『風間公親-教場0-』木村拓哉、染谷将太、堀田真由それぞれが役で魅せた涙という感情の発露

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『風間公親-教場0-』木村拓哉、染谷将太、堀田真由それぞれが役で魅せた涙という感情の発露
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悲しい事件の結末に涙するしかなかった。役者たちだけでなく、視聴者も同様に。『風間公親-教場0-』(フジテレビ系、毎週月曜21:00~)6月12日放送の第10話は、風間公親(木村拓哉)と遠野章宏(北村匠海)が襲われた千枚通しの事件と、新たな変死体の事件、そして中込兼児(染谷将太)の過去の事件という3つの話が凝縮されていた。しかもそのどれもが否応無しに心を揺さぶる展開に。

中込が抱える事情とリンクする事件

逃亡中の被疑者・十崎波瑠(森山未來)による新たな事件が発生したが、風間はそれどころではない。変死体が発見され、中込とともに臨場する。

死亡したのは仁谷清香(竹下景子)。発見したのは22歳年下の夫でデザイナーの継秀(岡田義徳)だった。一見仲睦まじい夫婦のように見えるが、そこも疑ってかかるのが刑事の仕事だ。

話を聞くと、清香は1年ほど前からまだら認知症を患っていたとのこと。ともあれば、中込は妻の明子(大西礼芳)に任せきりにしている認知症の母(余貴美子)のことを思い出さずにはいられない。

「君は家族を殺したいと思ったことはあるか」。風間のストレートな問いに目を丸くしたあと、怒りに似た感情をあらわにしたのは、きっと図星だったから。現実でも介護疲れが原因で近親者を殺害するニュースを見る機会は増えた。その度に胸が苦しくなるが、当の本人はもっと苦しい思いをしているはずだ。

「君は理屈だけで物事を考えている」という指摘は中込の欠点そのもの。「証拠は犯人の心にある」という風間に“人情デカ”かと反抗しつつも、犯人に同情しているという点ではお前も“人情デカ”だと言い返されしまう。

“人情デカ”といえば相手の気持ちに寄り添い、情に訴えるのが得意な瓜原潤史(赤楚衛二)を思い出す。中込はその真逆な性格だが、実際に人情は捜査に有効。自白による秘密の暴露は重要な証拠になるのだから、それも立派な捜査手法なのだ。そして今回はその手法を取らなければ仕留められない事件となる。

風間のカウンセリングが導く自己開示

「奥さんの前で、あなたを追及したくないんです」。自供させるにはいい滑り出しだ。それでも自分の経験を深くは語らない中込に、風間はまっすぐ見据えて「話してみろ」と詰め寄る。目を赤くしてうろたえながらも意を決して話す中込の姿をみて、これは風間のカウンセリングなんだとわかった。

ずっと蓋をしていた当時の恐怖、母への思いをちゃんと言葉にしろと以前も風間は言っていた。もしかしたら心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する心理療法をも心得ているのかもしれない。

自身が被害者となった誘拐事件の詳細や思いを吐露すると、自然に涙が溢れてくる。いつも指導官室で新人刑事が風間とマンツーマンで繰り広げる自己開示が、犯人の前で行われるとは。この涙が犯人の心をも動かすと計算していたとしたら、風間のやり口はすごい。

そのまま諭すように推測を語る中込にもう迷いはなかった。淀むことなく、覚醒したかのようにまっすぐの目で継秀に清香の不可解な行動を説明する。毎週水曜に魚を調理していたわけ、電話の録音消去ボタンに塩がついていたわけ、最期の顔が安らかだったわけ。

そこにはすべて、愛する相手に対しての愛情が込められていた。継秀が膝をついて声のない嗚咽を漏らしたあと、崩れ落ちた場所はちょうど清香が倒れていた電話の前だった。そこからは、若き2人の結婚写真がよく見える。清香も同じ景色を見ながら穏やかに死んでいったのだ。

胸にひっかかっていた思いを言語化できた中込は、感情をコントロールする術を得た。犯罪被害者という自身の経験を生かすことで、これからもっといい刑事になっていくに違いない。

風間と幸葉は遠野の死をどう乗り越える?

その一方で遠野が昏睡状態に。伊上幸葉(堀田真由)は風間を呼びに行くが、聞き入れてもらえなかった。事件に優劣があってはならない。だからこそ、そこに感情を持ち込まないということか。

そういえば十崎の事件が再び発生したときも、風間はそちらではなく中込に同行していた。後進育成を優先する態度を貫く姿勢には、どこか切迫したものを感じてしまう。

幸葉の見舞いのあと、うっすらと目を開けた遠野は、飾られたスイカズラを見ていた。そこで回復の展開を期待してしまったが、やはりそうはいかない。『教場』でずっと教官が警察学校の花壇に水をあげているのを見ていたので、たぶん殉職だと思っていたが……やはり。

病院の入り口では警察官たちが泣き崩れていた。これだけで、死は伝わる。そのあと涙を浮かべた幸葉が風間の胸に拳をうつシーンは、言葉はなくとも多くの情報量をはらんでいた。お互いに言いたいことはきっと、伝わっていただろう。

幸葉が風間に感情を爆発させるのはこれがはじめて。今までの新人刑事がそうであったように、これも風間道場の洗礼ということか。風間と対峙する相手はいつも、押し込めた感情と向き合うことを求められる。

軽妙洒脱でひょうひょうとみんなに寄り添っていた幸葉。新人刑事たちはそれに救われてきたところが大きいが、彼女も今回の経験でまたひとつ成長することとなった。

風間はといえば、自己と対峙すべく剣道場を訪れていた。遠野ともやり合った剣道場で打ち込み人形に木刀を振り落としながら、何を思っていただろう。悲しみだけではなく、きっと同僚として遠野を守ってやれなかった己の不甲斐なさをぶつけていたのではないだろうか。

思い出されるのは「僕は刑事になれませんか」という遠野の言葉。その瞬間、風間の義眼である右目から涙がこぼれてくる。感情を表に出さない風間が、最終話を目前にしてこんな姿を見せてくれるとは。

本来の情にあふれる心優しい風間公親という人物像がこのシーンに表れていた。だからこそ、この涙や無念さが冷酷無比な教官としての人格形成に影響していたとしたら。それはあまりにも悲しすぎる。

(文:綿貫大介)