『パリピ孔明』向井理“孔明”が天才ラッパーの消えかかったバイブスに火を灯す

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『パリピ孔明』向井理“孔明”が天才ラッパーの消えかかったバイブスに火を灯す

月見英子(上白石萌歌)と諸葛孔明(向井理)が目指す次なる大舞台は超大型音楽フェス「サマーソニア」。しかしその出演条件はSNSで“10万イイネ”を集めること。10月11日に放送された『パリピ孔明』(フジテレビ系、毎週水曜22:00~)第3話では、そのために必要不可欠な二大要素を揃えるために孔明が動き出す。

まず、孔明が打ち出した策は強力な仲間を迎え入れることだ。目をつけたのはMCバトル3連覇を達成し、「言葉の魔術師」「韻精密機械」「ラップ界の発明王」の異名を持ちながらも表舞台から姿を消したKABE太人(宮世琉弥)だ。頑なにもう人前でラップはしないと言い張る彼に対して、孔明は「調虎離山」の策で“虎”ならぬKABE太人をMCバトルのステージ上に再び引きずり出そうとする。

口下手で本人いわく“陰キャ”なKABE太人は、ラップに乗せることで自身の思いを自由自在に解放し表現できる。しかし、多くのオーディエンスからの注目を一身に浴びながら対戦相手を言い負かすMCバトルのステージに立ち続けるほどのメンタルは持ち合わせていないようだ。ストリート出身のヒップホップ界のカリスマラッパー・赤兎馬カンフー(ELLY/三代目J SOUL BROTHERS)に唯一黒星をつけたKABE太人は、純粋に自分のことを打ち明け表現できる“自分のためだけの”とっておきのツールだったラップが、いつの間に自身の手を離れ皆にも求められるものになっていく、その急激な変化感についていけなかったのかもしれない。

そんな大好きなラップから逃げ続けている今も、彼は過度なストレスによる神経性の胃腸炎を患っている。立ち止まっても地獄、進んでも地獄。行き詰まっているKABE太人と孔明が初めてコインランドリーで対峙するシーンがかっこよすぎて痺れた。

孔明の「お経ラップ」が炸裂!2人の初対面場所がコインランドリーである必然性

洗濯機の規則的な稼働音と孔明のお経のような淡々としたラップが共鳴し合いKABE太人に詰め寄っていく。顔色一つ変えずに、低音ボイスで一定のビートを刻みながら一気にラップし続ける孔明の異様さと有無を言わさぬ迫力を向井が体現していた。その上、洗濯機のアラーム音がMCバトルの終了音かのようで、コインランドリーにこんなにも様々な種類の音が溢れていたのかと気付かされた。

さらに孔明は、KABE太人のバイブスに着火させるために、彼の最大のライバルである赤兎馬カンフーに接近し、“KABE太人と決着をつけたくないか?”と唆す。もはやホームである渋谷のクラブだけでなく、六本木の“チャラ箱”クラブにもすっかり馴染み「パリピ孔明」というタイトルに恥じない向井演じる孔明のポップさがクセになる。

「高眠臥して飽かず。いつまで寝ているおつもりですか?」と、KABE太人に自身とのMCバトルを申し込んだ孔明に対して、赤兎馬カンフーは彼に「てめぇいつまで穴掘ってんだ? いつまで心の中、穴掘ってんだ?」と投げかける。“心にぽっかり穴が開く”とは言うが、“心の穴を掘る“という言い回しは聞き馴染みがない。自分の心にできた傷やトラウマ(=穴)を埋めようとするのではなく、自らその穴を堀り広げ、穴の中に隠れるように逃げ込もうとしているKABE太人の状況を非常に端的に言い表している。さすがは言葉の力を信じ勝負し続けてきたカリスマラッパーだけある。赤兎馬カンフーのラップとガラス戸や電気が揺れる音でどこでも瞬時にステージが出来上がり、グイグイKABE太人の心に浸食していく。

さらに、孔明はKABE太人の“本拠地”であるバイト先のスーパーに“密偵”を送り込んでいた。前話でも大活躍した英子の熱狂的なファン・メガネ女子(石野理子)は3人分の働きぶりを発揮し、KABE太人からバイト先でのポジションを一瞬にしてかっさらう。

その後はいつも通りお腹を下しトイレに駆け込もうとするKABE太人の行く先々のトイレ全てを先回りしては“故障中”にし、MCバトル開催会場までデカデカと掲示された「トイレ」の標識でおびき寄せる。

英子のオリジナルソングがもっと聴きたい

さて、孔明はKABE太人だけでなく英子自身の心にも火を着けていた。孔明の策士ぶりにすっかり信頼を寄せ、なんでも孔明頼みで他力本願になりつつある英子に危機感を覚えた彼は「今のあなたに足りないものがあります。ご自分の力で見つけて下さい」と敢えて少し突き放したような問いかけをしていた。

そこで、第1話で自分のステージの当て馬に英子を利用しようとしたミア西表(菅原小春)にアドバイスをもらいに行くのが英子の裏表のない素直さでもあり弱点にもなり得るところだが、今回はそれが吉と出た。「本気で食べてく気あるなら、いつまでもカバー歌ってちゃダメなんじゃない? 他人が生んだものじゃなくて、自分が生んだもので勝負しないと」と、英子にカバーだけではなくオリジナルソングの重要性を説いた。

「もっともっと自分の歌でたくさんの人の心を動かしたい」という英子の夢がさらに膨らみ、「私にしか歌えない私だけの歌」で“たくさんの人の心を動かしたい”にアップデートされていく。未完成の彼女のオリジナルソングが、孔明に10万イイネの勝ち筋をもたらす。いくら傍に天才軍師がいようとも「自分の力で夢を成し遂げようとする気持ち」こそが不可欠であり、“自分の心に掘った穴から旅立つ”ためにKABE太人にまさに今求められているものだ。かつて夢を諦めようとした英子に孔明は「才能とは学習の結果、身に付くものだと考えております」と声を掛けた。英子にもKABE太人にも足りないのは“才能”でも何かわかりやすいスペックでもない。この“学習”を続けるためにも自力で夢を掴もうとする気概こそが必要だ。

そして「本物の将とは仲間の力を引き出すことができる。そして英子さんの歌にはその力がある」と孔明が力説した通り、上白石演じるEIKOの透き通った歌声がKABE太人のかつての記憶を呼び起こし、最後の一歩を踏み出させる。彼の心にも再びバイブスが灯った。

さて、次週KABE太人と“論破お化け”の孔明のMCバトルがついに開幕。KICK THE CAN CREWLITTLEが監修を務めるラップシーンにまた酔いしれ痺れたい。

文:佳香(かこ)