板谷由夏、11年間つとめた報道番組キャスター。なんで…?まさかのオファーに「とにかく現場に取材にいかせて欲しい」

公開: 更新: テレ朝POST

女優デビュー作『avec mon mari』(大谷健太郎監督)で第21回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞し、注目を集めた板谷由夏さん。

ファースト・クラス』(フジテレビ系)、『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日系)、主演映画『欲望』(篠原哲雄監督)、映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(大根仁監督)、舞台『大人のけんかが終わるまで』など多くのドラマ、映画、舞台、CMに出演。11年間『NEWS ZERO』(日本テレビ系)でキャスターをつとめ、自身のアパレルブランド「SINME(シンメ)」を立ち上げるなど幅広い分野で才能を発揮している。

 

◆初主演映画でヒロインを熱演「ずっと引きずって…」

板谷さんは、映画『運命じゃない人』(内田けんじ監督)で第60回毎日映画コンクール女優助演賞を受賞した2005年、小池真理子さんの同名小説を脚色した『欲望』で映画初主演を果たす。

板谷さん演じるヒロイン・類子は、高校で図書館司書をしている。同じ高校の教師と不倫をしていたが、高校時代の同級生・阿佐緒(高岡早紀)と偶然再会したことがきっかけで、秘かに想いを寄せていた正巳(村上淳)とも再会。正巳に対する想いが再燃するが、彼は高校時代の事故が原因で肉体的な問題が…という展開。板谷さんは複雑に揺れるヒロインの心情を繊細にかつ大胆に体当たりで演じ話題に。

「公開は『運命じゃない人』のほうが先でしたけど、撮影は『欲望』が先だったんです」

-どんなに愛し合っていても肉体的に結ばれることができない…切ないですね-

「本当に切ないです。どうにもならないですからね。今思うと本当にかわいそう。(小池)真理子さんが書く小説は大人っぽいですよね」

-お話が来たときはどう思われました?-

「20年くらい前になるんですけど、『やらねば!』という気がした覚えはあります。『やらなきゃ!』という思いが強かったので、迷いはなかったと思います」

-実際に撮影に入っていかがでした?-

「とにかくラブシーンが多かったですからね。そこに関して言うと、多分麻痺(まひ)していたと思います。麻痺していたと思うし、あそこまで人を愛する役というのはやったことがなくて、かつ愛した人が死んじゃうという役もやったことがなかったんです。だから撮影後の喪失感がすごくて、ずっと類子を引きずっていました」

-肉体的に完全に結ばれることは叶いませんが、精神的にも肉体的にも愛し合って、幸せなときを過ごした直後に彼が目の前で自殺してしまうわけですからね-

「そうなんです。ひどすぎますよね。だからその経験で心がやられちゃって、板谷になかなか戻れなかったんですよね。類子をずーっと引きずっている感じ。それで、村上(淳)くんに淳くんとして会うとホッとするんですよ。

『あっ、この人生きていた』って思うんですけど、その境い目がわからなくなってきちゃって、家に帰ると、『私の好きな人は死んじゃったしなぁ』ってなるんです。だからすごく苦しかったのを覚えています。

それは村上くんもそうだったみたいです。何年か経った後に『あのときは苦しかったね。きつかったよね』って二人で話した記憶があります」

 

◆結婚、報道番組…公私ともに大きな変化が

2007年、板谷さんは念願だった青山真治監督の映画『サッド ヴァケイション』に出演。この映画は、青山監督の代表作『Helpless』『EUREKA ユリイカ』に続く“北九州サーガ”の第3作。

「青山監督は地元(福岡)の信頼できる監督で、絶対に一度やってみたいと思っていた目標の一人だったから、とてもうれしかったです」

-念願の青山監督の現場はいかがでした?-

「私は初日に監督に『何もするな』って言われたんですよ。それで、『どういうことなんだろう?』って悩みました。

でも、今思うと、その『何もするな』というのは役者にとって一番の課題で、やる側としては、何も考えてなくて道を歩くということが一番大変だと思うんです。

その『何もするな』というところを追求するのがこの仕事なんだって青山監督に教えてもらったので、そのことをずっと胸の奥に持ったまま、今も仕事をしています」

-青山監督は今年(2022年)3月、57歳という若さで亡くなられて…残念です-

「本当に残念でたまりません。もっともっと作品を作って欲しかったです」

『サッド ヴァケイション』が公開された2007年、板谷さんは、スタイリストさんと結婚。そして『NEWS ZERO』(日本テレビ系)のキャスターに挑戦と公私ともに大きな変化が。

「出会ったのはずっと前なんですけれども、やっぱり洋服が好きな人と結婚しちゃいましたね」

-この人と結婚するだろうなあという予感はあったのですか-

「まったくなかったです。長いこと友だちだったんですけど、なかったですね。きっかけはあるのかな? わからないですね。

今思えば、長男が呼んでいたとしか思えないです。子どもが産まれるという運命だったんだなと思います」

-ご結婚されたことで変わったことは?-

「『もっと楽に生きていいんだ』って思うようになりました。安心感があるようになったからかな。精神的に良い状態になったというか、自分のマインドの波が一定になりましたね」

2008年に長男が誕生。2012年には次男が誕生し、2児の母に。

-お子さんが2人いらっしゃるといろいろ大変じゃないですか-

「大変です(笑)。でも、子どもたちが小さかったときのほうがもっと大変でした。今はもう何でも自分でできるようになってきたし、彼らには彼らの世界ができてきているので、ちょっと寂しいですけど、ある意味子離れ親離れの第一段階は来ていますね」

-インスタにもお子さんたちと一緒に出ていますけど、大きくなりましたね-

「はい。中2と小4になりました。大きくなったなあって思います」

-板谷さんがお仕事をされていることについてはどのように?-

「『今回セリフ覚えるのが大変なんだよ』とか言うと、長男が『見ていてあげるから言ってみて』って言ったりはしていますね。『でも、ママはいつも大変そうだから、俳優の仕事は絶対にしたくない』って。『勉強するのイヤ、覚えるのイヤだ』って長男は言っていますよ(笑)」

 

◆11年間報道番組のキャスターの経験は大きな糧に

2007年、『NEWS ZERO』のキャスターに就任した板谷さんは、多くの社会問題を取材。東日本大震災の被災地にも定期的に足を運び、被災者の声を届けた。

-最初にお話があったときはどう思われました?-

「『えっ?私に?何で?嘘でしょう?』って思いました(笑)。でも、プロデューサーさんから『キャスターを求めているわけじゃなく、半径何メートルという身近なところで、主婦になった板谷さんの目線、一般の人の目線でやって欲しいんです』って言われたので、『私はキャスターはできませんけど、そういう目線で仕事ができるならやります』って言いました。

それで『私はキャスターじゃないので、スタジオにずっと座って持論を展開したりはできないから、とにかく現場に取材にいかせて欲しい。現場に取材に行くことは自分の糧(かて)にもなるから、それができるならやります』って言ったんです。

そうしたら、それをやって欲しいと言われて、コーナーを持たせてもらって、取材に行くということを11年間重ねたんですけど、それは本当にすごい糧になりました」

-介護や乳がん、虐待などさまざまな社会問題を取材され、東日本大震災の現場にも定期的に行かれていましたね-

「はい、毎月2回行きました。映像と実際に見るのでは全然違います。子どものお骨が見つからないお母さんの取材とか…つらい場面もたくさんありました」

-11年間という長きにわたって続けられたわけですが、はじめられたときは?-

「そんなに長くやることになるとは思っていませんでした。まさか、まさかという感じでしたね。でも、あの番組は、自分が社会に目を向けるきっかけにもなったし、ちゃんと社会とつながっていなきゃいけないという、私の指針にもなったので、やらせてもらえてすごく良かったなあと思います。

普段できない経験もいっぱいさせていただきましたし、本当にすべての経験が糧になったと思うので、役者としてはすごくありがたい経験ばかりでした」

-番組を卒業されるときはどんな思いでした?-

「メインキャスターだった村尾(信尚)さんがお辞めになるときに一緒に卒業したんですけど、やりきった感はありました。生放送の報道番組に挑戦できたことは本当に勉強になりましたし、良いときにやらせていただいたなあと思います」

さまざまな挑戦を続けてきた板谷さん。2010年には念願だった北野武監督の『アウトレイジ』に出演。2018年には『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(大根仁監督)、2019年にはドラマ『やすらぎの刻~道』(テレビ朝日系)など次々と話題作に出演することに。

次回はその撮影エピソード、2022年10月8日(土)に公開される主演映画『夜明けまでバス停で』についても紹介。(津島令子)

©2022「夜明けまでバス停で」製作委員会

※映画『夜明けまでバス停で』
2022年10月8日(土)より新宿K’s Cinema、池袋シネマ・ロサ他全国順次公開
配給:渋谷プロダクション
監督:高橋伴明
出演:板谷由夏 大西礼芳 三浦貴大 松浦祐也 ルビーモレノ 片岡礼子 土居志央梨 柄本佑 下元史朗 筒井真理子 根岸季衣 柄本明

2020年11月に渋谷区のス停で寝泊まりしていたホームレスの女性が突然襲われ死亡した事件をモチーフに、コロナ貧困・社会的孤立を描く社会派作品。昼間は自作のアクセサリーを売り、夜は焼き鳥店で住み込みのパートをしていた三知子(板谷由夏)は、コロナ禍の影響で仕事も住むところを失ってしまう。新しい仕事も見つからず、誰にも弱みを見せられない三知子はホームレスに…。

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