『最高の教師』松下洸平“九条蓮”が放った、頭でっかちな大人こそ噛みしめたい名台詞

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『最高の教師』松下洸平“九条蓮”が放った、頭でっかちな大人こそ噛みしめたい名台詞

九条里奈(松岡茉優)の生徒に対するストレートな言葉が毎回胸を打つ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系、毎週土曜22:00~)。

しかし、第4話はこれまでとアプローチを変え、九条はあくまで陰の存在。生徒同士がぶつかり合うことで事態を解決へと導く趣向新たな回となった。

栖原はフラれたけれど、あの告白は失敗じゃない

「そんなんじゃ何も変わらないじゃん。何でもするんじゃないの? それじゃ結局、自分でどうにかしろってことじゃんかよ」

家庭にも教室にも居場所がない。そんな寂しさからうすうす悪巧みに気がつきながらも幼なじみの浜岡修吾(青木柚)を受け入れようとしていた江波美里(本田仁美)。これまでの里奈ならどんな手を使ってでも江波と浜岡を引き裂くはずだった。

しかし、浜岡が江波を利用しようとしている証拠を開示するだけで、「私がこの件でお伝えできるのは、この未来を選択するべきではないという事実だけです」と問題に介入しようとしない。まるで1周目の頃と同じ。なんとなく悪いことが起きそうな予感はしているけど、傍観しているだけ。違和感が、視聴者の胸に引っかかる。

が、それもすべて里奈の狙いだった。

「愛情という本能的な人間関係の欠如を、教師が理屈を振りかざしてどうすることはできない。できるのは、本当に想いのある人だけだって」

栖原竜太郎(窪塚愛流)は、里奈からそう言われて江波を託された。確かに、これはひとつの真理だと思う。生徒が抱える悩みを、教師がすべて解決できるわけではない。生徒にとって、教師より大切な存在はたくさんある。

自分が先頭に立つのではなく、今この人に誰が声をかけるのがいちばん効果的なのか。教室内の人間関係を把握した上で、ベストな采配をする。むしろそちらの方が教師の仕事と言えるのかもしれない。それに、そうすることで、里奈は江波の問題を解決するだけでなく、栖原の人間的な成長にも一役買った。

「この世の中はみんなが思っているよりイージー」とうそぶき、難易度の高い課題はあらかじめ回避。実現可能性の高そうなものだけをチョイスしてきた栖原にとって、あの告白はどう考えたって失敗の確率の方が高かった。

きっと九条と関わる前の栖原なら、あそこで告白という選択肢は選ばなかっただろう。だって、カフェで「ここに来たら江波に会えるかなって来てみた」とカマをかけたときは、すぐさま「え? 何? マジに受け取んなよ」と冗談のふりをした。予防線を張ることばかりが得意な栖原が、初めて自分で引いた予防線を踏み越えた瞬間だった。

結果は、必ずしも喜べるものではなかった。でも、うまくいくことだけが人生の価値ではない。失敗し、傷つくことから学ぶこともある。あるいは、たとえ自分が傷を負ってでも守りたいものが人にはある。

栖原にとって、それが江波だった。だから、フラれても悔いはなかった。あのときの栖原にとっての成功は、告白を受け入れてもらうことではない。自分の泣く場所さえ見つけられない江波が、ちゃんと泣けることだ。だから、フラれたけど失敗ではないのかもしれない。

そんな栖原はとてもカッコよかったし、「俺はお前の居場所になんてものにはなれやしないけど、お前の居場所には俺がいつだって行ってやれるよ」という台詞は素敵だった。いつも周りの顔色を見て、人と同じものばかり頼んでしまう江波の気持ちも頷ける同世代は多かったはず。毎回、ヘビーな問題と常識にとらわれない解決方法で話題をさらう『最高の教師』だが、今回は等身大の青春モノとして爽やかな風が吹く結末だった。

里奈の授業は、子どもだけではなく、大人たちにも向けられている

シナリオとしても、つい動かない理由ばかりを探して、何も状況を変えられずに立ちすくんでいる人たちに刺さるメッセージがたくさん散りばめられていた。

中でも構造として非常にうまかったのが、夫・九条蓮(松下洸平)の言葉だ。里奈から人生2周目であると打ち明けられた蓮は、拍子抜けするくらいあっさりその告白を受け入れる。

「なんでこんな馬鹿げた話を普通に聞いてくれんの?」と思わず訝しがる里奈に、蓮は言う。

「この話を聞いて、『おかしくなったのか』とか『変な夢でも見たのか』とか、そうやって疑って否定することは簡単じゃん? でも俺は自分の大切な人が真剣な顔で打ち明けてくれた何かを、そういう簡単な言葉では終わらせたくないなって」

「この世界さ、『そんなわけない』より『そうかもしれない』の方が大事なことが多いじゃん?」

何度も何度も噛みしめたい、いい台詞だった。特に大人になればなるほど頭でっかちになって、自分の理解の及ばない事象に遭遇すると、つい「そんなわけない」と可能性を放棄してしまう。でもきっと「そうかもしれない」と信じる力が、未来を広げていくのだろう。

動かない理由ばかりを考えていた里奈も、蓮のこの言葉で変わる。

「私たちは、誰かが何かの危機に瀕した状況が見えたとき、『そんなわけがない』よりも『そうかもしれない』で動くべきではないでしょうか」

この里奈の台詞が、児童の虐待死のニュースが絶えない今の日本に痛烈に響く。悲しい事件が起きると、いつも外野はどうして周りは助けてあげられなかったのかと疑問を口にする。きっとそのいくつかが「そうかもしれない」より「そんなわけがない」を優先させた結果だったのだろう。この現代を生きるすべての人が当事者として考えたい台詞だ。

そして、里奈が栖原にそう言えたのも、蓮の言葉があったからだ。誰かの言葉が誰かの心を動かし、動いた心がまた別の誰かの心を動かす。そうやって登場人物たちの感情が連鎖し合うことこそが連ドラを見る喜びだし、物語に奥行きを与える。

九条里奈が冷酷無比な万能教師ではなく、迷い悩みながらも自分の信じる正解へ突き進むごく普通の人間であることを改めて感じさせた描写だったし、そこにこのドラマの面白さがあると思う。

1学期は無事に終了し、次回からは「地獄の2学期」へ。里奈がタイムリープしていることを勘づく生徒も現れた。さあ、ここからどんな地獄が幕を開けるのか。僕たちの固定観念をぶち壊す魂の授業を今か今かと楽しみにしている。

『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』は、TVerにて最新話に加え、ダイジェスト動画が配信中。