【ネタバレ】『Real Folder』俳優・伊藤健太郎が見せる静かな覚悟

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【ネタバレ】『Real Folder』俳優・伊藤健太郎が見せる静かな覚悟
【ネタバレ】『Real Folder』俳優・伊藤健太郎が見せる静かな覚悟

動画配信サービス「Paravi」にて、今の時代を牽引する若きスターたちに密着取材したドキュメンタリー番組『Real Folder』の独占配信が開始された。今回は、俳優・伊藤健太郎への密着取材だ。

"やっぱり華がある..."久々にメディアで彼を観た率直な感想だ。しかもインタビューパートは限りなく少なく、彼の取り繕っていないありのままの姿と、そして"受け取り方は観る人に委ねる"という彼自身の見えない静かな覚悟が感じられた。

飛ぶ鳥落とす勢いだった上り調子の最中での不祥事は正にジェットコースターのようで、これまで築いてきた全てを一瞬にして失った伊藤。世間の眼差しの厳しさを一身に受けながらも、もう何周もきっと自分を責め、そして何千何万回と自問自答した末に、今彼はこの場に立っているのだろう。

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表舞台から姿を消すことだって出来た中、様々な批判の矢面に立ちながら、それでもマイナスからのスタートを切る再始動を決めたのは、やはり彼が輝ける場所は、彼の居場所は舞台の上だったのだろうし、演じていないときっと彼は本当の意味では息ができず、自分が自分ではいられなくなり生きた心地がしないのかもしれない。

だからこそ、謹慎の時間を言い訳にしないという気概がまざまざと伝わってくる。「1年空いてるからどっか鈍ってるなぁと絶対思われたくない」という想いこそ、彼がそこに立ち続けていられる意地であり、踏ん張れているプライドで、支えてくれる人々への感謝の気持ちであって彼にしかできない贖罪の形なのだろう。

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復帰後、初主演の舞台『SOULFUL SOUL』の稽古場での伊藤は伸び伸びと息ができているように見えた。最初の出演者の顔合わせでもまずは、自分と一緒に仕事をしてくれることへの感謝を口にして「自分もこの作品が再始動ということにはなってるんですが、それより皆さんとでしか出来ないような素敵な舞台にしたいっていうのを第一前提として考えていきたい」と深々と頭を下げた。

台本のほぼ半分が伊藤のパートという膨大な台詞量と対峙している時にも、伊藤の口から出てくる言葉は心からの"嬉しい""楽しい"。一度失ったものだからこそ、そしてもう二度と手にできない、手にしてはいけないと諦めかけた時もあったに違いない代物だからこそ、その有り難みを心の底から享受しているように見える。「家で感傷に浸るというか、ふと我に返った時にウルッとくるものがあるというか。(台詞を)覚えてる時間が楽しくて嬉しくて幸せ」と噛み締めるように言う。

そして、何よりこの嬉しさ、楽しみは自分一人では実感できるものではないことを今の伊藤は誰よりも嫌というほど体感しているのだろう。自分を起用してくれる制作陣、一緒に演じてくれる共演者、支えてくれるスタッフ、そして楽しみに観に来てくれる観客がいて初めて"その場"は成立するのだ。

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稽古も終盤に差し掛かると「現場が楽しくて。どんどん出来上がっていってるのが嬉しくて、でも同時に終わりに近づいてってるのを考えると寂しい」と、とても素直な気持ちを吐露し涙を滲ませる姿が印象的だ。映画やドラマの仕事がひっきりなしに舞い込んでいた頃には、もしかすると背負うものばかり大きくなりさらには物理的な時間の制約もあって、ここまで1つの現場に純粋に没頭し切れていないこともあったのかもしれない。

遠ざかっていた日常の"当たり前"の中にある懐かしい充実感を体いっぱいに感じながら、自分が今この空気の中に身を置けている"奇跡"を全身全霊で感じ、そしてこの"奇跡"を必ず自分のものとしてもっともっと近くに一歩一歩手繰り寄せようとする伊藤の真っ直ぐな混じりっけのない決意を見た気がした。

脚本・演出を手掛けた福島三郎氏は、伊藤の演技の勘の良さや思いっ切りの良さを絶賛し、「加速度的な相乗効果の中心に伊藤くんがいた」と座長としての彼の姿にも太鼓判を押していた。

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きっと伊藤は今後、かつての演技の感覚や感触を取り戻しながらも、手元に残った本当に大切なことをを真っ直ぐに見つめ、今の伊藤だからこそできる表現を模索していくに違いない。負けず嫌いな伊藤が、過去の自分には絶対負けない、そう言っている気がする。

【文:佳香(かこ)】

◆番組概要
『Real Folder』
【配信ページ】https://www.paravi.jp/title/74960

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