お笑い芸人、コロコロチキチキペッパーズのナダルさんが、子ども時代のいじめ、劣等生だった養成所時代、相方・西野創人さんとの出会いと関係性、家族の存在、そして“お笑い”への情熱と飽くなき探求心について言及。
初著書となる「いい人でいる必要なんてない」(KADOKAWA)で明かしました。
フジテレビュー!!では、ナダルさんにインタビュー。苦悩や葛藤を経て導き出した「自分を犠牲にしてまでいい人でいる必要はない」という、ナダルさん流の“本音で生きる術”に迫りました。
<ナダル インタビュー>

――最初に「本を書きませんか?」と依頼されたときはどう感じましたか?
めちゃめちゃうれしかったです。本ってなかなか書けるもんじゃないと思うし、一流芸人の仲間入りをしたような気がして感動しましたね。
――書くことに不安はなかったですか?
確かに、「全部本当のことを書いてほしいんです」って言われたんで、“本当のこと”ってなるとちょっと不安でしたね。やっぱり芸人やから、考えて笑わせようとしてる部分はあるんで、そこを全部書いていいもんなんかっていうのは不安でした。
――苦労したのはどんなところですか?
芸人・ナダルとしての気持ちと素の自分としての気持ちって、やっぱりちょっと違ったりするんで、ふたつの矛盾した気持ちをどう書くか、というのは苦労しました。
だから「いい人でいる必要なんてない」というタイトルなんですけど、100%そうはできなかったというか、やっぱり“いい人”でいたくなっちゃったというか…(笑)。
でも、ホントに全力で書いたのは間違いないです。
――逆に、書いていて楽しかったエピソードはありますか?
楽しいというより、小っ恥ずかしいことがやっぱり多かったかなあ。パンチングマシーンの話(※)は、言ったことなかったし、小っ恥ずかしかったですね。
(※)学生時代、家でパンチングマシーンを殴り続けて家族に怖がられていたというエピソード

「全部本当のことを書いて」というオファーに悩むも、相方・西野の反応は?
――いじめられていた当時の、やり場のない気持ちをぶつけていたのではと推測しましたが、ご本人的には恥ずかしかった、という感じでしょうか?
そうですね。若気の至りじゃないですけど。まあ、たぶん同じような経験をしたことがある人もいると思うので、「しゃ~ないよ」って思ってもらえたらありがたいです。
――完成した本を見たときはいかがでしたか?
デザインも最高で、イラストもいいし、文章も…プロの方に手伝ってもらいながらですけど、すごくいい文章になりまして。相方も、「こんなこと言われたことない」っていうような手紙を書いてくれたりして。最高の本ができたと思います。

――西野さんからの手紙と、ナダルさんの西野さんへの気持ちが書かれているところは、コンビ愛が感じられました。
最初、(西野さんからの手紙を)人がいるところで読んだので我慢しましたけど、その後、家でもう一回読んでこっそり泣きました。
――西野さんは、本を出すことに対してどんな反応をしましたか?
編集さんとの打ち合わせで「全部本当のことを書いて」と言われたので、「全部ってちょっと怖くない?」って相談したら、西野は「いや、めっちゃおもろいやん」と。こんな機会はそうないからやったほうがいいし、それに「もうそろそろ“ただヤバイやつ”っていう感じでもなくなってきてるんちゃう?」と言われて。
確かに、YouTubeも始めて、そういう反応だけじゃなくなってきたというのもあって。「本を出すことで、幅を広げるための“いいきっかけ”になるんじゃない?」みたいな感じで言ってくれたんで、「やってみよう」となりました。

「もっとクズっぽくせなあかん」って考えた時期もあった
――取材撮影で、実家や母校にも行っていましたが、何かエピソードはありますか?
実はおとんが「家は散らかっているし、嫌や」って感じやったんで、おかんにだけ頼んでいて。でも、実家に行ったら、おとんがめっちゃおって(笑)。
ほんで、聞いてもないのにめちゃめちゃしゃべるし、ご機嫌でしたね。実家にいたころ、おかんとはようしゃべってたけど、おとんとそんながっつり僕のことを話すことってなかったんです。だから、おとんの気持ちを知るいい機会にもなりました。

――冒頭に「強靭なメンタルを手に入れられたのは、芸人として成功するため強制的にでも自分を変える必要があったから」とありますが、それ以前は、メンタルの弱さもあったのですか?
(『アメトーーク!』の企画)「ひんしゅく体験!ナダル・アンビリバボー」での反応や叩かれ方がエグかったんで…。(SNSの)リプが2~3日止まらんぐらいやったし。もちろん、否定的な意見が多かったんですけど、そういう(番組への)呼ばれ方が多くなって。「それが求められてることなんや。ほんなら、嫌でもせなあかんやん」と思うように。
そこを受け入れずにやったらめっちゃしんどいから「覚悟を決めなあかんな」って。
ただ、覚悟を決めても「やらなしゃあない」ぐらいの感覚ではそこまで尖れないから、もっと本気を出して“そこに全力で取り組む”という感じにだんだんシフトチェンジしていきました。
――「大切なのは、クズかどうかではなく本音かどうか」という言葉が印象的ですが、今、ナダルさんは“クズ芸人”という肩書きを意識しすぎることなく活動できているのでしょうか?
そうですね。結局、“クズ芸人”っていう縛りはいらんかな、というか、この本を出すことによって、「クズでもないやん」となりそうな気もするんで。
そもそも、面白いのとキツいとこのギリギリが面白いと思ってやった結果そういう風にカテゴライズされただけで、“クズ芸人”と言われようと思ってやってないですし。
それに縛られて「もっとクズっぽくせなあかん」って考えた時期もあったんですけど、やっぱり本音というか、お笑いを軸に考えて、面白いと思うことをやることが大切やし、結局それがいちばん面白いな、と思って。

目標にしている芸人は「今は陣内(智則)さんですね」
――また、「クズ芸人と違う道にも挑戦したいと思っている」ともありますが、今後どんなことに挑戦したいのですか?
もう少し幅を広げたお笑いができたらいいな、と。それこそ普通のバラエティ番組でも活躍できるようになりたいなと思います。
あと「声がいい」って言われるので、ナレーションとかもやってみたいです。今は(自分に対する)印象があまりよくないかもしれないですけど、そこがちょっとでも変わってきたら、そういったこともフラットにできるかもしれないですし。
――今後につなげるため、意識してやっていることはありますか?
ボケもツッコミもできるように、というのは意識してます。今までは“イジられて返す”のが僕の笑いの軸やったんですけど、それだけじゃなくて果敢にボケてみたり、誰かがヘンなこと言ったら思いっきりツッコんだり、そんなんは昔よりやれてる気がしますね。
――目標にしている芸人さんはいますか?
今は陣内(智則)さんですね。もちろんMCで回すのもとんでもなくうまいですけど、陣内さんのいちばんすごいところって、ツッコミのタイミングと声量と「なんでやねん!」のオモロさというか。
そこやったらマネできるんちゃうかっていうか…そう言うとえらそうですけど、がんばって陣内さんを目指したら、そりゃ陣内さんほどはムリかもしれないけど、幅広く活躍できるんちゃうかな、って。

――本書に、1000本のネタを考えても、西野さんにいいと思ってもらえるのは1、2本、とありましたが、芸歴を重ねるうち、その打率が上がっていく感覚はありますか?
うーん…ネタってめっちゃムズいですからね。一応、昔より意味がわかることを言ってるとは思うんですけど、西野も進化してますので、あんま首を縦には振ってくれないですね。昔やったら採用されてそうなことも、今やったら僕のキャラクターも考慮してやらなあかん、みたいなことも言うんですよ。
「誰がやっても面白いものはやってもあんまり意味ない。僕らやからやる意味があるネタをしたほうがええんちゃう?」と。
昔より的を射たことを言ってるかもしれんけど、もっと精度上げなあかん、ってことに2人で気づきだしてる状態なんで、あんまり採用率は変わってないかもしれないですね。
ただ、昔より、西野の対応はやさしくなりました。
――今後、コンビでやってみたいと思うことは?
2人でゴールデンの冠番組とかできたらうれしいなぁ、と思いますね。
――たとえばどんな番組ですか?
僕らは、老若男女に受け入れられるほどは浸透してないと思うんです。もちろん、そっちに寄せる必要はないかもしれないですけど、明るい番組というか…。
例えば、(笑福亭)鶴瓶さんの『鶴瓶の家族に乾杯』(NHK)とか、『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』(テレビ東京)とか、関西でフットボール(アワー)さんがぶらりロケ番組みたいな番組(関西テレビ『フットマップ』)をやってはるんですけど、西野が「こんなんやりたい」みたいなこと言ってましたんで。

目指している「M-1」「優勝しようもんなら大変なことになるんちゃいます?」
――ナダル軍団(EXIT、レインボー、そいつどいつ・市川刺身など)についても書かれていますが、ナダル軍団はどんな存在なのでしょうか?
ホンマに安らぎの場所といいますか、僕のことを尊重してくれるだけではなく、刺激にもなってるんですよ。僕は、ただ忠誠を誓ってくれるやつを集めただけやったんですけど、なんか結果を残しだしてるんですよね。
そいつどいつは「キングオブコント」の決勝にいったり、レインボーもYouTubeが好調でテレビに出だしたり、(EXITの)兼近も忙しいのにいろいろしてくれたり、すごくいい子らで、僕ももっとがんばらなあかんなぁって。それこそ、ナダル軍団で番組とかできたら楽しいなと思います。
――例えば、どんな番組がいいですか?
(少し考えて)まぁ、『鶴瓶の家族に乾杯』ですかね。
――コンビでやりたい番組と同じですか?
『世界の果てまでイッちゃってる!』みたいな(笑)。みんなの知名度が上がって、お茶の間で好かれるような感じになったらうれしいですね。
――今、改めて西野さんに何か言うとしたらどんなことを言いますか?
いっぱいありますけど、「てっぺん取ろう!」かな。最近、西野の面白さがちょこちょこテレビでも伝わってきているというか、この前『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ)でバカハネして、業界でも話題になってるんです。
僕からしたら西野がオモロいのはわかってるんですけど、まだ2人の面白さってそこまで伝わってないというか、ここからまだ全然いける自信があるというか。2人で出だしたら、これイッちゃうよ!って。
――ナダルさんの面白さをいちばんわかっていて、それをいちばん引き出せるのは西野さんですもんね。
そうですね。西野ってホンマにすごいヤツなんで。でも、それがまだ出てない。ちょっと出しただけであの感じならこれから先が楽しみですね。それこそ今「M-1」目指してますけど、もし優勝しようもんなら大変なことになるんちゃいます?
――「M-1」目指しているんですか?楽しみです。ところで、ナダルさんには人生の野望はありますか?
大金持ちですね。めちゃめちゃ稼げたら、仕事辞めてどこか田舎の方に引っ越して、魚釣ってさばいて奥さんに食わしたり。で、日本各地を旅行して…まぁ、隠居すね。
仕事してお金をもらえることもすごく幸せなことやってわかってるんですけど、1回きりじゃないですか、人生って。そう考えると、本当の世界の素晴らしさを全然知らんというか。
せっかく生まれたんならこの世界の素晴らしさをもっと知りたいな、と。子どももついて来てくれたらうれしいですけど、子どもは子どもでやることあるやろうから、奥さんと2人で旅行して「おお~!なんじゃこりゃ」とか言いたいですね。

「いい人でいる必要なんてない」ナダル(KADOKAWA)
発売中
定価1,540円(税込)
詳しくは、書籍詳細ページまで。
取材・文:落合由希
撮影:古川義高