『ペンディングトレイン』山田裕貴“直哉”と古川琴音“玲奈”の対比が描くもの

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『ペンディングトレイン』山田裕貴“直哉”と古川琴音“玲奈”の対比が描くもの

はたして6号車の面々を本当に信頼していいのだろうか。

大きく事態が進展した『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』第5話。だがそれは新たなる衝突の前ぶれだった。

5号車と6号車は、国際社会のミニチュアだ

5号車に比べ、文明が発達し、自治的な組織運営が確立している6号車。そのリーダーとなっているのが、山本俊介(萩原聖人)。偶然見つけた無線で海外と連絡をとった山本は、ここが2060年であること、そして2026年にスペースデブリ(宇宙ゴミ)とぶつかった小惑星探査機が小惑星と衝突したことにより、地球に隕石が落下。世界各地に壊滅的なダメージをもたらしたことを知る。つまり、人類の行き過ぎた宇宙開発が、この人災の引き金になったというのが山本の主張。これが、信憑性のあるものかどうかは現段階ではジャッジできない。

IT企業の社長を務めていた山本は、見るからに人心掌握術に長けている。どういう筋書きを描けば人の心を操れるかよくわかっている山本による、都合の良いように駒を進めるためのでっち上げにも見えなくはない。

6号車が信頼に値するかどうか判断しかねるのは、他にも理由がある。加古川辰巳(西垣匠)が加藤祥大(井之脇海)を刺したのは、相手の正体がわからず動転していたからだと言うが、いかに自己防衛とはいえ、何の対話もなく、無抵抗の相手を攻撃し逃走するのは、あまりにも穏やかではない。さらに、畑野紗枝(上白石萌歌)と渡部玲奈(古川琴音)が発見した遺体も気になる。もし加古川が北千住駅前で起きた殺人事件の犯人、あるいはそれに比する猟奇性を秘めた人物だとしたら……。そう軽はずみに友好関係を結んでいい相手とは思えない。

さらに、あからさまに治安の悪い矢島樹(鈴之助)らも登場。これに関しては、このサバイバル生活で暴徒化する人間があまりに少なすぎたので、ある意味で現実との調整弁的な役割にも見える。ずいぶん素行の悪そうな矢島らが8時23分という健康的な時間に連れ立って電車に乗っていたことだけがなんだかキャラクターに合っていないが、意外と真面目に勤労していたのかもしれない。

ただ、5号車=正義、6号車=悪と決めつけるのも早計な気もする。この状況は、ある意味、国際社会のミニチュアだ。それぞれ異なる文化や思想で発展してきた集団が交わると、不和や対立が生まれる。どちらが一方的に悪いわけではない。それぞれの信じる正義が違うから戦争は起きるのだ。

しかもそこに田中弥一(杉本哲太)のような自分の利益だけを考えてこざかしく立ち回る人間が介入することで、疑念は膨れ上がる。これまで人類が引き起こしてきた数多の争いも、最初の火種はこんなものだったのかもしれない。

もし仮に、山本の主張が真実であり、小惑星探査機と小惑星の衝突が日本壊滅の原因だとしたら、本作のキーワードの1つは衝突だと言っていいだろう。ある2つのものがぶつかり、強い反発が生じることで、また別の衝突が発生する。そうやって世界は滅んでいった。

今、5号車と6号車で起きていることも同じだ。田中の差金によって緊張状態にある中、紗枝が襲われたことで一気に両者の関係は武力衝突へと転じようとしている。時空を超えてなお人類は同じ過ちを繰り返すのか。5号車と6号車の間で発生している衝突そのものが、長い歴史の中で戦火が絶えたことのない人類への皮肉であり警鐘なのか。

絶望状況にありながら、手を取り合って集団生活を築き上げてきた5号車は、今、重大な岐路に立たされている。

玲奈は、紗枝に出会う前の直哉だ

そんな波乱と同時進行で進んでいるのが、恋の波乱。白浜優斗(赤楚衛二)に憧れを寄せていた紗枝だが、優斗の心の中には大事な人がいることを知り、ショックを受ける。一方、萱島直哉(山田裕貴)の中にははっきりとした紗枝への恋心が育っていた。

弟の一件以来、希望を持つことをなるべく避けて生きてきた直哉にとって、素直な紗枝は希望そのものなのだろう。あんなふうに虹を無邪気に見上げられる感性が、直哉には眩しかった。人を信じられなくなった自分を、まっすぐに信じてくれたことがうれしかった。自分から暗い道を選んで生きてきた直哉だったけど、本当は心安らぐ陽だまりがほしかったのだ。それが、紗枝だった。

そんな直哉の心情の変化を、同じように好んで孤独を選んできた玲奈(古川琴音)と対比させることで、より鮮明に浮かび上がらせていたのが今回の特徴だ。ひねくれ屋なのは直哉も玲奈も同じ。2人とも期待することで裏切られるのを恐れている。

玲奈は「仲間を持つと弱くなる」と語っていたけれど、あれは反語だろう。玲奈は、本当は羨ましかった。あんなふうに自分のために我先にと駆け出してくれる人がいる紗枝のことが。玲奈は、本当は寂しかった。もし自分が危険な目に遭ったとしても、誰も心配なんてしてくれないと知ることが。だから、必死に涙が溢れそうになるのをこらえる顔をしていた。

玲奈は、紗枝に出会う前の直哉なのだ。もしも紗枝や優斗がいなければ、直哉は今も孤立したままだったかもしれない。でも、好きな人ができると何も怖くなくなる。仲間ができると強くなれるということを、この作品は直哉を通して描こうとしている。

そしてきっと玲奈にもそんな相手が見つかるだろう。おそらく、それが明石周吾(宮崎秋人)。今回、ちらっと周吾とのやりとりが描かれていたけれど、彼の存在が玲奈を変えていく。

人類を救うためでも、地球の未来を変えるためでもなく、乗客1人ひとりの人生を今よりもう少し明るい方向へ進路変更するために、みんなこのペンディングトレインに乗車したのかもしれない。

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