ピュアなラブストーリーの名作といえば『耳をすませば』。嫌味な態度でからかってくる天沢聖司くんに対し、「やなヤツ!やなヤツ!やなヤツ!」とプンスカしていた月島雫が、いつの間にか恋におちていた。これはもうラブストーリーにおける、ひとつの定型なわけです。
そんな定型を存分に味わわせてくれるのが、『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系/火曜22:00~)。第2話も、ひたすら坂口健太郎を愛で続ける1時間でした。
百瀬柊は「イラ可愛い」という概念を生み出しつつあると思う
とにかくこのドラマ、前半パートでは主人公の明葉(清野菜名)と一緒に、百瀬(坂口健太郎)についてイライラするのが正しい楽しみ方。この百瀬という男、とにかく一言多いのよ。
玄関にお気に入りのガチャガチャコレクションを並べて飾った明葉。それを百瀬は「犬のフン」に例え、「どちらも共用スペースを過ごし、共用する相手を不快にさせているという点で同じです」とバッサリ。まあここまでは、百瀬の言ってることも筋が通ってるし、許します。心に菩薩を召喚します。
が、これだけではおさまらないのが百瀬の性格の悪さ。最後に「今後は言われる前にやってください。言われなきゃできないのは子どもと同じですから」とダメ押しの嫌味。
ふ~~~~~!(大きく深呼吸をしてから)
(ドスのきいた声で)・・・・・・おめえ、坂口健太郎の顔じゃなかったらとっくにぶっ飛ばしてっからな。
こちらに良心という名のブレーキさえなければ、毎朝寝相を盗み撮りして、会社の同僚にばらまいてます。
そんな歩くイライラ棒こと百瀬柊。だけど、それでもなんやかんや目が離せないのは、「くっ・・・! この人、可愛い」と思わせてくれるところがあるから。
今回で言えば、明葉が咄嗟についた嘘によって、苦手なアサリを食べさせられるところが、最初のキュンポイント。大の男が、ちっちゃなアサリを箸でつまんで凍りついているのが可愛い。中の人、最近、同じように苦手な牡蠣をみんなの前で食べさせられているのを見た記憶があるのですが、魚介類に恨みでも買ってんの・・・?
でもやっぱり最大の見どころは、クライマックス。明葉が用意したモモズバーカー完売の打ち上げを「昨日、寝てないんで・・・」と断るところまでは、いつもの百瀬仕様。
が、ここからが本領発揮です。1回踵を返して何かを言おうとしてから、言わずにまた引き返そうとするじれったさもいいのですが、もっと推したいのはその後。
「(結婚相手に選んだのが)あなたで、良かったです」
そうほとんど目も合わさずにぼそっとつぶやく百瀬。そして、照れくささを誤魔化すように、そそくさと階段を駆け上ってきます。
このときの階段の上り方のヘタレ感よ...! あの長すぎる足と階段の高さが合っていないのか、最後の方とかちょっとガニ股みたいになっていた。このどうにも恰好がつかない小動物っぽい立ち去り方に、今日イチのキュンをいただきました。
ヒロインタイプの男性像が、今、時代の気分です
中の人は、中・高とバレーボール部でキャプテンを務めるなど抜群の運動神経の持ち主。なのに、なぜか坂口健太郎は「鈍臭い感じ」をやらせると無性にハマる。
今、この世代で運動神経の悪いイケメンをやらせたら、坂口健太郎と『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)の岡田将生がツートップだと思う。そして、この普段は斜に構えているのに、どうにも隠し切れない鈍臭さに愛着を覚えるのです。もう坂口健太郎には一生バッターボックスで三振してほしいし、リズムの合わないダンスを踊り続けてほしい。
こういうなんでもないところでズッコケるようなドジっ子感は、昭和の時代からヒロインに求められてきたもの。それが、今は男性に求められるようになってきた。昨今の恋愛ドラマのポイントは、いかに相手役の男性をヒロイン化できるか説、勝手に提唱していきたいと思います。
よくわからん男に絡まれているところを、「誰の女に手出してんだ?」と助けに来るヒーロータイプももちろん素敵。でも、ラプンツェルかな?っていうくらい高い塔の上に閉じこもったまま心を閉ざしたヒロインタイプもまたオツなもの。そっちが髪をおろしてこないなら、こっちから勝手にロープでよじ登って扉をこじ開けてやる! そう女子たちに息巻かせるくらいの庇護欲かきたたせる男性像が、時代の気分な気がします。
そして、本人が意図しているかどうかはさておき、坂口健太郎はそんな手が焼けるけど愛しいヒロイン属性が異常に高いから、百瀬みたいなキャラクターがしっくりくるんだと思う。
今回の百瀬も、ずっと忘れられない想い人がいるという意味では、ざっくり言えば『めぞん一刻』の音無響子さんと同じ括り。このドラマの真の意味でのヒロインは、明葉ではなく百瀬なのです。あとは、白馬にまたがった明葉の底抜けの明るさと前向きさが、「初恋こじらせ」という名の錠がおろされた百瀬の塔を豪快に突破していくのを楽しみに見守りたいと思います。
そして、そこに高杉真宙演じる牧原唯斗が加わることで、恋の相関図は完成。ノリのいい牧原は明葉とも気が合う様子。牧原といるときのほうがずっと楽しいし、話も合う。だけど、気になるのは「やなヤツ!やなヤツ!やなヤツ!」なアイツ・・・というのはもうラブコメの鉄板。高鳴る動悸の理由を、胸に手を当ててみて問うてみれば、あいみょんがこう歌ってくれるでしょう、「これが恋のはじまり~♪」と。
(文:横川良明/イラスト:まつもとりえこ)
【第3話(11月2日[金]放送)あらすじ】
百瀬(坂口健太郎)の好きな人が兄・旭(前野朋哉)の嫁、美晴(倉科カナ)であることを知り、明葉(清野菜名)は胸のあたりがなぜかモヤモヤしていた。
2人は百瀬の中学の同級生たちが開いてくれる結婚祝いへと出かけることに。
美晴や同級生たちが思い出話で盛り上がっていると、偶然通りかかった麻宮(深川麻衣)が成り行きでパーティに飛び入り参加!? さらに、明葉のお節介が百瀬の勘に触り、心のシャッターをガッツリ降ろされてしまうのだった・・・。
家では気まずい空気が流れる一方で、明葉に大きなコンペの話が舞い込む。そのことを百瀬に相談しようにも、とても聞ける雰囲気ではなく・・・。さらに、予期せぬ出来事が起こりコンペは思わぬ展開に・・・!?
◆番組情報
『婚姻届に判を捺しただけですが』
毎週火曜日22:00からTBS系で放送中。
地上波放送後、動画配信サービス「Paravi」でも配信中。
また、Paraviオリジナルストーリー「とにかく婚姻届に判を捺したいだけですが」が独占配信中。