『最高の教師』芦田愛菜“鵜久森叶”の言葉を決して忘れてはいけない

公開:
『最高の教師』芦田愛菜“鵜久森叶”の言葉を決して忘れてはいけない

いいドラマを観ると、もう1回最初から観たいと思う。

でも時にあまりにも心をえぐられてすぎて、とてもじゃないけど同じシーンを繰り返すなんてできないと思ってしまうドラマもある。

最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系、毎週土曜22:00~)の第6話は、まさにそんな回だった。ラスト10分からがどうしても再生できない。

それくらい、あまりにも無慈悲な結末だった。

鵜久森を呼び出したのは、星崎か? 浜岡か?


10月4日、1周目の人生で鵜久森叶(芦田愛菜)が自ら死を選んだその日、鵜久森は再び命を落とした。黒バックに「2023年10月4日」のテロップが出たあたりから、嫌な予感はしていた。きんぴらごぼうが、死亡フラグにしか見えなかった。そして、1周目の人生ではちゃんと向き合うことのできなかった東風谷葵(當真あみ)の想いに彼女らしい誠実さで応えたあたりで予感は確信に変わった。彼女の2周目の人生は、今日で最後なのだろうと。

彼女を呼びつけた手紙を確認すると「この話をバラされたくなければ」と書いてある。つまり、鵜久森は何者かに脅迫されて新校舎へやってきたらしい。実際、死の直前には手紙の主と揉み合っていた。鵜久森を呼び出したのははたして誰か。

候補は2人。1人目は、星崎透(奥平大兼)だろう。「この話」とは、九条里奈(松岡茉優)と鵜久森がタイムリープをしていることであり、星崎が以前のように里奈と鵜久森の会話を隠し撮りしていたと考えられる。そのデータが入った3Dカードをめぐって、鵜久森と星崎は揉み合っていたのではないだろうか。

星崎は悪いやつではないけれど、どこか心が乾いている。無邪気に面白いことを求める反面、人の心の機微がよくわかっていないようなところがある。何をしでかすのか読めないキャラクターだ。

もう1人の候補は、浜岡修吾(青木柚)だ。相楽琉偉(加藤清史郎)に指示され、前回は文化祭の準備中だった3年D組の教室を荒らした。今回も、苛立ちをあらわにする相良に対し、浜岡は「そういうときこそ、俺の出番じゃないの?」といたずらな表情をしていた。一体浜岡は何を仕掛けようとしていたのか。

あるいは、まだ全貌が明かされていないクラスメイトが悪意の爪を研いでいるのかもしれない。公式ホームページのトップページが、「私を殺したのは誰ですか?」から「彼女を殺したのは誰ですか?」へと切り替わった。まるで展開の読めないミステリーに、視聴者はいつの間にかどっぷり引きずりこまれている。

『最高の教師』が夏ドラマである理由


2周目の人生で鵜久森が死を回避できなかったことから、里奈もまた2度目の卒業式で命を落としてしまう可能性も出てきた。

が、これには2つの見方ができると思う。鵜久森同様、過程は変われど、死の結末は変えられないパターンと、2周目の人生で里奈は生き残ることができるパターンだ。個人的には、後者だと踏んでいる。

なぜかというと、鵜久森と里奈では大きく違う点がある。それは、鵜久森が自死であるということ。自ら人生を放棄してしまった者には、“やり直し”は認められないのかもしれない。

その根拠となるのが、鵜久森の残したビデオメッセージだ。鵜久森はこう言った。

「絶対に自分で自分の終わりを選ぶべきじゃない。絶対にそうすべきじゃないって」

「絶対に生きてれば変わるんだって。変えてくれる誰かが世界のどこかにはいるんだって」

昨今、自死に関する悲しいニュースが相次いでいる。人の痛みになるべく寄り添いたいと思うようになった僕たちは、いろんな考えや意見をできるだけ尊重したいと思うようになった僕たちは、昔みたいに簡単に「自殺なんてしちゃいけない」と言えなくなった。

もしもその人が本当につらくて、苦しみから逃れる唯一の術が死なのだとしたら、その選択肢を選ぶことを責めることなんて誰もできない、という声が少しずつ、でも確実に大きくなっている。

そんな中、あえてこのドラマは、自死を選ぶべきではないと強く訴えかけた。逃げてもいいとか、頑張らなくてもいいとか、優しいメッセージが溢れる今の社会で、あえて力強く「べき」と言い切った。そこに、このドラマの覚悟を見たし、このことを伝えたくて、つくり手たちは学園ドラマというフォーマットを選んだんじゃないかなと思う。

押しつけと言われてもいい。強者の論理と疎んじられてもいい。それでもやっぱり自分から死を選ぶなんて間違っている。生きていれば、いつか必ずどこかで心が救われる日がやってくる。希望的観測と鼻白まれても、そう言い切ることがテレビドラマには必要なんじゃないだろうか。

もうすぐ夏休みが終わる。夏休み明けの9月1日は子どもの自殺がいちばん多い日と言われて久しい。その前にこの回を放送したかった。このメッセージを伝えたかった。クライマックスが卒業式であるならば、本来は冬クールに放送するのがベストだろう。それでも、『最高の教師』を夏ドラマとしてオンエアに乗せたのは、そんな意味があったような気がする。

2周目の半年を全力で生きた鵜久森は「死にたくない」と涙を流した。明日がイメージできない中で、もっともっと生きたい未来を思い描いた。「無自覚に人を傷つける世界を、少しでも変えてくれることを」。鵜久森の遺した言葉を、僕たちは決して忘れてはいけない。

誰もが生存を願った、芦田愛菜の語りの力


鵜久森の死により、準主役のポジションであった芦田愛菜が途中退場という衝撃の展開となった。『Mother』で名を馳せて13年。19歳となった芦田愛菜はピュアなあどけなさは残したまま、さらに陰影に富んだ表現ができる俳優となった。

1話の教室での告白もそうだが、芦田愛菜の語りはまっすぐと観る者の心に響く。一つひとつの音が力強く、打算がない。もちろんこれだけのキャリアを誇る俳優だ。その演技は、感情に溺れないだけの技術と鍛錬で裏付けられている。それでも、役として台詞を話し出すと、素朴で、等身大で、どこにでもいる普通の女性として精一杯の気持ちを吐き出しているように感じられる。だから、つい芦田愛菜の演じる役に感情移入してしまう。

きっと多くの人がラスト10分の間ずっと願っていたはずだ、どうか鵜久森に死なないでほしいと。まるで捨てられた人形のように地面に転がっている鵜久森を見てもなお、一命を取り留める未来を祈らずにはいられなかった。演技なんてつくりもののはずなのにそう感じさせないだけの力が、芦田愛菜にはある。

今回の前半戦を担った當真あみの透明感ある佇まいも良かった。俳優にはただそこにいるだけで物語を感じさせる者がいるが、當真あみは間違いなくその類の俳優だと思う。改めてここからどれだけのスターが世に出てくるのか、もはや楽しみとともに畏れすらも抱いている。

次回は、1週お休みの9月2日。あと2週間、視聴者は鵜久森を失った悲しみを引きずりながら過ごすことになりそうだ。

『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』は、TVerにて最新話に加え、ダイジェスト動画が配信中。