松林うらら、女優が“脱ぐこと”への疑問が映画製作のきっかけに。「1つの売れる材料になっちゃってるのに疑問が…」

公開: 更新: テレ朝POST

2018年、報道やネットなどがもたらす情報の加虐性を描いた映画『飢えたライオン』(緒方貴臣監督)に主演した松林うららさん。

『飢えたライオン』は、東京国際映画祭でワールドプレミア上映され、その後、第47回ロッテルダム国際映画祭など多くの映画祭で上映。松林さんは、SNSに流されたデマがさも事実のように拡散し、追い詰められて自殺という道を選択してしまう主人公の女子高生・瞳役を演じて話題に。

2020年には、映画界におけるセクシャルハラスメントに立ち向かうオムニバス長編映画『蒲田前奏曲』(中川龍太郎監督・穐山茉由監督・安川有果監督・渡辺紘文監督)を製作。松林麗名義で初監督を務めた映画『ブルーイマジン』の公開が2024年3月に控えている。

 

◆映画とともに人脈が広がって今に繋がっている

『飢えたライオン』で松林さんが演じた主人公の女子高生・瞳は、淫行容疑で警察に連行された担任の性的な動画が流出したことから、その相手だというデマを流されてしまう。すぐに誤解は解けると思っていたが、ネット上でもデマが事実のように広がっていき、自宅の住所や家族のことまで晒(さら)され、恋人や妹からも避けられるように。男たちに性の対象として好奇の目で見られ絶望を味わった瞳は自ら死を選んでしまう…。松林さんは、この作品で初めて海外の映画祭に参加することに。

――ロッテルダム国際映画祭はいかがでした?

「当時、私はあまり映画祭の存在自体を知らなくて(笑)。東京国際映画祭で、私のそれまでの人脈から広がって人間関係が繋がっていきました。ロッテルダムに関しては、行けるとは思ってなかったので驚きました。素直にうれしかったです。

初めてのヨーロッパでしたし、とにかくお客さんが本当にちゃんと映画を見てくれるというか、一緒になって映画の内容を考えてくれるという環境があったことが、すごく私にはいい経験になったなあと思っています」

――ロッテルダム国際映画祭にはどのくらいの期間行っていらしたのですか?

「1週間くらいはいたと思います。よくお金があったなあって(笑)。そのときは出演者にはまったくお金は出ないので」

――ロッテルダムには自腹で行かれたのですか?

「はい。航空券代とかホテル代は、出演者にはまったく出ないので自腹だったんです。低予算映画でほとんど予算がないなかでやっていたので。モデル業と俳優業の仕事をしていたギャラなどを少しですけど貯めていたんです。あとは祖母にお年玉を多くもらって…(笑)。

海外の映画祭は、基本的に監督の分しか交通費やホテル代が出ないということも知りました。映画の代表はやはり監督の立場なのだなと」

――金銭的には大変だったと思いますが、後の映画製作に繋がる出会いもあったそうですね。

「はい。お金には代えられない財産になりました。もちろん資金がなければ辿り着いてないですし、祖母にも両親にも早く大成して恩返しをしなければ…(苦笑)。

けれど、あのときに現地へ行って本当に良かったと思っています。海外のフィルムメーカーや作品と出会うなかで大いに刺激を受けましたし、映画の可能性を感じました。そのことが今に繋がっています」

――女優としてだけでなく、映画を作る側の仕事もするきっかけになる小野(光輔)プロデューサーとの出会いもロッテルダムだったそうですね。

「そうです。小野さんもロッテルダムにいらしていて、そのときは本当にあいさつ程度だったのですが、日本に帰ってきてから、新進女性映画監督15人がメガホンをとった短編オムニバス映画『21世紀の女の子』に繋がって。映画とともに人脈が広がっていくという感じですね。

『飢えたライオン』という映画は、社会性を持った映画だったので、ディスカッションするような場があったんですね。映画を見た後、若い学生さんたちと映画について、これからの社会、日本の現状、性教育、そういった面がどういう風になっているのかということを、同じ立場に立って劇場でディスカッションするという場があって、それはすごく新鮮だったし、勉強になった記憶があります」

――そのときのディスカッションで、印象に残っていることは?

「オランダという国は、性教育に関しては小さいときから身近にあるものなんですよね。日本だと閉ざされた環境だというところも含めて、性的なことはどこかタブー視されてきましたし、隠すことの美徳も歴史として存在します。

学生の方たちがもの珍しそうに女子高生というキャラクターというか、制服という文化も奇妙に感じるらしくて。そういうことの受け答えをした記憶が残っています。皮肉も込めて制服で登壇しました(笑)」

――松林さんはSNS世代だと思いますが、恐怖感はありますか?

「もちろんあります。以前はもう少し俯瞰(ふかん)するように見られていたのですが、今は本当に、誰かが何かを言うと揚げ足を取ったりして何でも炎上して、もうすさまじいじゃないですか。

気軽に便利に発言できるようになった良い面もありながら、人と人とがうまく交わっていないというか。揚げ足を取ったり何でも攻撃してくるような人は、極力自分自身が発信する場にはいてほしくない、逃げる場所も必要だなって思います。

ただ、映画の中にも描かれていますが、その渦に入ると見なければいいという他人からの助言や、逃げればいいんだという考えが思考停止してしまうんです。それは実際、主人公の瞳を演じていて、その恐怖の波がずっと押し寄せてくるという感覚を味わいました」

――何かあると、ここまでやらなきゃいけないのかというぐらい叩かれますからね。

「みんなが世の中全体に不満だし不安だから、前に出ている人に対して、何かがあるとやっぱり叩きたくなるんだろうなという構図は私にもわかるし、あとは承認欲求だとか、今そういうのがぐちゃぐちゃになっていて、ものすごく窮屈で大変な世の中になってきてしまっているように感じます。誰もが被害者になり得るし、加害者になり得るということを私自身も肝に銘じていきたいです」

 

◆初プロデュース映画は「蒲田大騒動」に?

2020年、松林さんは、オムニバス長編映画『蒲田前奏曲』を初プロデュース。この作品は、松林さんの地元である蒲田を舞台に、中川龍太郎監督、穐山茉由監督、安川有果監督、渡辺紘文監督による連作スタイルの長編映画。

企画・プロデュースを務めた松林さん演じる売れない女優・蒲田マチ子の目線を通して、女として、女優として理不尽なことを求められる社会への皮肉をユーモアを交えながら描いていく。

――『蒲田前奏曲』では、企画もプロデューサーも、そして出演もされていますが、4人の監督とタッグを組むというのは大変だったでしょうね。

「そうですね。製作するにあたって、それぞれ製作陣もみんな違うので、4人の監督をまとめるというか…それは大変でした。それこそひとりでできる絵画などとは違って映画は共同作業なので、チームワークが必要なのにみんなこだわりがそれぞれにあるので、そこをまとめるというのは難しいですよね。だからそれぞれの言い分があったなかで、一番いいものをみんなで選択していくという形でやっていきました」

――ロッテルダムでいろんな方と出会って、自分でも映画を作ってみよう、企画を立ててみようと思うように?

「そうですね。女優としてもっと能動的に動いてみたいという気持ちが芽生えたんですよね。ただオファーを待っていても仕事は来ない。オーディションを受けてもなかなか決まらない。自ら動いてもいいんじゃないかなって。

海外では、シャーリーズ・セロンとかブラッド・ピットなど自らプロデューサーも兼ねて映画に出演しているし。それに今回の映画監督になったというのもそうですけど、今まで『これが普通だったのかな?』っていうところが、ずっと疑問に思っていたこともあって。

たとえば、最初の主演のときに、『何で脱がなきゃいけないの?』って思っていたし、女優として胸を出すということが、一つの売れる材料みたいになっちゃっているのにすごく疑問がありました。あとは、『すごく閉ざされた環境で、映画監督って、そんなに偉いのかな?』って。だったら、自分でもっと積極的に動いてもいいのかなって思うようになりました。

ロッテルダムで出会って、『蒲田前奏曲』のエグゼクティブプロデューサーを担当していただくことになる小野さん(プロデューサー)に相談したら『絶対に作ったほうがいい』と背中を押してくれたので、やってみようと思いました」

――具体的にはどのようにされたのですか?

「『蒲田前奏曲』のときには、企画書の書き方もまったくわからなくて(笑)。それこそ、パワーポイントとかも使ったことがあまりなかったので、今までの資料とかを見せていただきつつ、手探りで自分なりに作ったのですが、小野さんに最初渡したときは箇条書きでした(笑)」

――松林さん演じる蒲田マチ子という売れない女優が軸となって四つのストーリーが繋がっていくわけですが、ご自身の経験も投影されているのですか?

「はい。もちろんマチ子というのは自分自身を投影した人物ではあるけど、それぞれの監督にも委(ゆだ)ねるべきではあったし、きちんと物語性を活かしつつ映画の軸にしなきゃいけないので、それぞれマチ子像みたいなのは作っていって。基本的にはやっぱり私がベースにあって、それぞれのバトンを次に繋げていくという形を心がけていました」

※映画:『蒲田前奏曲』
・第1番「蒲田哀歌」(中川龍太郎監督)=彼氏と間違われるほど仲の良い弟に彼女(古川琴音)を紹介されショックを受けた売れない女優・マチ子(松林うらら)が、その彼女の存在によって自身の在り方を振り返ることに。

・第2番「呑川ラプソディ」(穐山茉由監督)=久々に女子会をした5人は蒲田温泉に行くことに。そこでそれぞれが隠していた事実が明らかになっていく。

・第3番「行き止まりの人々」(安川有果監督)=「女優なのに脱ぐ勇気もないのか」…監督と女優という危ういパワーバランス。映画のオーディションで、セクハラや「#MeToo」の実体験を話すことになったマチ子は、黒川(瀧内公美)とともに最終選考に残るが…。

・第4番「シーカランスどこへ行く」(渡辺紘文監督)=東京中心主義、映画業界、日本の社会問題批判を描く。

――それぞれおもしろいですよね。蒲田温泉もあそこで女子会5人のひとりが他の女性連れの婚約者と出くわすのか…みたいな感じで。

「キャストに関しても、『蒲田前奏曲』はとても恵まれていたなあって思います。それぞれ監督自身がキャスティングのイメージがあったので、それは私と小野さんで直接交渉しに行って、古川琴音さんや伊藤沙莉さん、瀧内公美さん…今でも幅広く活躍する方々にご出演いただけることになりました。

その後、すぐに瀧内さんが『キネマ旬報』の主演女優賞などを受賞されているし、伊藤沙莉さんは、今や来期の朝ドラのヒロインが決まっている。皆さん、本当によく出てくださったなあって(笑)」

――舞台となった蒲田は松林さんの地元ということですが、蒲田温泉は初めて知りました。

「私も地元は近いのですが、知らなかったです。JR蒲田駅からちょっと離れたところに京急蒲田駅があって、その近くに蒲田温泉があるのですが、最近やたらとテレビに出ているんですよね。それまで地元民としてお恥ずかしながら私も知らなかったのですが、2番目の作品の穐山監督と一緒にロケハンをしているときに蒲田温泉を見つけました」

――すごい行動力ですね。監督も自ら直接口説いたとか。

「行動力…そうですね。行き当たりばったりな性格なもので…。結果的に、東京国際映画祭で出会った監督たちに基本的には声をかけていって…という形でした。

それで何とか成立して、表面上はきれいにまとめた感じではあるんですけど、四つのオムニバスを最初は長編映画にしたかったからというのもあったし、繋げる順番も悩みましたし…あらゆるところに気を遣いました。何もわからない自分が本当にいろいろご迷惑をおかけしながら、皆さんの力を借りて、やっとまとめたみたいな感じになっちゃいましたけど。

監督の皆さんは、私より年齢も上だし、映画の経験もキャリアももちろんあるので生意気だと思われたと思います。衝突もありましたし、『蒲田大騒動』かというぐらい、いろいろなことが起きました(苦笑)」

松林さんは、2021年、映画『愛のまなざしを』(万田邦敏監督)でアシスタントプロデューサー&出演。2023年には映画『緑のざわめき』(夏都愛未監督)でコプロデューサー&出演。

2024年3月には、松林麗名義でオリジナル長編映画初監督を務め、出演もしている映画『ブルーイマジン』が公開される。次回後編では、その撮影エピソードなども紹介。(津島令子)

©Blue Imagine Film Partners

※映画『ブルーイマジン』
日本・フィリピン・シンガポール合作映画
2024年3月より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
配給:コバルトピクチャーズ
監督:松林麗
出演:山口まゆ 川床明日香 北村優衣 新谷ゆづみ 松林うらら イアナ・ベルナルデス 日高七海 林裕太 松浦祐也 カトウシンスケ 品田誠 仲野佳奈 武内おと 飯島珠奈 宮永梨愛 渡辺紘文 ステファニー・アリアン 細田善彦

第53回ロッテルダム国際映画祭Bright Future部門正式出品。さまざまな形の性暴力、DV、ハラスメントに悩まされる若き女性たちに寄り添い、トラウマを救済するためのシェアハウスに集まった女性たちが連帯し、力を合わせて沈黙を破り、自分と世界を変えるために声をあげようと葛藤する物語が展開。俳優志望の斉藤乃愛(山口まゆ)は、かつて映画監督から性暴力被害を受けたことがあるが、そのトラウマを誰にも話せずにいた。しかし、性暴力やDV、ハラスメント被害を受けた女性たちを救うためのシェアハウス「ブルーイマジン」に入居したことで気持ちに変化が…。

PICK UP