尾上右近『研の會』自主公演で尾上眞秀と「連獅子」親子役挑戦

公開: 更新: カンテレTIMES
尾上右近『研の會』自主公演で尾上眞秀と「連獅子」親子役挑戦

8月31日(土)・9月1日(日)に大阪・国立文楽劇場、9月4日(水)・5日(木)に東京・浅草公会堂にて開催される尾上右近自主公演第八回『研の會』の記者発表会が6月22日(土)に行われた。『研の會』は、歌舞伎俳優・尾上右近が2015年から取り組む自主公演。今回は『摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)』と『連獅子(れんじし)』に挑む。記者発表会には出演者の尾上眞秀もゲストとして登壇した。

会見の冒頭で右近から「もう第八回ということで、これだけ回数を重ねさせていただいて、規模を拡大させていただけるのは嬉しい限りです。今回の演目『摂州合邦辻』は母親の物語、『連獅子』は父親の物語です。なので今回の自主公演は『親の愛』をテーマにお届けしたいと思っています。今日の記者発表会もそうですが、自分がやりたいことをやらせていただくことには責任が伴うということを非常に感じます。僕はこの責任を楽しく担いたいと思っています。それはある種、自分の仕事に対する親心に近い。今の自分にしかできない自主公演をやらせていただけたらと思います」と挨拶があった。

出演者については、「今回、尾上菊三呂さん以外はみなさん初出演です。自分が観たい配役で、観たい演目を選ぶというのも、自主公演の自分の中のコンセプトなのですが、今回の配役が実現できてみなさんに観ていただけることを嬉しく思います。市川猿弥さんは『摂州合邦辻』で合邦道心という、僕が演じる玉手御前のお父さんの役ですが、僕にとっても猿弥さんは役者の世界における心のお父さんのような存在です。子どもの頃から尊敬する先輩であり、人としてはお父さんのように甘えているところもある方です。市川青虎さんは自主公演もなさっていますし、僕も澤瀉屋のお芝居に出させていただく時は仲間として取り組んで、僕を引っ張ってくださる大事な兄貴のような先輩です。菊三呂さんは乳母と言いますか(笑)、僕をずっと支えてくれている大事な存在で、この自主公演も毎度の如く出ていただいています。手取り足取り子供の頃から引っ張っていただいて、今は一緒に闘う仲間というような大事な存在です。中村鶴松さんは同じ浅草公会堂で自主公演をなさっていて自分でつくりあげているものがある、尊敬する後輩です。中村橋之助さんもこの浅草公会堂で自主公演を行う仲間であり、大事な公演で共演してきた思い出も詰まった大切な仲間でもあります。後輩二人が自主公演を行っていることもすごいことだと思いますし、その二人に僕の自主公演に出てもらえることにも大きな意味があるなと思っています。そして尾上眞秀くんは同じ音羽屋で共に闘っている仲間であり大事な存在です。今回は『連獅子』で仔獅子をやっていただきますが、自分も仔獅子を経験してきて、今回、親獅子を演じるうえで、仔獅子は眞秀くんしかいないだろうという気持ちで声をかけさせていただきました。自分が圧倒的に主役の演目を選ぶことが自主公演で歩んできた道のりですが、こうして『連獅子』という二人の演目を敢えて選ぶというのも、今のタイミングでやってみたいことでした。相手を信じる、仲間を信じるということも今回ひとつのテーマだなと思っています」

それぞれの演目について、『摂州合邦辻』は「あらすじはやや複雑ですが、僕は義理の息子に恋をする母親・玉手御前のお役です。どういうつもりで演じるかということはなるべく言いたくないお役です。いろんな見方ができるので。日常でも、『なにが本当かな』と思う人間の心がありますが、息子に恋をしたのも本当だと思うし、助けたいと思ったのも本当だと思うし、大義のために生きるということも本当だと思う。どの面を切り取っても本当のことがあるというのが玉手御前だと思います。ただひとつ言えるのは、恋をして恋をして恋を貫くとそこには愛があった。その愛の花を咲かせて散っていくというところに美しい玉手御前の姿がある気がしています。非常に仏教的なお芝居でもあって、どの演目とも被らないような不思議な魅力があります。僕にとっても、思い入れの強くて思い出のある演目です。今回の初役での玉手御前は、菊五郎のおじさまがなさっている音羽屋型の玉手御前を自分なりに勉強し、最終的に菊之助のお兄さんに見ていただいてつとめます。今回大阪公演もありますが、大阪の物語なので、ご当地としても楽しんでいただきたいです」

『連獅子』は「僕は4人の親獅子に育てていただいた仔獅子でもあるんです。歌舞伎俳優の親を持つ役者ではないので、そのぶんいろんな先輩たちに育てていただいて、導いていただいた恩がありますが、『連獅子』という演目に関しては、4人もの親獅子の仔獅子をつとめた役者はいないんじゃないかと思うので、そこでこれだけの先輩方と共演させていただけたというのは、自分にとっての財産、宝物だなと思っています。30代で親獅子はまだ早いだろうという中でこのお役に挑戦します。自主公演はちょっと背伸びをして、敢えてキャパオーバーしてキャパを広げていくことがひとつのテーマなので。僕が仔獅子で経験したものを、今度は親獅子に回って、眞秀くんがつとめてくださる仔獅子に、自分が『連獅子』で得たエッセンスを伝えていく。そういう役割に回ってみたいなと思っている次第です。実際の親子がつとめることが多い役ですが、僕たちのように親も子も歌舞伎役者の子じゃないというのも、今回一つのキーワードになっているなと感じています」。

さらに前回に引き続き公演ポスターは、日本を代表する現代美術家・横尾忠則氏が制作した特別版も。「昨年、初めて自主公演で横尾忠則さんにポスターを作っていただくということが実現しました。その時に『また来年も』という思いもよらない言葉をいただき、真に受けて今年もお願いしたら、『去年よりいいものを作りますよ』と真っ直ぐな目で言ってくださいました。前回は僕の若さと僕らしさをとても大事につくってくださったことを感じたのですが、今回は横尾さんの中でまたひとつ違う認識を僕に持ってくださったんだなと感じました。このポスターを見て、また大きく背中を押していただいたなと思うし、絶対におもしろい公演にしてやろうという気持ちをさらに強くしていただきました」と感想を語った。今年も横尾氏から【右近さん お待たせしました。こんなのが出来ちゃいました。これは僕が描いたのではなく、右近さんの熱意が描かせたのです。だから、このポスターは右近さんが描いたのです。 横尾忠則】という手紙が届くと、右近は「こうやって心を込めたお手紙を添えてくださる。人としても、作品としても、僕は教わることがたくさんあります。横尾忠則スピリッツが僕の中に入って、ますます自分の心の中の横尾忠則の存在が大きくなる」と話した。

その後、会見には『連獅子』で仔獅子役をつとめる尾上眞秀が初のゲストとして登壇。右近に紹介されると、「今がんばって練習しているので、どうぞ観に来てください」と挨拶をした。司会者に『連獅子』の見どころを問われると、「激しいところとゆっくりなところがあって、それが切り替わるところがすごくおもしろい」と話し、既に衣裳と鬘(かつら)をつけて稽古しているそうで、「鬘と衣装の重さにも今ちょっとずつ慣れてきているので、がんばっていきたいです」と意気込んだ。親獅子として共演する右近について「すごく踊りがうまいので、食らいついていきたい」と語ると、右近は「嬉しい。がんばりましょう」と笑顔を見せた。

質疑応答では、まず右近が眞秀に質問。「尾上眞秀を襲名して1年経ちましたが、どんな感じですか?」と問うと、眞秀は「なんか安定してきた感じ」と堂々たる答え。それに対し右近は「僕なんか尾上右近に慣れるまで5年くらいかかりました」と明かす。続いて右近が「眞秀くんにとって『連獅子』ってどんな演目ですか?」と質問すると、「野生みたいな、野獣みたいな感じです」と話し、楽しみにしているという初めての毛振りについても「ちょっとずつ毛の重さに慣れてきました」と話した。また右近に「眞秀くんも自主公演をやる気はあったりしますか?」と問われると、「やってみたい」と明言。すると右近は即座に「出してください!」とアピールした。最後にどんな役者になりたいかを問われ、「お客さんを楽しませる役者になりたい」と明かした。

【会見後の尾上右近・尾上眞秀ミニインタビュー】

 ――おふたりが今一緒に稽古をする中で感じている楽しさをお聞かせください。

右近 自分がブレてられないので、そのプレッシャーは正直あります。芸の道は果てしないものですが、今の段階での完成を自信を持って眞秀くんに見せないと、僕が迷っていたら眞秀くんはもっと迷っちゃいますから。それは自分にとってもある種の“自信を持つ”という訓練になっているから、そこは楽しいところでもあります。また眞秀くん自身、できないものができるようになることは嬉しいと思うし、その姿を見ているのが僕も本当に嬉しいことです。

――教えるというのは難しいことも多いかと思いますがいかがですか?

右近 伝えるってすごく難しいですよね。400年歴史を紡いできた歌舞伎はそれを上手にやってきたわけだから、自分もその流れの中に身を置いている実感がすさまじくあります。先輩に教えてもらったまま伝えたって伝わらないこともありますから、伝達方法も変えながら、ちゃんと眞秀くんに伝えていきたいです。自分は歴史ある大河の中を泳いでいる。その流れに自分のエッセンスを散りばめて、大河がいろんな色に染まったり、いろんな流れを生んだりすればいいなと思っています。今はその真っ最中にいるような感覚を、眞秀くんと稽古していて抱いています。

――教わる側の眞秀さんに対してどんなことを思われますか?

右近 根本的な本質的な「歌舞伎が楽しい」「歌舞伎がおもしろい」「踊りが好きだ」という自分の気持ちをちゃんと持ち続ける、ということだと思います。自分が楽しんでないとお客様にも楽しんでもらえないということを僕は常から思っていますけど、お稽古も自分が楽しくやらないと、楽しいものだなんて思ってもらえるわけがないから。責任とか義務とかそういうことだけでは無理です。もちろんそれも大事ですけど、最後は「俺はこれが楽しいと思っているから一緒にやろうぜ」という気持ちが一番大事なんじゃないかなと思います。

――眞秀さんは右近さんとお稽古をしていてどんなところを楽しいと思われていますか?

眞秀 どんどん食らいついていくことです。

右近 そうだね。

――それは大変じゃなくて楽しいですか?

眞秀 どちらもあるけど、楽しいが勝つかなと思います。激しい時が楽しいです。

――右近さんはどんな雰囲気ですか?

眞秀 普段と同じです。普段からやさしいです。お芝居の話をすごくします。

――おふたりはどんな関係でしょうか?

右近 友達ではないけど、仲間という感じかな。

 

――会見で右近さんが「相手を信じる、仲間を信じるということも今回ひとつのテーマ」とおっしゃっていましたが、どうしてそこをテーマにされたのですか?

右近 やっぱり信じたほうが楽しいからです。もちろん自分に対して「こうなっていきたい」というイメージがあり、そのイメージに向かっていく中でなにが欠けているかを発見するためには、疑い続けることは非常に重要ですが、やはりある瞬間は信じきれないとやっていられないし、お客様にも支えてくれるスタッフにも失礼なので。その瞬間は自分を信じて、みんなを信じる。「できる気しかしない」という状態じゃないと楽しくないですよね。やっぱり楽しいのが好きだというのはつくづく思います。

――右近さんには「楽しい」がすごく重要なんですね。

右近 大事ですねぇ。やっぱり修行の世界だから、気を抜くと楽しめなくなる。(お客様は)そんなものを見たいわけじゃないだろうと思うので。でも「らく」と「たのしい」は違うから、そこははき違えないようにという修行でもあると思います。

――眞秀さんは今回、目標はありますか?

眞秀 今回の目標は、右近さんに近づくことです。

右近 おお! いいね。

――右近さんに近づくためにはどんなものが必要だと思われますか?

眞秀 ダイナミックさです。

――ダイナミックさは教えられるものですか?

右近 言葉では説明できなくて、身体で伝えられるものだと思います。でも、ダイナミックってなんだろうね。思いっきりお腹すいてる時はめちゃくちゃちゃんと食べるみたいに、ちゃんと信じることができれば思いっきりいけるし、基礎があればダイナミックにできるんだと思います。だから丁寧にやる。丁寧に丁寧に作って興奮すると、そこにダイナミズムが生まれるんだと思う。いま眞秀くんが言ってくれたみたいに、(自分も)「この親獅子に近づく」という気持ちでやってきました。だから親獅子に回るタイミングは今で良かったんだなと、聞いていてすごく思いました。

――受け継がれていっているものが感じられます。

右近 そうですね。循環の中に生きています。

 

――この『研の會』はどんなお客様も楽しめるように気を配ってつくられていることが感じられるのですが、こういうものを楽しんでほしいと思われていることがあればお聞かせください。

右近 一体感ですかね。僕とお客さんの一体感もそうだけど、お客様同士の一体感も。いろんなお客様が来てくださると思うので、その空間の空気にみんなで染まって「幸せな時間だね」という一体感が生まれるようにつくりたいなと思っています。

――眞秀さんがお客様に楽しんでほしいことはありますか?

眞秀 やっぱり獅子です。獅子の動きとかがどれだけ(本当の)獅子に近いかとか、そういうところを見てほしいです。

【公演概要】

 尾上右近自主公演 第八回「研の會」

一、       摂州合邦辻 合邦庵室の場

玉手御前 :尾上右近

俊徳丸  :中村橋之助

浅香姫  :中村鶴松

母おとく :尾上菊三呂

奴入平  :市川青虎

合邦道心 :市川猿弥

二、       連 獅 子

狂言師右近後に親獅子の精:尾上右近

狂言師左近後に仔獅子の精:尾上眞秀

法華の僧蓮念 :市川青虎(大阪)

中村鶴松(東京)

浄土の僧遍念 :市川猿弥(大阪)

中村橋之助(東京)

 

【大阪公演】

場所:国立文楽劇場 

8月31日(土)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演

9月1日(日)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演

主催:尾上右近事務所/関西テレビ放送株式会社 協力:松竹株式会社

 

【東京公演】

場所:浅草公会堂

9月4日(水)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演

9月5日(木)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演

主催:尾上右近事務所 協力:松竹株式会社 助成:芸術文化振興基金