これからの時代の映像表現に必要なことを、菊間千乃さんといとうせいこうさんが語りました。
テレビや映像表現を取り巻く状況は、コンプライアンス問題や技術の進化などを含めて、目まぐるしく変化しています。
アナウンサーとしてテレビ業界を熟知し、現在は弁護士として法の側面から放送業界に関わる菊間さん、出演者としてだけでなくクリエイターとしても映像表現に関わってきたいとうせいこうさんは、「変化する世の中でどうやって良いものを生み出していくのか」と、悲観ではなく期待をにじませます。
テレビや映像を取り巻く現状、映像表現を学ぶ人たちへ期待することを菊間さんといとうさんに聞きました。
<スマホで映像制作を学ぶ時代に!京都芸術大学とフジテレビが新時代の「オンライン映像コース」を開設>
「今の映像の世界に対する危機感があったり、逆に可能性も感じていたりする」(いとう)

――ここ数年でテレビを取り巻く状況は目まぐるしく変化していますが、実感はありますか?
菊間:特にコンプライアンスの変化はすごいですね。昔、自分がテレビ業界にいた頃のような番組は、今では放送できないものがいっぱいあります。以前は、「テレビは放送されて終わり」だったけれど、今はネット上に残りますし、部分的に切り取ってネットに上げられることで、違う形で伝わってもいきます。全体を見れば問題ないことでも、そこだけが取り上げられることで非難されることもあります。
だから昔よりも作り手が萎縮(いしゅく)しちゃうというか、ただ作るだけでなく、いろいろなことを考えて作らなければいけないという意味で、大変な時代でもあるのかなとも思います。
一方、そこを踏まえた上でも、やっぱり素晴らしい作品も出続けているから、「もうダメなんだ」じゃなくて、「その中でもどうやって良いものを生み出していくのか」っていうことですよね。
いとう:機材やカメラの機能も上がり、物理的にも小さくなったことで、これまで映らなかったところまでを映せるようになっている。「複数のカメラを使ってどういう表現ができるのか?」という可能性も広がっています。
特に舞台映像の撮り方って、これまであまり進化してこなかったんですが、これからはグッと変わっていくんじゃないかな。舞台の内側から、360度から、いろいろな撮り方が出てくると思うし、例えばVRゴーグルをかけて自分が舞台の中に入ったような、バーチャルな空間で芝居を見せることも可能になる。
技術だけがどんどん進歩していく状況の中で、新しいことだけではなく、逆に「過去に誰が、どういう技術で映像を生き生きと撮ってきたか」という“歴史”を知ることによって、過去も未来も俯瞰(ふかん)して見られるようになるんじゃないかなと思っています。
――京都芸術大学とフジテレビが共同で設立する映像コースの講師のオファーを受けた感想は?
いとう:「フジテレビが新しい金儲けの方法を考えたのか」と思ったけれどそうではなかった(笑)。普通はテレビ局がこういうことをやるのなら卒業生を囲い込むと思うけれど、そうではなくむしろ業界を活性化するために「商売敵を作ってもいい」(新設発表会での大多亮フジテレビジョン専務取締役の発言)とまで言っているのは偉いなと思っていて。
“完全オンライン”での受講ということで、学生も若い人だけでなく社会人だっている。これだけいろいろな人たちが表現者になっている時代で、すべての人に受講する意味がある講座になるのかなと思いました。どこからどんな才能が出てくるか、誰も予測できないし、むしろ予測しなくていい。
それに、これだけのクリエイターが講師として参加してくださるっていうのはすごいこと。皆さんそれぞれの思いで、今の映像の世界に対する危機感があったり、逆に可能性も感じていたりするから引き受けたんじゃないかな。
もう本当にいつかは僕も含めてみんな死んでいく立場なので(笑)、次の世代にちゃんと伝えたいっていうところはあると思いますね。
「伸びやかに表現できない理由は、いろいろな人たちが“目立つ”ということに対して叩くから」(菊間)
――テレビ業界や映像制作に詳しいクリエイターだけでなく、菊間さんのように法律のエキスパートも講師を務めるというのは、「映像コース」としては新しい試みですね。
菊間:コンプライアンスって、法律的にオッケーだったら何でも大丈夫ということではないんですよね。私は日々、フジテレビからそういう相談を受けていて、「これは許可を取ったほうがいいです」とか、「これはそのまま流して大丈夫です」ということを、裁判例だけじゃなくて、世の中の流れも見ながら伝えています。
映像の学校は世の中にいろいろあるかもしれないけど、今の日本で作品を作ったときに、例えば「海外にどうやって出すか、その場合どんな問題が起こり得るか」ということまでを教えるのは、専門学校でもやってないと思うんですよね。
だから、生徒たちにも「こうだからこうでダメなんです」ではなくて、「どうやったら自分の表現したいことが、リテラシーを持ちつつ作れるのか」と考えられるようになってもらいたい。
映像を作るということは、裏にそういうことを常に考える視点が必要なんだと理解していただくことが、これからの時代には必要なんだろうなと思いました。
――これからの時代に必要な考え方、映像を作るときに必要なことは何だと思いますか?
いとう:やっぱり菊間さんも言うように、アウトプットの問題です。アウトプットしたときに、それがどこまでの範囲に届くものなのか、どういう人が見るか分からない状況で、現在からすごい未来まで届いちゃうという時代になってしまった。届き方がこれまでとはまるで違うということなんですよね。
菊間:私は法律家なので、メディアリテラシーの話はするけれども、「怖いから表現しない」となるのも違うと思うので、「何がダメなのか」ということを理解した上で、もっと自由に穏やかに表現をしていってほしいと思っています。
伸びやかに表現できない理由は、いろいろな人たちが“目立つ”ということに対して叩くとか、相手の違う部分を認めないってことだったりもします。それは、多様性を尊重するという議論にも繋がっていくと思うので、そういう文化そのものが、もっと日本の中で成熟していくといいですよね。
自分の感情とか、感じたことを表現するうえで、誰も傷つけないでやっているんだったら、人に否定される筋合いはないんですよ。でも今はそれでも叩かれる時代だというのは、やっぱりおかしいこと。そこを皆が勉強することで、自分も人を傷つけないような“発信の仕方”を考えられるし、自分も誰かをも否定しないことにもなるんじゃないかと。
すべてにおいて、足を引っ張り合うような世の中なのは嫌ですし、お互いにちょっとずつ許し合い、「お互い様だよね」と言いながら高め合っていくような世の中であってほしい。特に映像を作る人たちには、そうであってほしいと思っています。
<京都芸術大学 通信教育部×フジテレビジョン 2024年度新設「映像コース」概要>
スマホで劇場映画をつくれる時代に、
テクニックを超えた「映像力」を身につける。
正式名称:通信教育部芸術学部デザイン科映像コース
開設日:2024年4月
授業料(予定):348,000円(年間)※詳細は12月上旬公開の「募集要項」で公開。
・大学資格(学士)取得可能
・通学不要
・編入学可能
自宅から体験できるオンライン授業を開催!
「秋のオンライン1日体験入学 映像コース」
開催日時:11/19(日)10:00〜11:30
担当教員:下川猛(プロデューサー)、丹下紘希(映像作家)、竹村武司(放送作家)、藤井亮(映像作家・クリエイティブディレクター)
コースの概要・講師の詳細は公式サイトへ