テレビ新広島が、英語で被爆証言をする数少ない語り部・小倉桂子さんに密着しました。
報道特別番組『アイ アム アトミックボム サバイバー~小倉桂子が伝え続ける理由~』(8月6日/テレビ新広島、8月11日/フジテレビ)が放送されます。
被爆者の高齢化が進み、被爆者たちは「自分に残された時間」と対峙しています。2021年3月からカメラが追いかけたのは、小倉桂子さん(85)。

英語で被爆証言をする数少ない語り部です。今年5月、G7広島サミットで各国首脳との面会にひとりで臨み注目されました。
小倉さんは、8歳のとき爆心地から2.4キロの牛田町で被爆しています。多くの被爆者もそうだったように、彼女も長年、日本国内で自らの被爆体験については口を閉ざしてきました。
過去を語ることは、心をえぐられるような思いであり、家族への差別も恐れていたからです。結婚して、専業主婦として幸せに暮らしていました。
夫の死後、年間2000人のペースで約40年間、国内外へ発信
しかし、広島平和記念資料館の館長も務めていた夫が、平和宣言の草稿執筆中に急死。夫と交友のあった海外ジャーナリストからの後押しもあり、夫の遺志を継いで被爆証言者の通訳をするようになります。独学で必死に英語を学び直す日々、彼女の暮らしは一変しました。
さらに、証言活動を始めたころは、通訳に徹していた小倉さんですが、あるとき広島を訪れた外国人から「通訳では、時間がもったいない。質問をする時間がなくなるから、桂子の被爆体験を聞きたい」と懇願されたことをきっかけに、重い口を開くことに。
それからは「見えない苦しみを伝えられるかもしれない」と、自らの被爆体験を伝えるようになりました。夫の死後、年間2000人のペースで約40年間、国内外へ発信を続けてきました。

番組スタッフが小倉さんと出会ったのは、新型コロナウイルスの影響で被爆証言者の伝える場がなくなっていたときのこと。
そんななかでも、小倉さんは当時83歳にしてパソコンを勉強してウェブ配信を試みるなど、前向きに活動を続けていました。
取材中には、小倉さんとともに被爆証言をしてきた著名な被爆者が次々と亡くなりました。彼女自身も高齢になったなか、残された時間に自分ができることを考え、「若い世代へバトンを託す」ために行動を起こします。
電撃来日したウクライナのゼレンスキー大統領との面会の大役が
そして今年5月、G7広島サミットでの各国首脳への被爆証言、さらに電撃来日したウクライナのゼレンスキー大統領との面会が急きょ決まります。
この歴史的瞬間に、被爆者それぞれが思いを持つなか、小倉さんはこの大役を受けることに「荷が重すぎる」と葛藤しました。
それでも覚悟を決めて、たったひとりで重責を担った3日間に密着。コロナ禍の2年半、被爆者・小倉桂子さんは何を思い伝えてきたのか。平和のバトンを渡された人たちは、何を受け取ったのか。被爆者の今と継承を描きます。
ナレーションは、岡田将生さんが務めます。
※小倉桂子さんは、2023年8月4日で86歳になります。

報道特別番組『アイ アム アトミックボム サバイバー~小倉桂子が伝え続ける理由~』は、8月6日(日)14時より、テレビ新広島で、8月11日(金)27時55分より、フジテレビで放送されます。
<岡田将生 コメント>

僕は、誕生日が終戦記念日で、いつか平和について自分にもできることがあれば何か作品として関わりたいなと思っていました。
この作品では、小倉さんの気持ちをナレーションとして背負ってというか、寄り添って、この出来事を伝えたいという思いで、今回のお話を受けさせていただきました。
ナレーターとして言葉を操るのは、とても難しいことでした。だからこそ、小倉さんがメディアの前でメディアの方々に「正しいことを伝えてほしい。メディアに関わる人間には責任がある」と伝えるシーンには、ものすごく重みを感じました。
自分自身、その重みをかみしめながらやろうという気持ちで臨んだので、この作品を見る方々にも、本当の事実をかみしめながら見てもらえればと思います。
<石井百恵(ディレクター)コメント>
小倉さんとの最初の出会いは、夕方ニュースの取材先に小倉さんが被爆証言に来られていたことでした。
その人間力と言葉の力に魅せられ、映像に残さなければという思いに突き動かされました。 取材を続ける中で、小倉さんの側にいると、いつの間にか人が集まり、次から次へと何かが起こります。
私は、自然とそれを追わずにはいられませんでした。「私の役目は、若い人の心のろうそくに火を灯して、私がやらねばという気持ちを起こさせること」と、小倉さんはいつもおっしゃいます。 私もいつの間にか、火を灯された一人なのだと思います。気がつけば番組になっていました。
平和公園にある慰霊碑には、「過ちを繰り返しませぬから」という碑文が刻まれていて、小倉さんたち被爆者は「もう誰にも自分と同じ思いをしてほしくない」と伝え続けてきました。
しかし今、ロシアによるウクライナ侵攻が起こり、それが揺らぐ事態となっています。今こそ、見えない苦しみを抱えてきた被爆者の声に耳を傾けてほしいです。
2年半の間、小倉さんは国内外でたくさんの平和の種蒔きをしてきました。小倉さんのメッセージを、番組をご覧になったみなさんにも受け取っていただきたいです。
それをきっかけに、心に芽吹くものがあり、いつか花開くことを願っています。