『チーム・バチスタ』シリーズTVer配信記念!豊福Pインタビュー「勧善懲悪だけではない描き方をしたかった」

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『チーム・バチスタ』シリーズTVer配信記念!豊福Pインタビュー「勧善懲悪だけではない描き方をしたかった」

民放公式テレビ配信サービス「TVer」では、2008〜2014年に放送された大人気医療ミステリードラマ『チーム・バチスタ』全4シリーズ(『チーム・バチスタの栄光』『チーム・バチスタ2 ジェネラルルージュの凱旋』『チーム・バチスタ3 アリアドネの弾丸』『チーム・バチスタ4 螺鈿迷宮』)が無料配信中です。

本作は、海堂尊さんによる医療ミステリー小説を原作とし、伊藤淳史さんと仲村トオルさんがバディを組んだ人気ドラマ。医師と官僚の絶妙なコンビ感で、病院内に起こる不可解な事件を暴く人気シリーズです。

今回、ドラマシリーズの生みの親で、直近では『インフォーマ』や『全ラ飯』を手掛けた関西テレビ(以下、カンテレ)の豊福陽子プロデューサーにお話を聞きました。ドラマのエピソードやキャストのことはもちろん、配信全盛期の現代において、豊福さんはどんなことを感じているのか。その思いにも迫りました。

シリーズを支える凸凹コンビの存在

――今回、最後のシリーズ作品である『チーム・バチスタ4 螺鈿迷宮』の放送から約10年を経て、全シリーズの配信が開始されました。まずは感想をお願いします。

シーズン4まである作品なので、一気に見るのはエネルギーが必要な気がするんですけど、今の時代、好きな時間好きなペースで手軽に見られるじゃないですか。“あっという間に見ちゃったな”と感じるような楽しみ方のできる機会ができて、とても嬉しいです。

――制作当時を振り返って、思い出深い出来事を教えてください。

シーズン1は、「オペ室の中で殺人事件が起きているんじゃないか(成功率100%を誇っていたバチスタ手術専門チームで連続不審死が起こる)」というところから物語が始まるのですが、当時、犯人が誰なのか、キャストの方にお伝えせずに撮影していたんです。

容疑者になりうるみなさんは「自分じゃないか?」「あの人か?」と現場は疑心暗鬼になっていて(笑)。とあるタイミングで犯人役の方にお話したところ、こっそり伝えたはずが、すぐに知れ渡ってしまい、みなさん「自分じゃなかった〜!」と安心したり残念がられたりと大盛り上がりしました(笑)。そうやって、舞台裏でも楽しく撮影してしていた思い出があります。

――シリーズを通して約6年お仕事を共にされた伊藤さん、仲村さんお二人の魅力を教えてください。まずは、厚生労働省官僚・白鳥圭輔役の仲村さんはいかがでしょうか?

仲村さんは、白鳥のように頭が良くてロジカルに物事を考えられる一方で、チャーミングなところもある方です。どのシーズンでも周りから「トオルさん! トオルさん」と頼りにされていましたね。白鳥のキャラクター造形や謎解きの台詞など、私たちにもいろいろなアイデアをくださったので、仲村さんが白鳥じゃなかったら、今のバチスタは生まれていなかったなと思います。

白鳥は、厚労省の技官でありながら医師免許も持っているので、専門用語を覚えなきゃいけないし、それにくわえて謎解きもしなきゃいけない。シーズン3のとき、1日の現場で、4~5話分をまたいでたくさんのシーンを撮影しなければならないことがあったんですが、難しい謎解きの長台詞もすべてこなしてくださって……。さすがだなと思いました。

――心療内科医・田口公平役の伊藤さんはいかがですか?

おそらく、みなさんのイメージ通りの方なんじゃないかなと思います。裏表がなくて、主役でも引っ張っていくんじゃなく、いつの間にかみんなが自由に振る舞える空間を作ってくださる方。田口は心療内科の先生ですが、伊藤さんにもにも話しやすさや、聞いてくれる優しさがあり、伊藤さんと喋ると“普段のままの自分”でいられる。そういった空気を自然に作られる方なので、みんなが伸び伸びと、楽しく撮影されていたと思います。

伊藤さんと仲村さん、お二人が世界観をちゃんと作ってくれたからこそ、シーズンごとにどこが舞台になっても、どんな方が来ても、安心して撮影できましたし、安心して見ていただける作品になったと思います。

成長を感じるキャストに感動

――たくさんのキャストが、さまざまな役で出演されています。たとえば、シーズン2では、救命救急センター部長・速水晃一役の西島秀俊さんのダークな雰囲気が素敵でした。

西島さんは、いつかご一緒してみたいと思っていた方で、出演が決まった時はとても嬉しかったです。優れた救命医だけど黒い噂もある速水を、“悪いヤツかもしれないけど、どこか惹かれてしまう”人物として、魅力的に演じてくださいましたね。

――シリーズを拝見していると、救命医・長谷川崇役の戸次重幸さん(シーズン2)、放射線科准教授・島津吾郎役の安田顕さん(シーズン3、4)などもご出演されていて、当時から輝いていたのだと改めて実感します。お二人の撮影時のエピソードはございますか?

戸次さんは、優等生的な救命医で難しい台詞がたくさんあるのにほぼNGがなかったと思います。ただ、一度、撮影場所を間違えて大遅刻したことがあって、みなさんにツッコまれていました(笑)。安田さんは、すでに「本番!」と撮影体勢に入っていたのに、あるお茶目な失敗をして、みんなから「もー!」って、愛情たっぷりに怒られたことがありました。みなさん本当に仲が良くて、楽しい現場でした。

――共に仕事をしてみたかったキャストや、キャスト選びで印象に残っている方は?

ご一緒できるとなって、なおのこと楽しみだなと思ったのは、鳴海涼を演じた宮川大輔さん(シーズン1)です。芸人さんや、本業が俳優さんではない方というのは、映像で出たときの俳優さんとはまた違った強さ・エネルギーがすごくあって、見ていてすごく面白いなと思いました。

あとは、桜宮葵役の山崎賢人くん(シーズン4)。葵は超謎な役なんですけど、葵をどなたにお願いするか、遠田孝一プロデューサーと話をしたときに「山崎賢人くん面白そうですよね」と話をしたのを覚えています。当時は「これからさらに成長される俳優さんなんだろうな」と思っていましたが、今やすごい俳優さんになられて。

――あどけなさが残る俳優さんの成長を見られるのも楽しみのひとつです。

2010年放送のシーズン2で新人研修医の滝沢秀樹役だった松坂桃李さんには、映画版(『チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像』/2014年公開)にも出ていただいたんですが、4年後に同じ役で出ていただけるのは、長くシーズンを続けてきたからこそだと思います。稀有な体験でしたし、改めて幸せなことだなと思いましたね。

――シリーズ放送中、自分の中で決めていたルールはありますか?

原作者の海堂先生にドラマ化の了承をいただくとき「ある種のエンタメとして、悪い医者が出てきたり、殺人事件が起こったりするけれども、医療に従事してる方々は、真摯に向き合っている方がほとんどなので、事件ばかり光を当てて『こんなひどいヤツがいるんだ』と捉われる描き方はしないでほしいです」とおっしゃっていて。

犯罪を犯した人間を擁護することはできないけど、心情として「もしかしたら、誰もが犯人になり得るかもしれない」とか、そこに至る経緯に問題があるんじゃないかとか、“思い”に気持ちが向くように、勧善懲悪だけではない描き方にしたいと思っていました。

――シリーズに携わる中で、その後のドラマづくりの指標になったことはありますか?

シーズン1で監修していただいた心臓外科の先生にお話を伺ったとき、「患者さんが治ったあとの姿をイメージして手術をしています」と話されていて、「なるほどな」と思ったんです。手術は人生のある1点の出来事だけれど、先生は患者さんのその後まで、人生という「線」で見据えておられるのだと思いました。

私もドラマに携わったときに、いつかそのドラマは終わるんだけど、劇中の人物がその後も“どこかで生きていそうだな”と思えたら成功だと思うようになりました。もちろん、そう思えるのは、キャスト、スタッフの皆さんのおかげなのですが、ドラマづくりをする上で大切にしていることです。

誰かに“深く刺さる”作品を

――豊福さんは現在プロデューサー業の傍ら、コンテンツ事業部専門部長としても活躍されています。放送だけではなく、配信・見逃し視聴もある現代のドラマの作り手として、大切にしていることはありますでしょうか?

今の時代、ヒットの法則って1つに絞れないと思うし、だからこそ、いろいろなものがあっていいんじゃないかなと思います。

ただ、自分が視聴者側だったとき、ハマったドラマがあればビデオで何回も見ていましたが、今もTVerだと好きなシーンを何回も見られるじゃないですか。「分かっていても何度でも楽しめる」。誰かにとってそうなるような作品を目指したいとは思います。

一方で、手軽に見られる反面、複雑で壮大な作品が馴染みづらくなっているのかな、とも思っていて……。海外ドラマの中には、ある回以降になると、ものすごく面白くなる作品もあると思いますが、そうやって、ふつうのドラマでは味わえない複雑な構造の作品が楽しめる“新たな試み”ができたらいいな、と考えています。

――これまで豊福さんは、さまざまなドラマに携わっていらっしゃいます。ご自身が考えるドラマの企画内容については、どんなことを感じていらっしゃるんですか?

個人的には、変なものばかり作っているなと思っています(笑)。ウチの会社は、ある程度自由度も高くて、あまりよそではやれないような企画も挑戦できるので、見たことないような面白いものを作りたい、それが今でも続いている感じですね。「すごく好きだな」と深く思ってくださる方がいてくれたら嬉しい限りです。

――TVerでは個人的にどんな作品をご覧になっているんですか?

やはりドラマのキャッチアップ(序盤部分)は見ますね。何話か見逃していたとしても、途中でダイジェスト配信があると「よし! ここで追いつける」と思います(笑)。ダイジェスト配信がきっかけで、次の話を見ることもありますね。

あと、『全ラ飯』もそうですけど、東京では見られない番組もTVerだったら見られるじゃないですか。なので、東京以外のエリアで放送されているバラエティを見ることがあります。

――豊福さんが今後チャレンジしたいドラマのジャンルは?

久しぶりにサスペンスをやってみたいなと思っています。でも、いまは全体的にものすごくクオリティが上がっているから、自分にどこまでできるのかなと不安もありますが(笑)。これからも、視聴者のみなさんに楽しんでいただくことが大前提ではありつつ、枠から飛び出すようなものが作れたらいいなと思っています。

――最後に、当時ご覧になっていたファンのみなさん、そして今回初めて本作に触れるユーザーのみなさんに向けて、シリーズの見どころを教えてください。

当時とくらべ、医療の技術は進歩していても、そこに携わる人たちの思いや苦労は変わらないと思うんです。バチスタシリーズは、そうしたベースがある中で楽しんでもらえる医療ミステリーだと思っています。

誰が犯人なのか推理しながらご覧いただけますが、きっと当たらないんじゃないかな〜とも思いますね(笑)。ドラマ自体「あのとき、確かこうだったな……」と振り返って考えたくなる内容ですので、気になるところはもう一度TVerでさかのぼってご覧いただければと思います。謎が解けたら、切ない時もあるけれどやっぱりスカッとします。シンプルにミステリー作品として楽しんでいただけたら嬉しいです。

(取材・文:浜瀬将樹)

【『チーム・バチスタ』シリーズ配信概要】

6月16日~『チーム・バチスタの栄光』
6月21日~『チーム・バチスタ2 ジェネラルルージュの凱旋』
6月27日~『チーム・バチスタ3 アリアドネの弾丸』
7月2日~ 『チーム・バチスタ4 螺鈿迷宮』