女優・川添野愛、57歳で亡くなった青山真治監督の存在が支えに。今でも忘れられない言葉「自信をなくした時は思い出しています」

公開: 更新: テレ朝POST

2014年、多摩美術大学在学中に教授だった青山真治監督がメガホンを取った映画『FUGAKU2/かもめ The Shots』(原作:アントン・チェーホフ)でニーナを演じることになった川添野愛さん。

翌年にはドラマ『贖罪の奏鳴曲』(WOWOW)で女優デビュー。本格的に女優活動をはじめ、舞台『セールスマンの死』(演出:長塚圭史)、舞台『春のめざめ』(演出:白井晃)などに出演することに。

 

◆ちょっと手伝うはずがドラマデビュー

川添さんのデビュー作となったドラマ『贖罪の奏鳴曲』の主人公は、依頼人から法外な報酬を巻き上げる不敗の弁護士・御子柴礼司(三上博史)。彼には、昔少女を殺害して逮捕された過去が。そんな彼が保険金殺人事件の容疑者(とよた真帆)の国選弁護人に…という展開。川添さんは御子柴の弁護士事務所の唯一の事務員・日下部洋子役を演じた。

「『FUGAKU2/かもめ The Shots』の撮影が終わった後、青山さんから電話かかってきて。撮影で色々コミュニケーションを取っていたので、その頃には青山さんとはしゃべれるようになっていたんですね。奥さまのとよた真帆さんもすごく可愛がってくださって。

それである日、『川添、11月暇か?ちょっとドラマをやるから、手伝ってほしいんだよ』って電話がかかってきたので、よくわからないけど、日頃お世話になっているからと思い、『はい、わかりました』って言って蓋を開けたら、あの役だったんです。かなり混乱していましたが、『やるしかないんだ』と思ってやりました」

――ドラマの監督と出演者ということではいかがでした?

「それは『FUGAKU2/かもめ The Shots』のときとあまり変わらなかったので、むしろ現場に知っている人が一人いただけですごい安心感がありました。ディレクターが絶対的な信頼がある人だったので、あまり怖いものがなかったです。よくわかっていなかったこともあって」

――ドラマをご覧になっていかがでした?

「実は、観られたのはだいぶ経ってからです。私は当時、自分の出演作を目の当たりにするのは気が引けました。徐々にその苦手意識も和(やわ)らいできましたが、今でも少し憂鬱になります…。仕上がりと向き合うべきだという責任感と、お恥ずかしいのですが、自分への自信のなさと常に戦っています」

――初めてドラマに出演されて、女優さんとしてやっていこうという意識は芽生えました?

「まったくなかったです。大学卒業後のことは何も決めてなかったですけど、時が来たら絶対何か見つかるというか、自分で見つけ出すとは思っていたので。でも、そのWOWOWのドラマ時に、今お世話になっている事務所の社長とお会いして。

『私は自分でやり取りするので、スタッフさんはいいです』と言っていたんですけど、事務所側から、『向こう(ドラマスタッフ)の迷惑になってしまうから、うちで1回預からせてください』って言われて、『そういうものなんだ』って(笑)。

『とりあえず学生のうちだけでもやってみないか』とおっしゃってくださったので、こういうふうに言ってもらえることも、普通に生きていたらないからやってみるかという感じで学生の間はやっていました。

それで、大学4年生のある朝起きたときに、パッと『私はもう逃げていちゃダメだ。この仕事をしよう』と思って。マネジャーさんにすぐ連絡して、『私はやります。決めました。すみません、よろしくお願いします』って言いました。

ただ、今思えばなんですけど、そもそも合唱団も表現することを辞めたくて辞めたはずなのに、結局多摩美に入っちゃっているし、学内で作品を作ったり、授業で演劇をやったりして。きっかけは青山さんだったとはいえ、私はもう逃れられないんだなって。

今思えば自信がなかったというか。好きなことを仕事として、プロとしてやっていける自信もなかったし、そうしてしまうことへの恐怖みたいなことから結局逃げていたんだなって思ったんです」

――最初のドラマはいきなり三上博史さんが相手役で。

「はい。ファーストシーンが今でも忘れないんですけど、三上さんと吉田鋼太郎さんと3人芝居だったんです。とんでもないことじゃないですか、今思えば。だけど、本当に何にもわかっていなかったので、ある意味それがすごい良かったっていうか(笑)。

『だって青山さんがやってと言ったんだもん。私はできないけど、いいのね?』っていうぐらい開き直っていたので、あのときは別にプレッシャーも感じなかったです」

――お芝居はスムーズにOKが出ました?

「そういうのはあまり覚えていないんですけど、どうしても言えないセリフがあって、すごく難しかったんですよね。お話の内容的にも。あと、弁護士事務所の事務員役だったので、難しい言葉があって、5回ぐらいテイクを重ねて謝ったのは覚えています。でも、それぐらいです。

芝居について青山さんにどうこう言われたことはあまりなくて。だから本当にずっと聞けなかったです。私を俳優としてどう見ていたのかみたいなことは。何が良くて、最初声をかけてくれて、その後こうやって仕事をしていく私を見ていてどう思ったのか、聞けなかったです。聞きたくなかったし。怖いじゃないですか」

 

◆自信をなくしたときは青山真治監督の言葉を支えに

『Helpless』、『EUREKA』、『共喰い』など数多くの作品で知られ、国内だけでなく海外でも高く評価されていた青山真治監督は、2022年3月に死去。まだ57歳という若さだった。

――57歳という若さで亡くなられて残念です。

「そうですね。入退院を繰り返している間は、結構連絡は取っていて。私が出た作品をたくさん観てくださっていたんですよ。

最初の何年間かは何も言われなかったんですけど、あるときから『観たよ』って電話がかかってくるようになって。『イヤだ。ダメ出しなら聞きませんよ。電話切りますよ』って言っていたんですけど、『これだけは聞け』みたいなときだけは聞きました。

でも、本当に普通の日常の話を2、3時間電話で話したりするみたいな感じでした。だから、電話がかかってくるときは元気なんだなって。しばらく連絡が来ない時期は、あとで聞くとやっぱり入院していて…そんな感じでしたね」

――青山監督に言われたことで、一番印象に残っていることは何ですか?

「最初に青山さんと組んで『FUGAKU2/かもめ The Shots』のニーナをやったときに、ニーナの一人芝居のシーンがあって、とんでもないページ数のセリフがあったんです。

『これをどうやってやるんだろう?こんなの私ができるのかな?』って思ったんですけど、青山さんが、『このシーンを大事に撮りたいから』と言って、組まれていたスケジュールを壊して組み直して、たくさん時間を取ってやってくれたんです。

その日の撮影も『自由にやっていいから』みたいな感じで。『自由にやってと言われても、このページ数どうしたらいいの?』って思ったんですけど、流れに身を任せてというか、そのときはもうニーナだと思って、そのすごく長いシーンを3回しぐらいやったのかな。

そのシーンを撮り終わったときに、多分私に言うわけでもなかったと思うんですけど、青山さんの『すばらしかった』っていう声が聞こえてきたんですね。青山さんのそのときの顔が忘れられないというか。

何か自信をなくしたときは、そのときの青山さんを思い出しています。『あのときにできたんだからできるはず』って思って、自分を奮い立たせるじゃないですけど。でも、本当に具体的に何か言われたということよりも、青山さんの存在自体がずっと支えになっています。

本当に第2のお父さんみたいな感じに私は思っていたので、『お父ちゃん』って呼んでいたし、今もその思いは変わらないです」

――大きな支えですよね。青山真治監督の言葉も存在も。

「そうですね。できればもっと近くでずっと見守ってほしかったですけど、青山さんへの思いは変わらないです」

 

◆舞台は修業の場「コテンパンにやられました」

2018年、川添さんは長塚圭史さん演出作『セールスマンの死』で初舞台を経験。

「その舞台の1年くらい前に、演出の長塚圭史さんがワークショップをやっていて、それに参加したんですよ。そのときは、とくにそこで言葉を交わしたわけでもなかったんですけど、それがきっかけで声をかけてくださって。

それで、稽古場に行ったら、何かすごいことになっていて。本当に私は何もできなくて、コテンパンにやられました。『舞台に立つって何だっけ?』みたいな感じで、何もわからなくて、『私は今まで何をやってきたんだろう?』って思って。

風間杜夫さんや片平なぎささんなど錚々(そうそう)たるキャストの皆さんのすごいお芝居をずっと毎日見ていました。何もできなかったので、とにかく毎日稽古場にいて、自分のシーンじゃないときもずっと稽古を見ていましたね。

(長塚)圭史さんも私に頭を抱えていて、ずっと『どうしたらいいんだ?これは』という感じでした。『私もどうしたらいいかわからないんですけど、どうしましょう?』みたいな感じで(笑)。

でも、終わったときには、その舞台がきっかけで次の舞台も決まったんです。『セールスマンの死』の打ち上げを劇場でやっていたんですけど、そこに次の演出家の白井晃さんもいらっしゃっていて、受け渡しの会みたいなのが3人の中で始まって(笑)。

圭史さんが『うちの川添野愛をよろしくお願いします。本当にコイツでいいんですか?』みたいなことを白井さんに言っていました(笑)。

白井さんは『彼女で大丈夫です。ちゃんと稽古場でも本番でも観たので』という感じで、引き継ぎ作業みたいになっていて、そういうのもすごい印象に残っています。そのときに、圭史さんが、『本当によく頑張ったな』って言ってくださったので、初舞台があの作品で良かったなあって思います」

――白井さんの舞台はいかがでした?

「それは『セールスマンの死』とは打って変わって、若者、子どもたちのお話なので、同世代が多かったです。再演だったので、初演のメンバーも結構いて、学校みたいな感じでした。また私はすごいたくさん怒られたんですけど(笑)」

――舞台と映像、両方で結構ハードじゃなかったですか。

「舞台は稽古の積み重ねじゃないですか。でも、映像は逆に瞬発力が大事というか、全然違うので、舞台の存在は私には結構ありがたくて、多分何歳になっても何年積み重ねても、修業の場になるんじゃないかなって思っていて。なるべくコンスタントに舞台はやりたいなと思っています」

2021年には、バイオリンに挑戦した映画『ミュジコフィリア』(谷口正晃監督)、2023年は初のホラー映画『忌怪島/きかいじま』(清水崇監督)などに出演。9月1日(金)には映画『緑のざわめき』(夏都愛未監督)の公開が控えている。

次回は撮影エピソード&裏話なども紹介。(津島令子)

ヘアメイク:鈴木真帆

©「緑のざわめき」製作委員会

※映画『緑のざわめき』
2023年9月1日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
配給:S・D・P
監督・脚本:夏都愛未
出演:松井玲奈 岡崎紗絵 倉島颯良
草川直弥(ONE N’ ONLY) 川添野愛 松林うらら 林裕太 カトウシンスケ 黒沢あすか

第18回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門に正式出品された、福岡、佐賀を舞台に3人の異母姉妹が織りなす物語。過去の痴漢被害のトラウマを抱えて生きてきた響子(松井玲奈)は、病を機に女優を辞め、東京から生まれ故郷のある九州に移住しようと福岡にやって来て、元カレ(草川直弥)と再会。響子の異母妹の菜穂子(岡崎紗絵)は素性を隠して響子に接近。さらに叔母の芙美子(黒沢あすか)と暮らす高校3年生の杏奈(倉島颯良)も異母妹であることがわかり…。