『パリピ孔明』向井理“孔明”が引き出す上白石萌歌“英子”の圧倒的成長と八木莉可子“七海”の剥き出しの心

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『パリピ孔明』向井理“孔明”が引き出す上白石萌歌“英子”の圧倒的成長と八木莉可子“七海”の剥き出しの心

天才軍師・諸葛孔明(向井理)の計略はいつだって意表を突くも、最終的にはその成功の秘訣は君主・月見英子(上白石萌歌)の歌の力をどこまでも信じ切っていることにある。

大型フェス『サマーソニア』への出場権のために必要なSNSでの10万イイネ獲得のために、孔明が編み出した策は一見したところライバルのイイネ横取りとも捉えられかねない。しかしその指摘を逃れられるのは、最終的に孔明の策は英子の真の実力があって初めて完成するものである点だろう。『パリピ孔明』(フジテレビ系、毎週水曜22:00~)第6話は、孔明が敵味方関係なく音楽を愛する者、音楽に夢見る者の才能を解放させた。

逆境から全てをひっくり返すEIKOこと英子の新曲「DREAMER」

まだまだ駆け出しの英子が1つのSNS投稿で10万イイネを集めることは物理的に不可能だが、多くの人に英子の歌を聴いてもらうことさえできればそんなことなど容易いと踏んだ孔明。第2話で英子が初めてアートフェスライブに参加した際にも、向かいのブースが人気インディーズバンド・JET JACKETという圧倒的不利な状況をむしろ生かし孔明は彼女のブース前に見事行列を作り出した。

しかし、今回は変装させた英子にマネキン2体というかなり荒手な方法でライバルである女性3人組アイドルユニット「AZALEA」風を装い、イイネを稼ぐ。その名も“草船借箭の計”と名付けられたその戦法は“他人のふんどしで相撲を取る”と言われても仕方がなく、もちろんすぐにオーディエンスに見破られ、英子は大ブーイングを浴びる。さらに本人登場もあり、すっかり会場の空気がAZALEA一色になったところで投入されたのが天才ラッパー・KABE太人(宮世琉弥)だ。

次から次に繰り出される皮肉交じりのラップは、素顔も本音もすっかり隠し込んだAZALEAの久遠七海(八木莉可子)らの心にグサグサと刺さる。彼女たちの熱狂的な古参ファン(徳井健太)のすぐ隣には、明らかにイイネ企画での100万円だけが目的の男性たちがずっと付きまとい、KABEのラップを戯言だとは一蹴してしまえない現実が突きつけられる。第5話で「DREAMER」の元になる曲を聴いた際には、一体この曲のどこにどんなふうにKABEのラップがフィーチャリングされるのか全く見当もつかなかったが、なるほど孔明が考えたKABEの活かし方とはこういうことだったのか。

EIKOこと英子の新曲「DREAMER」の初お披露目の場は観客の数こそ集まってはいるものの、完全に“四面楚歌”状態。フェイク野郎呼ばわりされ観客から鳴り止まぬ「帰れ! 帰れ!」コール。いわゆる全員が“アンチ”の中で、孔明は「あとはあなたの歌で全てをひっくり返すのです」とその敵陣に英子を送り込む。かなりのスパルタである。

しかし、そこで助け舟を出したのは外でもない敵陣の七海だった。「みんな、静かにしてくれる?」と荒ぶる観客をなだめ、英子に歌うよう促す。英子が「ほんとのななみんはもっとすごい」と咄嗟に答えていたように、ステージ上から互いに向かい合うEIKOとAZALEA、2組のアーティストの間にあるのは確かなリスペクトだった。

AZALEAのプロデューサー・唐澤(和田聰宏)はEIKOの曲を聴くなり形相を変え「全部やつに食われるぞ」と取り乱していたが、この時点でもうEIKOの勝ちが確定したも同然だった。目利きの唐澤がEIKOの実力を認め、計画まで変えようとしたのだから。彼女の“ありのまま”の偽りない気持ちが込められた「DREAMER」は、まさにAZALEAの3人がまだ何者でもなくただ純粋に音楽を愛し夢追う者だった、もう戻れない“あの頃”を思い起こさせる。

そう言えばずっとステージ上から姿を消していたKABEにもう一度マイクという拳を握らせたのもやはり音楽にまつわる青春時代の思い出だったが、誰しもにその原点があることに改めて思いを馳せる。

編曲家のスティーブ・キド(長岡亮介)のタップでEIKOの“10万イイネ”は達成され、彼女は大舞台への切符を手に入れた。そして、彼女の「DREAMER」は、七海たちAZALEAの仮面を外す。素顔を出し、元々の自分たちのスタイルで剥き出しの音楽をかき鳴らす3人の姿は最高にカッコ良い。自分たちが演奏する生の音で、自分たちの声で、自らの言葉で発する歌詞に乗った荒々しさもある音楽に思わず唐澤の指まで自然とリズムを刻んでいた。完成形の作り込まれたAZALEAを目にしたKABEが口にした「やっぱかっけぇな」は既視感のある“かっこいい”がそのまま目の前に現れた際のリアクションだったのに対し、オリジナルソングを聴いた後の「なーんだ、かっけぇじゃんAZALEA」は本音がポロリと口を突いて出たリアルさがあった。

「売り出し方一つでいいものも埋もれていってしまう」と唐澤が嘆いていた通り、鳴かず飛ばずの頃のAZALEAの楽曲も今の彼女らが披露すると多くの人に届けることができる。同じ音楽なのにそもそも披露する場があるかないか、そしてどれだけの人が注目してくれるかにこれだけ大きな差分が出てしまうのは残酷な現実とも言えるが、一旦オリジナル要素を全て封印し“求められる”ことに徹してきた3人だったからこそ、改めて見つめ直せた“自分たちの音楽”があったはずだ。そして、だからこそ自身が“ありのまま”でいられる幸せを全身で喜び祝福する爆発力が一気に放出され、迷いやモヤモヤが吹っ切れた彼女らの音楽は多くの人を虜にした。

孔明が解き放つ かつてDREAMERだった唐澤の夢の続き

さらに、孔明は実は誰よりも自分を押し殺していたのは唐澤だったことを明らかにした。かつてアーティストとして“わかる奴だけにわかればいい”と自らの音楽を追求し続けた結果日の目を見なかった自分たちの二の舞にならないようにとAZALEAを徹底的にブランディングしたのも、彼女らのオリジナルの良さを汚さず守ろうとした彼の優しさだったとも言えなくはないだろうか。全くの別人を演じさせたのは、中途半端に彼女らの意向を取り入れた方が本人たちの中で折り合いがつかなくなることを懸念してのことだろう。

自らのサポートのおかげで新たな仲間に囲まれる英子を少し離れたところから嬉しそうに、だけれどもどこかちょっぴり寂しげに見守る孔明の姿には哀愁が漂う。その隣に必ずいるのがオーナー・小林(森山未來)であるのもやっぱり堪らなく良い。劉備(ディーン・フジオカ)からの迎えが来ていることをこぼす孔明に、「諸葛孔明、英子にはまだお前が必要なんだ」と真顔で引き留める小林は、誰より近くで彼を見てきて“超孔明”“ビヨンド孔明”を経て“マジ孔明”の確証を得たのだろう。

文:佳香(かこ)