上白石萌歌“紗枝”の瞳に灯る生命力!『ペンディングトレイン』が示す「愛する君へ」は誰なのか?

公開: 更新:
上白石萌歌“紗枝”の瞳に灯る生命力!『ペンディングトレイン』が示す「愛する君へ」は誰なのか?

「ただ逃げてるだけのいちばんダメなやつ!」

萱島直哉(山田裕貴)のことを山本俊介(萩原聖人)はそう罵った。きっとこの言葉が、これからの直哉を変えていくのだろう。

ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』第6話は、今まで以上に人間の弱さと強さがむき出しとなった回だった。

直哉はもう一度希望の火を掲げることができるだろうか

やはり山本は嘘をついていた。無線で海外とコンタクトをとっていると話していたが、それは他の人たちを意のままに操るための嘘。元の世界で会社経営に失敗した山本は、この荒廃した未来でもう一度自分のための「王国」をつくろうとしていたのだった。

元の世界に帰る方法なんてないと突きつけられた乗客たちは火が消えたように沈み込む。直哉の言った通りだ。期待するから裏切られる。最初から希望など持たなければ失望することなんてないのだ。

「結局自分が王様になりたいだけだろうが」

直哉は、山本をそう非難する。だが、抜いた刃はそのまま自分に返ってくる。帰れるわけない。未来を変えられるはずがない。最初からあきらめている直哉を「いちばん弱いやつ」と山本は切り捨てた。

確かに山本の言っていることは一理ある。人は現状を変えようとするからもがく。もがこうとするから傷つく。冷笑的な態度でいるのは楽だ。僕たちが生きる現実社会でも冷笑主義が蔓延している。世の中を少しでも良くしようと行動を起こす者を「そんなことをしたって何も変わらない」「現実を見ろよ」と冷めた目で笑う人たちはいる。山本の目から見れば、直哉はそんな冷笑系の1人なのかもしれない。

たとえやり方に問題はあったとしても、山本が元の世界に戻るんだという希望を見せることで6号車はまとまった。5号車よりも遥かに高度な集団社会を築き上げた。理想の社会をつくるために権謀術数を尽くした山本と、頑張っても何も変わらないと最初からあきらめている直哉。本当に弱いのはどちらだろうか。

けれど、直哉は根っからの冷笑主義ではない。父の暴力から逃れるために15歳で自立。なんとか貧困から抜け出すために死に物狂いで努力をし、その結果、富と名声を得たものの弟は非行に走った。這いあがろうとするたびに跳ね返され、期待することをやめてしまっただけ。本来の直哉は、ささやかな希望を種火にして、人の何倍も熱い炎をたぎらせることのできる男だ。その希望の火を、このサバイバル生活でもう一度掲げることはできるだろうか。

たとえ裏切られてもいい。もう一度、人を信じ、自分を信じ、きっと明日はもっと良くなると心の底から期待できるようになったとき、このサバイバル生活は終わりを迎えるのかもしれない。

靴紐に託した、言葉にできない直哉の想い

5号車と6号車の対立が激化する中、新たな居住地を求めて寺崎佳代子(松雪泰子)が小森創(村田秀亮)と探索を開始。しかし、遥か彼方に見えるあの要塞のようなビルへ続く道は見つからず打ちひしがれる。そんな中、緑に光る石を発見。やはりこの石とオーロラの関連性が元の世界へ戻る脱出口となりそうだ。

そして、2023年の現代では物理学者の蓮見涼平(間宮祥太朗)が登場。ここに来ての主演級キャストの投入は、クライマックスに向けての強力なブーストになりそうだ。蓮見の研究室には、あの緑の石と同じと思われる鉱石が置かれていた。このタイムスリップを引き起こした要因はなんなのか。全員無事に現代に帰ってこられるのか、見どころは尽きない。

一方、直哉、白浜優斗(赤楚衛二)、畑野紗枝(上白石萌歌)のトライアングルもより加速しはじめた。紗枝が優斗に特別な想いを寄せていることを、直哉は優斗に明かす。直哉が紗枝に惹かれていることは明白だ。なのに、どうしてライバルにパスを出すような真似をしてしまったのか。

あれは紗枝のためではなかったような気がする。もしいつか紗枝の眼差しが自分に向く日が来たら。そう期待して、結局叶わなかったら傷つくのは自分自身。だから、深手を負う前に自ら身を引こうとした。ただ逃げてるだけのいちばんダメなやつ。山本の言葉がリフレインする。

だが、紗枝の心は確実に優斗から直哉に向けられはじめている気がする。ボロボロになりながら5号車に帰ってきた紗枝。直哉は叱るでも責めるでもなく、紗枝が自分にしてくれたように、紗枝のほどけた靴紐を結び直す。

心配していた。無事で良かった。素直になれない直哉の、伝えたかった言葉のすべてがあの靴紐に集約されていたと思う。そして、まるでそこに紗枝がいることを確かめるように、ギュッとシューズを掴んで、渦巻く胸の内を鎮めたのち、たった一言だけ絞り出す、「よく頑張った」と。

あのときの紗枝を見上げる直哉が、まるではぐれた狼みたいで、なんだか泣き出しそうに見えた。山田裕貴は強がっている人が不意に見せる弱さや優しさを、観る者の胸を射抜くように演じる。だから、山田の何気ない視線や仕草につい撃ち抜かれてしまう。

今回は上白石萌歌も見せ場たっぷりだった。山本によって船の中に監禁された紗枝。暗く狭い密室に閉じ込められ、どんなに助けを呼んでも誰にも届かない。のしかかる恐怖と無力感。顔を真っ赤にし、必死に叫び続ける上白石の表情に思わず引き寄せられる。

優斗のことを思い出しながら、与えられた食事を平らげる姿も、人間の強さと生命力に満ちあふれていた。ともすれば絶望で心が折れてしまってもしょうがないシチュエーションだ。だけど、「明日またやれるだけやってみよう」が信条の優斗に紗枝は希望をもらった。気力を失いかけていた目が見る見る光を取り戻していく。それは、なんだか身震いするような気迫があった。

そして、直哉に「よく頑張った」と声をかけられたあとの号泣も、実に瑞々しい感情の発露だった。張りつめていたものが、あの言葉でほっとほどけた。死すら感じた恐怖と、無事に帰ってくることができた安堵で、涙が止まらない。紗枝もまた強い人ではない。一生懸命強くあろうとしているだけの人なのだ。

傍目から見れば、紗枝には直哉の方が合っているように見える。だが、優斗もまたあの虹の日のことを思い出したようだった。もしもここから優斗も紗枝に心を寄せるようになったら、どう考えたって直哉の分が悪すぎる。第1話のモノローグで紗枝が話していた「愛する君へ」とは直哉のことか。それとも優斗なのか――。