大脚本家・ジェームズ三木「保護本能をくすぐられる」松本清張で魅せる“女性の描き方”

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松本清張の傑作短篇『一年半待て』を、フジテレビがスペシャルドラマ化。菊川怜主演で、4月15日(金)21時から放送される。このほど、脚本を手がけたジェームズ三木が取材に応じ、本作に込められた思いや、女性の描き方について語っていただいた。

ジェームズ三木は、1969年に映画「夕月」で脚本家デビュー。その後、視聴率55%を記録した連続テレビ小説「澪つくし」(NHK、1985年)や、大河ドラマ史上歴代チップの視聴率を獲得した「独眼竜政宗」(NHK、1987年)の脚本を執筆。松本清張作品は名取裕子主演「けものみち」(NHK、1982年)、佐久間良子主演の「波の塔」(NHK、1983年)といった名作を生み出している。また、1992年には女性問題で話題となり、近年ではバラエティ番組に出演し、浮き名を流した当時の出来事をつまびらかに語り注目を集めている。

物語は、弁護士・高森滝子(菊川怜)がある弁護依頼を受けることから始まる。いわゆるDVの被害を受けているという保険会社勧誘員の須村さと子(石田ひかり)が、ひとり息子のタカシ(鴇田蒼太郎)を守るため、無職の夫・要吉(渋川清彦)を殺害。女性の人権に関わる問題だと世間の注目を集めた裁判の判決は、懲役3年、執行猶予2年。弁護側にとっては事実上の勝利を掴む。正当防衛で無罪を主張し控訴することもできるが、さと子は「裁判は一事不再理ですよね」と滝子に問い、判決を確定させる。こうして敏腕弁護士の名をほしいままにした滝子のもとに、ある日、思いも寄らない情報が舞い込んでくる。これまで10回以上ドラマ化され、歴代作の多くが“容疑者・さと子目線”で描かれてきたが、今作では、菊川が演じる“弁護士・滝子目線”で描かれる。


<インタビュー>

――原作の『一年半待て』についてどのように思われましたか?

改めて読んだらすごく良くできている物語で、脚本を書きやすかったです。私は、100%の善人はいないし、100%の悪人もいないと普段から思っているのですが、善人を書くときはその人の悪いところを描きたいし、逆に悪い人であれば善い部分を描きたい。本当の人間はそういう二面性があると思っています。本作で言えば、正義を標榜する弁護士・滝子にも変なところはあるし、夫殺しをしたさと子に良いところがある。そういった部分を描くことがリアリティに繋がります。そして今回、最終的にご覧になる視聴者の皆さんの性格や価値観によって、それぞれが結論を出せるような結末にしたいと考えました。

――60年以上前に書かれた小説を、現代に置き換えるのは難しかったのではないですか?

当時と現在ではだいぶ変わっていますよね。現在みたいに男女同権という時代ではありませんでした。個人的には、同権じゃなくて、男女別権の方が良いと思っています。それぞれの性差はあるので、それぞれが特有を鑑みながら同等に主張した方が良いよって。そういう性の違いも考えながら今回は書きました。

――脚本を書く上で意識していることはありますか?

映画の場合は画面が大きいから、景色や背景、セットを見せる。テレビは画面のサイズも小さいですし、景色を見せる番組は別にありますよね。だから、俳優たちの表情や目つきを見たい。彼らの本心を見たい。嘘を言っていないかを見たいと思うんです。俳優が演じているキャラクターたちは、だいたい嘘をつくから(笑) 「あなたは世界一綺麗だね」とよく言うけど、嘘ばっかり。テレビドラマは嘘発見器なんですよ。表情や手の動きなどで、別の気持ちを表している。その楽しみをちゃんと表現したいなと思っています。このドラマはそれをやるのにとても相応しい原作だと思いました。

それと、ドラマには対立が必要です。男女、弁護士と裁判官、女同士、いろいろあるけど、そういうのを描いていくのがドラマの基本。それをどのように見つけて、視聴者が興味を持ってくれるかを考えて書きました。

――菊川さんが演じる弁護士・滝子はどのような姿に?

テレビドラマに出てくる弁護士のパターンはある程度決まっていますよね。滝子については、一度離婚したという背景があり、この人ならではの変わった性格が出ていて、テレビで見たことのない弁護士像が描かれていると思います。だからこそ、菊川さんは演じるのを苦労されたと思いますね。

――ジェームズ三木さんと言えば、女性を知り尽くしているというイメージがありますが、女性を描く上で重要なポイントはなんですか?

男は「女性を保護したい」という気持ちが強いと思っています。私は、女性に哀愁があるかないかが重要だと思います。その有無で「俺がなんとかしてやるぞ」という男性は保護本能がくすぐられる。それと色気ですね。色気というのは恥ずかしいと思ったときに出てくるもので、そういう羞恥心があるかないか。このドラマでは菊川さんが中盤以降で見せる姿に注目していただきたいですね。

――また、これまでに手がけた脚本のドラマが高視聴率を獲得していますが?

最近は録画視聴率とかも相当大きいと言われるのでどう評価するのか難しいですよね。ただ私が思うのは、映画が衰退して、本も読まれなくなり、みんなスマホになっている。だけど、そこから得られる情報やデータというのをあまり信用してはいけないと思っています。よく「東京ドーム100個分の広さ」なんて言いますが、実際どの程度なのか分からない。グラウンドなのか、敷地なのか。でもみんな分かったような気がしている。デモの人数も発表する人によって全然違う。あまりデータを信用しすぎてはいけない。若い人たちには、自分の頭で考えて欲しい。このドラマでは“自分で考える”ということを描いたつもりです。ぜひ、自分なりに解釈してご覧いただきたいです。

――最後に視聴者に向けてメッセージをお願いいたします。

人間のエゴイズムみたいなものは誰にでもあります。人間の自己弁護やプライドが、そういうものが傷ついたときにどうなるか。弁護士が自己嫌悪に落ちる姿をご覧いただければ、「弁護士も人間なんだな」と感じていただけると思います。ぜひ、ご覧ください。

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