『パリピ孔明』向井理“孔明”が紐解く消化不良の過去と懺悔「人に歴史あり」を体現する森山未來“小林”の奥行き

公開:
『パリピ孔明』向井理“孔明”が紐解く消化不良の過去と懺悔「人に歴史あり」を体現する森山未來“小林”の奥行き

オーナー・小林(森山未來)もかつて大型フェス「サマーソニア」出場を目指す“DREAMER”だったことが明かされた『パリピ孔明』(フジテレビ系、毎週水曜22:00~)第8話。

月見英子(上白石萌歌)の憧れの人、マリア・ディーゼル(アヴちゃん女王蜂)の歌声に魅せられた小林は彼女とバンドを組み、夢への切符をどうにか手にしたい一心でイベント主催者とコネがあるという人物に接触、賄賂を渡してしまう。もちろんこれはインチキで闇金から借りてまで工面した500万円は持ち逃げされ、イベント主催者にもこの不正がバレてしまいオーディション自体受けられなくなってしまう。この独りよがりな小林の判断によりバンドは解散、それ以来ギターを辞め音楽からも距離をとっていたという。

マリアが「純粋に音楽だけで勝負したかったな」と泣きながら今にも引き裂かれそうになりながら訴える悲痛な胸の内が苦しかった。その後、目的を見失い死んだようにただ生きながらえていた小林をこの世に留まらせたのもまたマリアの歌声だった。小林の波乱万丈な人生経験や奥行きを森山は当時と同じ金髪ながら見事に体現している。当時とは違い常に一歩俯瞰で周囲を見渡す今の小林の姿に、あの頃から流れ去った果てしない時間や自らが背負うと決め込んだ言い知れぬ懺悔が滲む。

チャンスを前に冷静にはいられなかった小林は自身に大きくしくじった過去があるからこそ、常に天才軍師・諸葛孔明(向井理)に「今の英子にはお前が必要だ」と伝え、劉備(ディーン・フジオカ)からの迎えを拒むように口酸っぱく言うのだろう。

孔明が味方に仕掛ける「奇跡の連続」 英子が掘り起こした母娘の真実

さて、「サマーソニア」出場のために追加で必要となった新曲作りに難航している英子もまた過去と向き合う必要性に駆られていた。今回の孔明の計略の矛先は味方である仲間に向かう。

まず、英子に家出の原因になるほどにこじれてしまった母親との関係を見つめ直し、克服する機会を与える。

そのきっかけを与えるのがラッパーの赤兎馬カンフー(ELLY)のあの口癖であるのが面白い。「いつまでも穴掘ってんじゃねぇぞ」――表舞台から姿を消していた天才ラッパー・KABE太人(宮世琉弥)に自分から逃げずに向き合うことを意識させたパンチある一言に、英子はヒントをもらいそのままの意味合いであることに思い至る。彼女は自身のルーツを探るため、通っていた地元の幼稚園を訪問。そこで新曲のタイトルにもなるタイムカプセルを密偵(石野理子)に根回しさせた上で英子に見つけさせたのだった。

カセットテープに録音されていたのは、英子の記憶の中の音楽を嫌う母親の姿ではなく、彼女の歌声を心から褒めて認め、歌手になりたいという夢を応援する母親の愛情いっぱいの声がけだった。

英子の新曲「タイムカプセル」が小林のギターにのって解き放たれる 夢の共演ステージが実現!

完成した新曲「タイムカプセル」を披露した際に英子は「奇跡みたいにいろんなことが繋がってできた曲」だと紹介していたが、まさにこの“奇跡の連続”は孔明が描いたシナリオ通りだったわけだ。恐るべし、ストーリーテラー・孔明。

「思い出を美化する」という表現があるものの、英子は反対に現在のこじれた母親との関係性に引っ張られてしまい、思い出を自分の中で現在と矛盾ないものに書き換えてしまっていたのだった。それはある意味、英子自身の自己防衛本能からくるものだったのかもしれない。以前と落差があればあるほど現実はより酷に映るものだ。“昔からそうだった”と思い込んだ方がある意味楽なことだってある。

表現を生業にする人は、誰かに伝えたい思いがあるのはもちろん、それ以上にその表現をしなければ救われない自分自身の思いや報われない過去があり、他でもない自分自身の“救済”のために書かずにはいられない、歌わずにはいられない側面があると思う。自身の中から湧き出る新曲のメロディに、歌詞に自分が励まされ、背中を押されているかのような英子はまさに真のアーティストと言えるだろう。少し前まではカバーしかやっておらず、オリジナルソングがなかったというのが信じられないほどの成長速度と成長角度だ。

そして、小林もまた今はなき、自らがぶち壊してしまったバンド時代をそっとなぞるように、当時と今いる現在地との繋がりを確かめるようにギターをかき鳴らす。孔明が倉庫から引っ張り出してきて置いておいたギターケースを開く瞬間、小林の中でも当時の傷と向き合う覚悟ができたのだろう。小林にとっても、英子にとっても有耶無耶にしてきた消化不良の過去と向き合うのが他でもない“今”このタイミングだったのだ。早すぎても遅すぎても見失ってしまっていただろうタイミングを、彼らの心の機微と成長や変化の兆しを孔明は見逃さない。

核となる原点に立ち返り、それを今の自分を持ってして認め、チクリと残る痛み以上にだからこそ「今ここに自分がいるんだ」と思えた英子と小林が奏でる音は、過去の傷をそっとなでるそよ風のように優しく軽やかで、重々しさを全く孕んでいなかった。

小林の過去や三国志好きになった前オーナー・吉永(谷中敦)とのエピソードまで紹介され、英子と小林の共演が実現した今、いよいよクライマックスに近づいているのをひしひしと感じさせられる。「音楽で食べられるようになったらお母さんに会いに行く」という新たな英子の夢を乗せた「サマーソニア」のステージはどうなるのだろうか。

小林のステージ復帰を見届けるなり、広告代理店社長の父親に「渋谷の再開発候補エリア」としてBBラウンジをリストアップしようとする前園ケイジ(関口メンディーEXILE・GENERATIONS)と小林の間にある因縁がついに次話で明かされそうだ。異様な執着を見せ、目をぎらつかせる前園が狂気じみていて恐ろしい。

文:佳香(かこ)