勇気ある冒険の旅を終えて…『ペンディングトレイン』が伝えたこと

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勇気ある冒険の旅を終えて…『ペンディングトレイン』が伝えたこと

ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』が終着駅に辿り着いた。

時空を超えた電車の旅。その軌跡は何を描いたのか。最後に、この物語から感じたことを綴ってみたい。

弱くて無力なヒーローが救ったもの

『ペンディングトレイン』は、人が人を救う物語だった。未来から帰還した5号車の乗客は、この世界を救うために奔走した。小さき声は、世界を変えられるのか。未来を救えるのか、というのが最終話の大きな争点。

ただ、この作品が描こうとしていたのは、そんな壮大な英雄譚ではなく、もっとミニマムな人と人とのつながりであったように思う。

物語の主軸を担ったのは、大切な弟の非行を止められなかった萱島直哉(山田裕貴)と、尊敬する先輩に自らの過失で怪我を負わせてしまった白浜優斗(赤楚衛二)。どちらも広い意味で“救えなかった”過去を背負っており、その負い目から直哉は心のシャッターを下ろし、優斗は自罰的なまでに人を救うことに執着するようになった。

癒えることのない傷と呪縛から2人がどう救われていくか。それが、この物語の核だった。

その答えのひとつとして大きな意味を持っていたのが、最終話の中盤のシーン。無事に出産を終えた佐藤小春(片岡凜)の傍らで、江口和真(日向亘)は「あのとき、帰ろうって言ってくれてありがとう」と優斗に感謝を告げる。そして、他の乗客たちもあの混乱下で先頭に立って引っ張ってくれた優斗へ感謝の想いを伝えた。

ずっと自分のことを無力だと思っていた。自分の弱さを憎んでさえいた。だけど、無力で弱い自分と必死に抗い続けてきた日々が、誰かの希望になっていた。

優斗を救ったのは、他でもない優斗自身なのだと思う。一生懸命に戦い抜いた過去の自分が、今の自分を救ってくれた。やれるだけやってみた日々の積み重ねが、未来になる。

理不尽な誹謗中傷に遭い、人間の醜いところをまざまざと見せつけられた優斗が、人間の美しいところをもう一度見ることができた瞬間として心に残る場面だった。

「明日 君と」は、直哉から優斗へのメッセージだった

だが、まだこの時点で優斗にかかった人を救わなければならないという呪いは解けていない。最終的に優斗を救ったのは、他でもない直哉だった。

来る運命の日に備え、5号車の乗客たちはスイスへ避難を決める。だが、優斗だけは最後まで人を救うために残ると言って聞かない。約束の8時23分の電車にも優斗が乗ることはなかった。そんな優斗の前に現れたのが、直哉だ。直哉は「生きよう」と優斗を説得する。副題である「8時23分、明日 君と」の「君と」は直哉から優斗へのメッセージだったのだ。

この構図は、未来の世界に残ると譲らなかった直哉に向かって優斗が「俺を信じろ」と訴えかけたときの逆転でもある。かつて優斗が直哉を救い、優斗に救われた直哉が今度は優斗を救う。

人と人は、どちらか一方が寄りかかり、どちらか一方が支えるものではない。どちらかが倒れそうになったら、もう一方が肩を貸し、その逆のことが起きれば、今度は肩を貸し返す。そうやって人と人は生きていく。

思えば、荒廃した未来にいたときからずっとそうだった。弟を救えなかった自分を責め続ける直哉に対し、優斗が「やるだけやってきて立派だよ」と声をかけ、自分を追いこみすぎる優斗に対し、直哉が「ひとりで背負いこむな。俺らでやってくんだよ」と頼もしげに笑った。

直哉と優斗だけに限らない。何もない荒れ果てた地に放り出されたそのときから、乗客たちはみんなで力を合わせて困難を乗り越えてきた。吊り広告を使ってパーテーションをつくったこと。みんなで水を運び、食糧を採ってきたこと。廃材を使ってお風呂を建てたこと。そのどれもが1人の力ではできなかった。支え合うことで生き抜いた。

あらゆる絶望から人を救うのは、人と人の絆なのだと『ペンディングトレイン』は描いてみせた。

『ペンディングトレイン』が切り開いた日本の連ドラの新たな地平

連ドラでは敬遠されがちなSFサバイバルという世界観。実際、現実と照らし合わせてみたときにリアリティに欠ける部分があったり、整合性の説明がとりづらい部分もあったりして、難しさを感じる場面は正直に言うとそれなりにあった。

特に途中で登場した6号車が、ほぼ5号車との対立のためだけに消費され、その後のフォローがまったくなかったことは、これだけ人を救うことに焦点を置いた内容だったことも踏まえると違和感でしかなかった。

ただ、刑事モノや医療モノといった鉄板の題材に頼ることの多い連ドラ界で、他のつくり手たちがチャレンジしなさそうなフィールドにオリジナル作品で挑んだ野心は大いに評価したいし、荒削りながらもキャスト・スタッフの志は十分に伝わる内容であったと思う。

この勇気ある冒険に他のクリエイターも続き、日本の連ドラがより多様になることを願ってやまない。

最終的に人類は隕石衝突を回避できたのかは、明確には描かれなかった。米澤大地(藤原丈一郎)からの手紙は田中弥一(杉本哲太)のもとへ届いた。だが、田中を取り囲む世界は、荒廃した大地のままだった。このことから隕石の衝突は避けられなかったと見ることもできる。

ただ、そのこと自体はどちらでもいいのかもしれない。なぜなら、死は恐怖ではないのだから。

それよりも大事なことは、明日世界が終わるとしても懸命に生きること。明日が来ることは当たり前ではない。もしかしたら隕石が衝突する前に、予測もしない出来事によって人生が絶たれることだってある。

そうなったとしても悔いがないと言えるような今日を生きることができているか。今をペンディングするのではなく、全力でぶつかっていけ。

『ペンディングトレイン』が伝えたのは、そんな熱きスピリットだった。

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