益田ミリの同名人気漫画を原作とし、原田知世が主演を務める連続ドラマ『スナック キズツキ』(テレビ東京)の第12話が12月24日に放送された。いよいよ最終話の今回は、ママ・トウコ(原田)の過去や、スナック キズツキを始めた理由などが明かされる。前回、「こぐま屋さん」(浜野謙太)にかつて自分が漫画家だったことを話していたが・・・。
お店を休業とし、父の七回忌で実家・洋食屋の「キッチンまかべ」に帰ったことで、自身の過去を思い出す。若き日のトウコが新人賞に応募するため、漫画原稿を投函し、「どうかお願いします」と手を合わせて願いを込めたポストは、あの頃のまま。全身白系のゆったりしたコーディネイトも、変わっていない。しかし、実家に届いていた、かつての担当編集者からのハガキを母に渡され、彼が退職したことや、トウコが電話もメールも変えたことから連絡がとれないと連絡してきたことを聞き、当時を回想する。
新人賞を受賞し、そこから3年、連載も決まって忙しい日々となった頃、父が病気で入院。毎週東京から帰省して病室で漫画を描き、父には「帰って漫画頑張れ」と言われていたこと。締め切りギリギリで頑張ってきたが、連載の打ち切りが決まったこと。その後、担当編集はもっと連載を続けさせてあげたかった、もっとサポートしてあげたかったと語っていたことを母から聞かされる。
第9話で、女子高生の芽衣(吉柳咲良)に、「夢って、かなっただけじゃダメなんだ。離れないように背中にくくりつけて歩き続けなきゃなんない」と語っていたのは、こうした事情からだったのだ。
しかし、そんなトウコが手放してしまった夢が、キッチンまかべの片隅でひそかに生き続けていた。母がこじんまり続ける店は、近所の鍵っ子が学校帰りにまっすぐやって来て過ごす場所になっていた。実はトウコの漫画のファンという彼女は、「1日1冊」と決めて読んでいた。その理由は、「早く読んだら楽しみがなくなっちゃうもん」。
本当は父が亡くなり、漫画をやめたトウコは実家に戻るつもりだった。ところが、そんな折、空き店舗「スナック キズツキ」に出合い、即契約してしまったのだ。駅からちょっと遠いし、裏路地にあることから、もう何年も借り手がつかなかったと不動産屋は説明する。きっと店は、もう何年も「キズツイた誰か」が見つけてくれるのを、そこで待っていたのだろう。
東京に戻ったトウコは、こぐま屋さんにオムライスを作ってあげる。こぐまの絵を描いた旗を刺して。
「お子様ランチじゃないスか(笑)」と笑うこぐま屋さんに、「まだまだ伸びしろありますよってこと」と返す。
父が作ってくれたオムライスには旗が立っていて、お子様ランチじゃないんだからと笑うトウコに「東京行っても頑張れよ」と父は言ったのだった。
そんなトウコに今日はこぐま屋さんが「歌いませんか? カラオケ」と言い、ギターを構えつつ、「テキトーに合わせますから、好きにやっちゃってください」という。
キズツイた人がなぜかたどり着く「スナック キズツキ」は、旗を立てて送り出してくれた父のオムライスの優しい味にも、鍵っ子が毎日通う母のいる場所の心地良さにも似ていた。トウコが作りたかったのは、父と母がトウコにずっと与えてくれてきた空間や時間、味なのだろう。
心の中にたまっていく日々のモヤモヤやしんどさを受け止め、ちょっと軽くなった心で一歩踏み出すための「スナック キズツキ」。いつかどこかで、私たちも見つけることができるだろうかーーそんな小さな光が心に灯る気がするドラマだった。
(文:田幸和歌子/イラスト:たけだあや)
◆配信情報
『スナック キズツキ』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。