『泥濘の食卓』齊藤京子“深愛”が初めて知る家族の幸せと母の愛

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『泥濘の食卓』齊藤京子“深愛”が初めて知る家族の幸せと母の愛

11月11日に放送された土曜ナイトドラマ『泥濘の食卓』(テレビ朝日系、毎週土曜23:30~)第4話では、捻木深愛(齊藤京子日向坂46)が不倫相手である那須川夏生(吉沢悠)の妻・ふみこ(戸田菜穂)に手料理を教わる。一見奇妙な光景だが、その姿はまるで本物の親子のようにあたたかで、幸せに満ちたものであった。

勇気を出した一歩は救いか、はたまた地獄へ続く道か

精神的な問題から、これまで家のことが何もできなかったふみこ。カウンセラーを装いチラシを渡してきた深愛にメールを送ったのがきっかけとなり、深愛とふみこの奇妙な交流がスタートする。

ふみこが病気なのであれば、状態を悪化させて入院に至らしめることで、夏生を独り占めすることもできただろう。しかし、深愛は持ち前の生真面目さを発揮しメールにはどんな時間でも即レス。図書館で正しいカウンセリングの知識を身につけて、ふみこを本気で助けようと努力する。不倫をしているとは到底思えない誠実な姿だ。でも、そこが深愛の魅力であり、那須川家のみんなに好かれる理由でもあるのだろう。

そんな深愛のサポートによってふみこは落ち着きを取り戻していくのだが、今回ふみこの精神状態を部屋の様子や身支度で表現しているのが秀逸だと感じた。

第3話までに登場したふみこは、日中も部屋着姿で目に光はなく、髪はボサボサ。家は段ボールとゴミだらけで、ソファからほとんど動かないといった、見るからにやつれた姿だった。

ふみこからSOSの電話を受けた深愛はついに那須川家にあがる。トイレの詰まりを直すシーンで、自分の家なのにおどおどしながら「何かお手伝いしましょうか?」と声を掛けたり、「バケツに水を入れてきてもらえますか?」と言われて「バケツ……バケツ……」と目を泳がせて必死にバケツの場所を思い出そうとしたりする戸田菜穂の演技も、健全な精神状態ではないことがうかがえ非常にリアルだ。

この一件以降、ふみこは少しずつ回復していく。カーテンを開けられるようになり、洗濯物を畳めるようになり、大量のゴミは捨てられ、ボサボサだった髪はきれいに梳かれている。お昼を自分で作るという意欲まで表れ、表情や瞳には喜びが浮かぶようになる。さらに、深愛が来る前に部屋着から外出用のスカートに着替え、畳んだ衣類をしまうという気配りまで見せるのだ。

たとえ始まりが嘘であり、プロのカウンセラーではないとしても、深愛の行いはふみこの精神回復に役立っている。きっと、ふみこに必要だったのは病院から処方される薬でもなく、家族からそっとしておかれることでもなく、ダメな自分に共感し受け入れてくれる深愛のような人の“愛情”だったのだろう。

ふみこが連絡を取ったことで那須川家と深愛のつながりは深まり、関係性をより複雑にしてしまったが、今のふみこにとって深愛が救いだったのは間違いない。この一歩が那須川家を平和に導くのか、地獄に陥れるのか。我々視聴者は見守るほかない。

深愛が望んだ家族のあるべき姿

ふみことのつながりは、深愛にとっても救いであった。精神的に弱っているふみこをメールで励ますことで、深愛は“頼られている、必要とされている”という実感を得ることができ、自分の存在意義を確認できたからだ。

「お前は何の取り柄もないんだから、せめて人の役に立ちなさい。人に優しくしなさい」

幼少期に父親からある種の“呪い”を受け取った深愛は、「人の役に立ちたい」という純粋な気持ちでふみこをサポートし、一緒に料理を作る関係にまで発展させていく。

カボチャの切り方から丁寧に教え、オーブンのグラタンを一緒に眺める姿はまるで親子だ。お風呂から出たことを言わなかっただけで、嫌味を吐きながら怒ってくる実の母とは大違いである。

幼少期に包丁で怪我をして以来、台所に立たせてくれないと話す深愛に対して、「失敗なしでは成功できないからなあ」とつぶやくのも実に子育て経験豊富なお母さんらしい。「これからはうちでいっぱい失敗すればいいよ」と名案を思い付いた子供のように目を輝かせて告げるふみこの言葉は、深愛が心の奥で求め続けた母からの愛情そのものだったのだろう。「いいんですか?」と目を見開き信じられないという表情で聞き返す深愛の声は、おそらく初めて触れる母親的な優しさに涙ぐんでいた。

そのため、状況としては混沌極まりない那須川家での食事会が、深愛の目には家族揃っての幸せな夕食に映る。

「これが家族……これが幸せ……」

噛みしめるように語られるモノローグからは、深愛が幼い頃から憧れていた家族像がありありと伝わってくる。もしかすると、深愛が本当に望んでいるのは夏生という一人の男ではなく、「大好きな人たちに囲まれた幸せな家庭」なのではないだろうか。

皮肉なことに、夏生との不倫がなければそもそも深愛はふみこと出会うことはなく、幸せな那須川家を狂わせる危険因子もまた深愛なのだが、2人にはずっと親子のような関係でいてほしい。それほど、ふみこと深愛の関係性は魅力的に見えた。

(文:天野スズ)