『時をかけるな、恋人たち』より、美術デザイナー・後藤レイコさんの仕事術を紹介します。
この記事は、カンテレのオウンドメディア「みよか」から引用し、構成したものです。
カンテレ・フジテレビ系火曜23時のドラマ枠「火ドラ★イレブン」で放送中の『時をかけるな、恋人たち』。
時間SFを得意とする、ヨーロッパ企画の上田誠さんのオリジナル脚本。吉岡里帆さん主演、恋の相手役・永山瑛太さんによる、二人がタイムパトロール隊のメンバーとして、違法に時をかけてくる恋人たちを取り締まりながら、自らも時空を超えた本気の恋をするタイムパトロール・ラブコメディです。
吉岡さんは、令和の時代を生きる“辻褄(つじつま)合わせ”が大得意な主人公・常盤廻(ときわ・めぐ)を、永山さんは、未来からやってきたタイムパトロール隊員・井浦翔(いうら・かける)を演じています。


『時をかけるな、恋人たち』は、タイムパトロール隊のレトロフューチャーな世界観も大きな話題に。
パトロール基地の空間を手がけた、美術デザイナーの後藤レイコさんに、美術コンセプトについて聞きました。
<後藤レイコ コメント>

――美術デザイナーやデコレーターって、どんな仕事ですか?
美術デザイナーは、カメラに映り込む背景を統括して準備する仕事ですね。
セットを組むのであれば、私がデザインして、図面を書くスタッフに渡す。それをもとに、大道具さんにセットを組んでもらい、デコレーター(装飾部)と部屋のインテリアについて打ち合わせをします。
私が「これがほしい!」と細かく提示するアイテムもありますし、装飾部さんから提案いただいて取り入れるアイテムもあります。未来のガジェット等の小道具のデザインや造形も美術の仕事になります。

――『時をかけるな、恋人たち』では、監督やプロデューサーからどんな依頼があり、セットや美術の世界観ができあがったのでしょうか?
「レトロフューチャーな基地をセットでつくりたい」という明確なオーダーがありました。そこから自由にイメージして、台本を読みながら「こういうふうに動くのかな」と、キャラクターの動線を連想するんです。
監督と話しながら「オペレーター卓があって、真ん中にテーブルがあって、それぞれのセクションが両脇に配置されている」みたいなレイアウトを決める。そのあと、インテリアや小道具を含めたディテールを詰めていきます。
アウトプットとして3Dデザインをすることもありますし、イラストや平面図を描くこともありますね。今回は、パトロール基地の簡単な模型をつくって、監督をはじめとするスタッフに共有させてもらいました。

――ディテールにこだわっていく段階で、後藤さんがまず決めることは?
雰囲気やトーンですかね。ひと口に「レトロフューチャー」といっても、映画「ブレードランナー」を思い浮かべる人もいれば、「2001年宇宙の旅」をイメージする方もいますよね。そのなかで、私は『サンダーバード』を連想しました。各自それぞれ抱いている「レトロフューチャー」にギャップが生まれないよう、共通認識を持つようにしています。
SFラブコメですから、高尚で重厚なセットというよりキッチュな感じを出したかった。ただ、セットまでコミカルにしてしまうと…やり過ぎかな、と。
大人がつくる大人のラブコメですし、切ない展開もあることから、すべての色にグレーが混ざっているような、くすんだカラーリングの空間を提案しました。

――セットには、タイプライターなど懐かしい小道具がたくさん置いてありました。近未来的な作品の世界観に、レトロを持ち込んだ意図や狙いはどこにあるのでしょうか?
アナログ感の演出といいますか、手垢をつけたかったんですよね。監督も同じ意見でした。
いま世の中に出回っているガジェットは小型化され、凸凹がないものになっていく。液晶画面の中にボタンを設けたiPhoneが最たる例で。通信環境もWi-Fiが主流で、無線が当たり前。
でも、監督は『時をかけるな、恋人たち』で描かれる未来の設定を「無線が人体に悪影響を及ぼしている」としたんです。
だから、すべてアナログな有線に回帰しているんですよね。
――たしかに、セットの中がケーブルだらけでした!
セットの中で目立つ2本の太い柱は、パトロール基地のハードディスクという設定にしました。
そこからケーブルがたくさん垂れていて、ひとつは「フォゲッター」という意識や記憶を失くす機械に流れている。もう1本の柱から出ているケーブルは、時空を行き来するための「時空境界線」につながっています。
ボタンも押したらへこむ、触って楽しむアナログさがあると楽しいかな、と思ってタイプライターを配置して。
ちなみタイプライターのアイデアは、演出部の資料がキッカケでした。セットも小道具も私一人では作りきれていないものばかりです。

――美術デザイナーの仕事において、やり甲斐や達成感はどんな瞬間に感じますか?
俳優部が空間に入って、その空間で生きてると感じたときですかね。
今回、吉岡さんが「廻が基地の未来人メンバーになじんできた表現をしのばせたい」とおっしゃって。
それで「現代で買って来たお菓子を基地で食べたらどうかな?」と提案なさったんです。
吉岡さんが食べたいとおっしゃったのは、スティック状のチョコレート菓子。でも、世の中に売っている商品を映すことはできないから、“あの”商品をパロディ化したパッケージを1から全部つくりました(笑)。
そうしたらお芝居のなかで、基地のメンバーとつまみながら「これは現代に売っているラッキーってお菓子で、食べるとラッキーになるんだよ」ってセリフに加えてくださって。
「彼女だったら、これ好きだろうな」「こんな生き方の彼は、こんなアイテム選びそう」と、キャラクターの感情を推し量ってセットを飾りつけていくんですよね。
私たちのそういう思いを、役者さんが感じ取ってくださって「なるほど、私が演じるのはこういう価値観の人間かも」と芝居のヒントにしてくださった瞬間に、よかったと感じます。
――ドラマや映画で美術を手がけることのおもしろさは?
役になれるところ、でしょうか。少女の部屋をつくるときは、私も少女の視点に立って「なりきる」んですよ。
老若男女、いろんな職業のキャラクターになれて、内面を想像しながら美術に反映させていく過程がおもしろい。だから俳優みたいに、役や作品が抜けるのに時間がかかるんですよ。
――美術デザイナーもそうなんですね! これまでに役が抜けなかった作品は?
蜷川実花さんが監督を務めた「人間失格 太宰治と3人の女たち」かな。太宰治の目線もさることながら、彼と関係した「3人の女たち」を描いた作品でして。
この3人、それぞれ非常にパンチの効いた人物でして。撮影現場づくりを通じて、それぞれの女になりきったわけですから…非常に抜けづらかった。
しかも、3人がシャッフルされて、自分の中で1人になったりするんですよ(笑)。しばらく、情緒が大変でした!

火ドラ★イレブン『時をかけるな、恋人たち』は、毎週火曜23時より、カンテレ・フジテレビ系で放送されます。
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