『ペンディングトレイン』山田裕貴“直哉”&赤楚衛二“優斗”が見つけた絶望の先の希望

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『ペンディングトレイン』山田裕貴“直哉”&赤楚衛二“優斗”が見つけた絶望の先の希望

期待するから裏切られる。このドラマは、何度もそう繰り返してきた。

でも、望みを持たずに人は生きていけない。固い土から芽を出した雑草が、何度も踏まれ、茎をへし折られ、それでも明るい空に向けて立ち上がり、やがて小さな花を咲かせるように、裏切られてもなお人は希望に手を伸ばす。

ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』第7話は、そんな絶望と希望が交錯する回だった。

赤楚衛二の瞳に宿る、絶望に負けない強さ

本当にここは自分たちのいた場所なのだろうか。ずっと確かめきれなかった真実を知るために、乗客たちは地図を手にそれぞれの思い出の場所へと向かった。萱島直哉(山田裕貴)は自分の店へ。畑野紗枝(上白石萌歌)は勤めていた学校へ。そして、白浜優斗(赤楚衛二)は、いちばん会いたい人がいる場所へ。

だが、そこにはなにもない。見渡す限りの砂漠。広大な海。荒れ果てた赤土の大地。優斗は手を泥まみれにして土を掘り返すけど、そこで見つけたのは大好きだった樋口真緒(志田彩良)の自転車だった。無残に朽ち果てた自転車が、長い時の流れと真緒がもうこの世にいないという事実を残酷に物語る。

よくこういうタイムスリップ系の作品では、時空に引き裂かれた2人が登場する。時を超えて離れ離れになった相手のことをずっと待ち続けるのがひとつの定型だし、美しく描かれがちだけど、実際のところは直哉の言う通り、それが本当にお互いの幸せなのかはわからない。

不確かな未来を信じて自分を縛るのではなく、相手が笑顔で生きてくれることを願い、それぞれの道を生きていく。そんな希望もあっていいのかもしれない。

もうこの世界に真緒はいない、という現実を思い知った優斗は、真緒からもらったキーホルダーを残して、その場を立ち去る。だけど、その顔つきは不思議と悲しみに暮れたものではなかった。たとえ目の前には絶望しかなくても前に進むんだという強い意志の宿った目をしていた。そこに、この第7話の意味を感じた。

人は、どんな困難に見舞われても、ちゃんと自分で立ち直る力を持っている。決して癒えることのないように見える傷も、いつか必ず瘡蓋ができて、さらに強くなる。寺崎佳代子(松雪泰子)は「レジリエンス」という言葉を使っていたけれど、まさにそんな人の強さを体現するような赤楚衛二の名演技だったと思う。

決して主人公らしくない男を、山田裕貴が愛すべき主人公にした

直哉もまた自分の弱さを乗り越えようとしている。

6号車で過ごす時間に、そこにいる人たちに愛着を覚えはじめている自分を自覚していたからこそ、直哉は自ら離れることを決めた。そんな直哉を田中弥一(杉本哲太)は「俺とお前は同じだよ」と言ったけど、みんないなくなってほしいと願っている田中と、本当は誰かと一緒にいたいと求めている直哉とでは決定的に違うようにも見える。

だって直哉は6号車を離れるとき、「ごめんな、高校生」と江口和真(日向亘)の胸に手を置いた。あんな優しくて寂しそうな直哉の声は聞いたことがなくて、やっぱりこの人は根っからのお兄ちゃんなんだと思ってしまう。佐藤小春(片岡凜)の妊娠を知って動揺する和真にも寄り添ってくれた。直哉の鋭い目には、いつも不器用な愛が溢れている。

もし直哉と田中に共通点があるとするならば、それは傷つくことを恐れる気持ちだ。弟と2人で暮らすアパートに母がやってきたとき、ドアを開けなかったのは、自分たちを捨てた母に対する憎しみもあっただろうけど、それ以上にここで母を受け入れて、いつかまた母に捨てられる日が来たら耐えられないから。もう二度と同じ傷を味わいたくなくて、ドアの前で直哉は立ちすくんでいたんだと思う。

きっとその臆病な手を引き上げてくれるのが紗枝なんだろう。相手が手を振りほどこうとするなら、もう一度、つなぎ直せばいい。頑なに背を向けるなら、自分から抱きしめにいけばいい。そうやって人と向き合う強さを紗枝が教えてくれている。

決して主人公らしくなかった直哉が、今となってはもう愛すべき人間にしか見えない。つい観る人が応援したくなる。意地を張るなよと肩を叩きたくなる。そんな人間味あふれる主人公を、山田裕貴はこれまでの7話を通じて見事に築き上げた。

山積みとなった謎ははたしてどのように解き明かされるのか


物語としては、いよいよタイムワープの謎が解け、現代に帰る道筋も見えてきた。また、小春の妊娠が明らかとなったことで、第1話の冒頭で紗枝が抱いていた赤ん坊もおそらく小春の子であることがほぼ確定となった。

だがその一方で、まだほとんど語られていない謎も残っている。いちばんは、スカイツリーのすぐそばに建つあの要塞のようなビル。あれは何のために建てられているのか。あそこには誰が住んでいるのか。その全容はまだ明らかにされていない。

他にも
・なぜペットボトルのキャップだけがタイミングがズレてタイムワープしたのか。
・タイムワープの直前に1人だけ消えた乗客はなんだったのか。
・なぜ電車に乗っていなかったであろう自動販売機の補充員までタイムワープに巻き込まれたのか。
・6号車に乗る直前に意味深に映し出された盲目の男性は物語に関係しているのか。
・6号車を飛び出したまま行方がわからなくなった高校生ら他の乗客は本当に死んでしまったのか。
・山本俊介(萩原聖人)はどこに消えてしまったのか。
など、謎は尽きない。

何よりこのドラマの核となるのは、現代に帰ることではなく、どうやってみんなが現代に帰りたいと願うかだ。直哉だけでなく、田中や渡部玲奈(古川琴音)など元の世界に戻ることに否定的な考え方を持つ者たちが、もう一度、あの煩わしくも愛おしい日常へ帰りたいと心の底から願えるようになるまでを描けたとき、このドラマは未来に語り継ぎたい1作として観る者の心に深く刻まれることになるだろう。

その期待を、『ペンディングトレイン』はきっと裏切らない。

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