女子が男子のネクタイをグイッてするやつ、あれはもうラブコメの基本構図っちゃあ基本構図なのですが、やっぱりいいものですね。
『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系/火曜22:00~)第6話。それはおまちかね百瀬(坂口健太郎)の「嫉妬回」でした。
百瀬VS唯斗!これは合コンではなくPRIDE男祭りやで
とにかく今回のMVPは唯斗(高杉真宙)でしょう。ずいぶんと明葉(清野菜名)がお気に入りの唯斗。元気のない明葉に突然キスをしようとしたり、百瀬も百瀬だけど、こっちもこっちで相変わらず距離感がバグっている。
しかも困るのが、百瀬以上に本心が読めないところ。あの整いまくった顔面で「じゃあさ、アッキーのこと好きになってもいい?」って聞いてくるとか息の根を止めに来ているとしか思えない。殺し屋なの?
さらに今回の見どころとなったのが、合コンシーン。「でもハグって別に夫婦じゃなくてもしますよね。俺もアッキーとしましたし」とみんなの前で言ってのける唯斗。それを百瀬が「僕は何も思っていませんよ」「僕と明葉さんは夫婦でもあり、良き友人でもあるので」とマウント返しすれば、「まあでも俺、アッキーとは友達っていうか、親友ですけど」とさらにマウントを取り返す。もはやこれは合コンではなく、PRIDE男祭り。桜庭和志とホイス・グレイシー以来の激闘です。
男祭りは合コンが終わったあとも続きます。明葉が丸園ふみ(西尾まり)の装丁デザインを担当していることを聞いていなかった百瀬に対し、「あれ? 百瀬さん、知らなかったんですか」と得意げ。「なんか、こっそり会ってるみたいでやだなあ」と言葉上では恐縮しながらこっそり会っていることをめちゃくちゃアピールする唯斗を、「僕は何も気にしていませんよ」と平静な顔でガード。夫の余裕を見せつけます。
ここのくだり、坂口健太郎と高杉真宙の表情演技がそれぞれ絶妙にうまくて。明葉について話すときだけ、百瀬がうれしそうに微笑むところが唯斗の癪に障るだろうし、唯斗は唯斗で話しているときは屈託がないのに、百瀬の反撃を聞いているときの顔は実に面白くなさそう。言葉の乱打戦以上に、こうした表情の変化で心理模様をちゃんと伝えてくれるので、見ていてニヤニヤが止まりません。
ただ、今ひとつよくわからないのが、唯斗がなぜこういう行動をとるのかということ。単に明葉が好きで、あわよくば百瀬からぶん取りたいというよりも、むしろこうやって着火剤を放り込むことで火をつけようとしているというか、明葉と百瀬の仲が進展するように炊きつけているふうにさえ見えます。
そもそもなぜ唯斗がこんなに明葉にご執心なのかも、ちょっと謎。いわゆる「おもしれー女」的存在なのでしょうが、恋と呼ぶにはなにか違うような...。今はまだ見ていて面白いペットやオモチャを見つけたくらいの状態。しかもそれが戸籍上は他人のものだから、自分のものにしたいと思っているだけ? このあたりもう少し唯斗の背景が描かれてくると、百瀬派VS唯斗派の派閥争いも俄然面白くなるのですが、はたしてそういう展開は来るのでしょうか。
いずれにせよ、唯斗がいることで話が面白くなっているのは間違いないので、小悪魔バンビーナこと牧原唯斗にはもっとガンガン2人をかき回してほしいです。
あれは、婚姻届に判を捺すようなキスだった
一方、百瀬はというと、どうして唯斗から明葉の話を聞くと胸がざわつくのかその理由が今いちつかめていない模様。明葉を励ますためにキスをしても平気ですかと唯斗から確認され、思わず言葉につまります。
って、そら言葉にもつまるわ。古今東西、どこに励ましを目的に異性の友人にキスをするやつがいるのか。つまり唯斗が示唆するのは、形式的な関係性の意味のなさ。「友人」だとか「夫婦」なんていうのは、世間に説明するだけの体裁上の呼び名で意味を持たない。肝心なのは「好き」かどうか。そしてその種類に「なんでも相談し合える"好き"」とか「キスがしたくなるような"好き"」とか、いろんなグラデーションがあるわけです。
百瀬が唯斗と話していてザワザワするのは、「夫婦」だとか「良き友人」という形式におさまって安心しようとしている自分に気づかされるから。唯斗のあの大きな黒目には、そんなふうに人の胸の内を見透かす力がある。
百瀬が明葉にキスをしたのも、唯斗の言葉を額面通りに受け取って励ましたかったからじゃない。いくら今まで女友達がいなかった百瀬でも、友情のキスなんてないことくらいはわかっている。
じゃあなぜ百瀬は明葉にキスをしたのか? それはきっと、唯斗にとられるのが嫌だったから。まだ恋かどうかはわからない。でも、少なくとも、唯斗よりは明葉にとって近い存在でいたかった。何かあったら相談してほしいし、落ち込んだときは支えてあげたい。その役目は、自分のもの。そういう「印」をつけるためのキスだった気がする。ある意味、婚姻届に判を捺すような。
婚姻届だって、つまるところこの人は自分の夫であり妻であるということを法的に証明するためのツールだ。あの紙一枚で相手の気持ちを永遠につなぎとめておくことはできない。それでも人が婚姻届に判を捺すのは、この人は自分のものだと。だから誰も奪っちゃいけないんだという社会的な「印」をつけておくためだと思う。
明葉と百瀬は、社会的な「印」はもうすでについている。でも、精神的な「印」はまだない。それが、あのキスだったんだと思う。百瀬はまったく自分の行動を理解できてはいなかったけど。
百瀬は毎月「フィール・ヤング」を読むべき
だとしたらあのラストのキスは明葉からの「印」だ。借金完済の目処がつき、もう偽の夫婦を演じ続ける理由はなくなってしまった。社会的な「印」はなくなる。もうこの関係に「夫婦」という名前さえなくなる。その前に、百瀬を自分のものにしたくて明葉は「印」をつけた。
他者を自分のもののように思うなんて前時代的かもしれないけど、人を恋しいと想う気持ちって、つまりそういうことだから。だから、恋は苦しいし、どんどん自分の醜い感情を見てしまう。百瀬は美晴(倉科カナ)に対して、そっと見守っているだけでいい、ただ幸せを願うだけでいいという道を選んだけど、そういうのじゃなくて、もっとワガママで、もっと欲望まみれで、もっと整理がつかない気持ちを明葉に感じてくれたらいいな。
と思ったら、次回予告を見る限り、明葉のキスを"仕返し"だと思い込むらしい。つくづく百瀬の思考回路が謎すぎる。女心がわからない百瀬は今すぐ「フィール・ヤング」を定期購読することをオススメします。毎月8日発売だよ!
(文:横川良明/イラスト:まつもとりえこ)
【第7話(11月30日[火]放送)あらすじ】
勢いで百瀬(坂口健太郎)にキスをしてしまった明葉(清野菜名)。まさかの百瀬の対応に驚きつつも、自分からキスをしてしまった以上、「好きだ」という気持ちをちゃんと伝えようと明葉は決心する。
しかし、百瀬はなぜか明葉のキスを"仕返し"だと思い込む。さらに百瀬から離婚を提案された上、離婚に至るまでの"不仲演出計画"まで語られる始末。呆気にとられた明葉は告白する隙もなく・・・。
そんな中、急遽、後輩の代理として観光キャンペーンの仕事を担当することになった百瀬。インフルエンサーとのコラボ企画ということで、野上香菜を紹介されてビックリ! なんと、香菜は美晴(倉科カナ)と瓜二つだったのだ!
しかも、香菜は百瀬に気があるようで、あの手この手でグイグイ迫り、SNSでも匂わせ投稿連発。最初は気にしていなかった明葉だったが、美晴のソックリさんだけでは済まない事態に発展してしまい・・・!
◆番組情報
『婚姻届に判を捺しただけですが』
毎週火曜日22:00からTBS系で放送中。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
また、Paraviオリジナルストーリー「とにかく婚姻届に判を捺したいだけですが」が独占配信中。