【ネタバレ】北山宏光主演『ただ離婚してないだけ』二人の贖罪と十字架

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【ネタバレ】北山宏光主演『ただ離婚してないだけ』二人の贖罪と十字架
【ネタバレ】北山宏光主演『ただ離婚してないだけ』二人の贖罪と十字架

終始意味合いが変わり続け、改めてこのタイトルの奥深さだけでなく夫婦の在り様や幸せの形についても映し出してくれた『ただ離婚してないだけ』(テレビ東京ほか)が最終話を迎えた。

ラスボス・仁科(杉本哲太)のあまりに無謀な殺害計画を企てていた柿野夫婦だったが、ようやく最後に正隆(北山宏光Kis-My-Ft2)が間に合った。今までずっと間に合わなかった正隆が、最後の最後に大きな犠牲を払いながらも、さらなる最悪の事態は食い止めた。

妻・雪映(中村ゆり)には仁科との口止め料の受け渡し場所に行くかに見せかけて、実際には自首したのだ。自分のせいで人生を狂わされ豹変してしまった雪映に対する最後の誠意、贖罪を、行動を以って示した。

しかし、受け渡し場所に正隆一人で行かせた雪映はこうなることを全く予期していなかったのだろうか。佐野(深水元基)にトドメを刺し損ね、それ以降も何度か正隆は佐野を逃しかけていて、その度に雪映が対処していた。さらに気になるのは、最後に2人が悲しきキスを交わした後、雪映は涙を流しながら一人唇を手で拭っていた。まるで正隆の温もりを残してしまわずにすぐに消し去るように。それはこれからどんな結果が待ち受けているにせよ、正隆が自分の元に帰ってくることはないことが何となくわかっていたからではないだろうか。そんな正隆の体温にずっと浸かっていてはより寂しさや不安が募ってしまうのを自分から吹っ切ったのではないかと、そんな風にも思えた。

だって、「じゃあ行ってくる」と言った正隆の目にもう迷いはなかったから。弟・利治(武田航平)から義父の遺言を聞かされ、義父の後悔と正隆にただ一つだけ願うことを知り背中を押されて。「お前の苦しみは全て私の未熟さゆえである。後悔が止まないのはお前への思いを偽り続けたこと。私は、お前の本当の父親(家族)でありたかった。それがお前と初めて会った時から抱き続けた偽らざる思いだ。今、ただ一つ願うのは、お前が私のような道を辿らないこと。偽りなく生きてくれ。大切な者たちを傷つけないために...」は、全て「お前」を雪映と入れ替えれば、正隆から彼女への想いにも通ずるところがあるのではないだろうか。

危篤状態にあった義父が最後に願ったことは正隆と会うことだったが、当時の正隆はまだそれに素直に応えられなかった。"また期待して裏切られたらどうしよう""これ以上傷つきたくない"という条件反射的に予防線を張る癖が彼と彼の周囲にまで波及して"生き直す"チャンスを遅らせてしまったのだ。

これまでずっと母親の連れ子だった正隆側からの視点からしか描かれなかった柿野家だったが、義父は「お前の本当の父親でありたい」と思い続け、それでもどうしても断ち切れぬ血縁や家柄に一人苦悩していた。何も正隆を忌み嫌い蚊帳の外に追いやった訳ではなかったのだ。正隆を見ればそのままを愛し受け入れたい気持ちと同時に、自分の器の小ささを思い知らされるのだ。それは義父にとっても常に引き裂かれそうな思いだったに違いない。(そして皮肉にも、義父から正隆へのやりきれない想いは、正隆が我が子を眼差す時に抱く感情と通ずる部分がある。自分の手で抱いてやりたいのは山々だろうが、子どもを見れば自分の罪の意識が重くなるだろうし、自分と遠ざけたくなるだろう。)

弟・利治にしたって血縁関係のない兄の方が優秀で人望もあるとなれば、自分がいつか家族から、会社から見捨てられてしまうのではないかと人知れず焦っていたのではないだろうか。弟からすれば自分には血縁関係しかないと思っていた可能性だってある。

正隆と雪映の面会シーンは圧巻だった。正隆が自分の罪や汚れから家族を守るための最上級の愛情表現として出した離婚届を雪映は破り捨てる。何かあれば自分一人で抱え込み引き受けようとする正隆にこれまで雪映は散々苦しめられ孤独感を募らせてきたのだから。義父から社長候補を外された時にも自分一人で傷ついて実家を離れることを決め、今回だって雪映に何の相談もなしに自首を決めた。

それが雪映や子どものためであると頭ではわかっていても、夜通し一人車内で待たされ肝心な時には側にはいてくれなかった心細さや、自分だけ罪を被っていなくなってしまった正隆への恨みが拭えないのかもしれない。どんな手段を使ったって雪映が守ろうとした「3人で生き直す」という将来を正隆は与えてくれなかったのだから、もうこれから一生会わず、それぞれ別々に生きていくことになっても、「3人で」という証をせめて戸籍上には刻み込んでおきたかったのかもしれない。

あるいは、雪映は自分と子どもとの家族関係がある方が、正隆がまたどこかで人知れず自暴自棄になってしまうことを防げると考えたのではないだろうか。父親からの愛情に悩んだ正隆が、自身の子どもに父親として触れることはもう叶わない訳だが、その子が父親不在の寂しさを吐き出す時にはきっと雪映が受け止め、彼の孤独に寄り添い正隆とは違う生き方に導くことが、間接的に正隆を救い、自分たちが本当の意味で"生き直す"ことになると雪映は考えているのかもしれない。

最初は読んで字の如く、形だけの"離婚していないだけ"の冷め切った夫婦関係だった2人が、共犯関係になってしまい離れるに離れられない"離婚どころではない"異様な共依存関係になり、それを経て最後には遠く離れていても、一生会えなくても、それ以上にある意味深い繋がりを見せつけてくれた。

"ただ離婚してないだけ"には違いないが、今の2人にはその唯一の繋がりこそが、自分たちの許されぬ過去の罪を風化させない刻印であり、その罪を抱えて生きていくことを誓った十字架にも思える。そして必ず"幸せに生きていかねばならない"未来に力強く導いてくれる道標にもなり得る。

萌(萩原みのり)の弟・創甫(北川拓実)にも"未来"が初めて見えた。刑事の池崎(甲本雅裕)から「とにかくお前には未来しかねぇ」と言われた時に、創甫は初めて顔を上げ未来の方向を見つめた。いつも萌がいた過去を思い出しては風鈴の鳴る方ばかり見つめていた彼に正隆が撒いたせめてもの希望の種が芽吹いた瞬間だった。

(文:佳香(かこ)/イラスト:まつもとりえこ)

◆番組情報
『ただ離婚してないだけ』
動画配信サービス「Paravi」で全話配信中。

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