カンテレドラマと松竹新喜劇で新たに生まれる舞台、『大阪環状線 天満駅編 うちの家族は日本一やねん!』。
出演する元NMB48の太田夢莉さん、大阪松竹座の藤田孝支配人、演出の木村弥寿彦(カンテレ)に“ひとと街”をテーマにインタビュー。それぞれの話から見えてくるものとは?
【後編】
「今日だけでおもしろい人にいっぱい会いました(笑)」- 太田夢莉さん
撮影のため、カンテレを出て天神橋筋商店街を初めて歩いた太田夢莉さん。撮影を始めてすぐ、あるオジサンが「あ、ゆ~りとちゃうん? ゆ~りやん、大きなったなぁ!」と急に声をかけて近づいて来た。スタッフも一瞬、太田さんの親せき?と思ったほど。が、太田さんが小さい頃からのファンだった。「大阪って、やっぱりすごいなって一瞬で思いました(笑)」。商店街ではいろいろな人が足を止めたり、チラ見して通り過ぎて振り返ったり。「今日だけでおもしろい人にいっぱい会いました」。
今は東京に拠点を移して活躍中の太田さん。「東京と大阪は全然違いますね。東京の方は見て見ぬふりだったり、話しかけてはこないですけど、大阪の人は『お姉ちゃん、なんて名前やった?』って、けっこうガンガン来る感じで(笑)。声をかけられる時、自分のことを知ってくださってる方は大体呼び捨てですけど、大阪はめちゃくちゃ知り合いみたいに来てくださいますもんね。私は返しが上手な方じゃないので、もっとちゃんとみんなみたいにおもしろく返せたらって思います」と語るが、既に、突然話して来るオジサンにもしっかり対応していた。
「この対応力は関西で身に付けることができました。関西でお仕事できてよかったです。グループを卒業して3年、大きな大阪松竹座の舞台に『成長して帰って来た』って思ってみていただきたいなと、今すごく思っています。これからも頑張ります!」
「地元が盛り上がってくれるといいなぁ」-カンテレ・木村弥寿彦(演出)
カンテレの人気ドラマ『大阪環状線』シリーズは、環状線のひと駅ごとに愛の物語を描き、2016年から3年間で4シーズン放映された。当時制作部だった木村も演出に加わり、このシリーズは1シーズン10話のドラマで全40話、駅を2周。そして、大阪松竹座から木村の演出による舞台化を依頼された。「すごくうれしかった。大阪の人たちの認知度があったからなんだなと思うと、舞台が出来るのは素直にうれしかったです」。それもシリーズ化され今回で3作品目。ドラマ演出を何本も手掛けていた木村は「最初は映像と舞台の演出の違いにとまどった」と言うが、作品のコンセプト同様にその地域愛は一貫して変らない。出演者は全員関西出身者でそろえ、さらに今回はカンテレ地元の天満駅編だ。
●『大阪環状線 天満駅編 うちの家族は日本一やねん!』裏話
完全オリジナルだった前2作と異なり、今回は人情劇を得意とする松竹新喜劇の多くの脚本の中から選ぶことが提案された。いくつかの候補から「人と街との関係を描いたドラマに近いものを選びました。これなら2部構成にして、1幕は原作で、2幕はその後の続きを作ったらおもしろいのでは」と、かつて藤山寛美が演じた夫婦の話を描く『大人の童話』に。家の中で展開する物語に、いかに天満を結びつけるか。舞台を天神橋筋商店街の小料理屋という設定で「話の中に祭ばやしの音や天神祭のギャルみこしのシーンなど、天満ならでは感を入れ込んで仕上げていきました」。
(Ⓒ松竹)
シリーズで毎回登場する歌のシーンは大阪出身のシンガーソングライター・寺田もかが担当。「彼女の役は天満宮の神様的なキャラクターで、歌は今回もオリジナル。天満の商店街な感じと物語の雰囲気を伝えて作ってもらいました」。実際のギャルみこしの人たちに法被を借り、みこしも出る。「地元の話ですからね。盛り上がってくれるといいなと思うんですけど」。コロナ禍で3年間中止されていたギャルみこし、今年はそのミニ版が舞台でよみがえる。
演出を考えるにあたり、その取材に協力してくれたのが、木村が10年来行きつけという商店街の店『肴や』のマスター。「ギャルみこしのこと、どこに聞いたらいいかなと尋ねたら『商店街のあっこの人が仕切ってるわ。電話したろか』って。天満宮の神事にあやかって商店街でもイベントをやってるんですが、今年も中止で直接取材ができず。でも『週末にちょっとやるで』と踊りやおはやしのイベントの情報を聞いて見に行ったりしていました」。
●天満からやってますよ~!
ドラマ『大阪環状線』は、舞台となる駅の周辺でロケを行なっていた。シリーズが回を重ねるにつれ、地域の反応を実感することが増えたと木村は話す。「シリーズ3回目の時なんか、スタッフがうろうろロケハンしてるだけで『あ、環状線またやるの?』って。『私らエキストラで出るでぇ』とか、めちゃめちゃ浸透してるなぁとすごく感じました」。
天満という地域にあるカンテレ。今後はどんなテレビ局でありたいか。思いを聞いた。
「カンテレは大阪の天満にある放送局。その立ち位置はすごく大事だなと。だから『天満からやってますよ~』っていう発信がもっともっとあってもいいかなと思っています。おそらく今後、全国的な放送が配信で見られるようになると、地方の放送局は地元をもっと意識したコンテンツを制作し、地域に愛されないと生き残れなくなると思うんですよね。天満から発信しているカンテレは、地元との一体感がある、地域から愛されている局でありたいと思うんです」。
●もっと関西弁のドラマを
「僕はもともと関西弁でドラマを作りたかったんです。入社した時から『なんでドラマってみんな標準語なんだろう』と思ってて。2004年に漫才師・横山やすしさんのドラマ『横山やすしフルスロットル』を作った時ぐらいから全然関西弁でもイケるやんと思って。そこから田辺聖子さんの作品をドラマ化するなど、うまく大阪を取り込んだドラマを作れる流れになった。関西弁でもっと作れたらいいのにと思うし、『大阪環状線』に変わる関西発のドラマがもう少し生まれてくるといいなと思います。関西にいる人たちがもっとどんどん活躍できるお話やドラマを作っていければ。自分らが普段使ってる言葉が、そのままドラマになってたらやっぱり楽しいじゃないですか。そんな感じを一番望んでいます」。
「舞台『大阪環状線』が、今後どう発展するのかは皆さんの反応を見てからになると思いますけど、できればまたいろいろやりたいですね」と語る。カンテレと大阪松竹座の挑戦はひとと街に支えられて続いていく。
舞台『大阪環状線 天満駅編 うちの家族は日本一やねん!』
2022年11月28日(月)〜12月12日(月)大阪松竹座