが解けぬまま、新たな事件が発生した。変死体が発見された北能登の港へ向かうDCUのメンバー。殺害されたのは密漁者と戦う地元漁師のリーダーだった。漁師たちが「犯人は密漁グループの連中に違いない」と騒ぎ立てるのを余所に、新名は地元刑事の坂東(梶原善)と共に捜査に乗り出す。
現場となった場所には水産物の研究所を建てる計画があり、ロシアから政府高官が視察に来る予定が5日後に迫っていた。5日以内に事件を解決するよう命じられた新名は早速、西野(高橋光臣)たちに日本海に沈む遺留品を探すよう指示を出す。そこへ地元の市議会議員・岡部(古田敦也)が現れ・・・。
一方で坂東と共に陸を捜査する新名と瀬能は、被害者の下で技能実習生として働いていた外国人に聞き込みをすることに。やがて排他的な地元民と外国人技能実習生の実態が浮き彫りになり、事件は思いもよらない方向へと進んでいく。
◆番組情報
日曜劇場『DCU』
毎週日曜日21:00からTBS系で放送中。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。