『美しい彼』萩原利久“平良”と八木勇征“清居”が溺れる、終わることのない片想い

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『美しい彼』萩原利久“平良”と八木勇征“清居”が溺れる、終わることのない片想い

両想いというのは、実はどこまで行っても片想いなのかもしれない。

たとえ気持ちが通じ合っても、何から何までわかり合えるわけじゃない。自分の気持ちばかりが一方通行だとじれったくなることもある。

平良一成(萩原利久)と清居奏(八木勇征)の想いが重なり合う日は来るのだろうか。ドラマイズム『美しい彼』(シーズン2)(MBS、毎週火曜24:59~/TBS、毎週火曜25:28~)第3話は、イチャイチャのハッピーセットだった前2話から一転、どうしてもわかり合えない2人のもどかしさに身がちぎれるようなラストとなった。

清居はいつか平良の母がつくったエビコロッケを食べてみたかった

知り合いの前で、自分たちの関係性を明かせない。それは、どれだけ辛いことだろう。「友達」と嘘をついたときの後ろめたさ。偽りの関係を演じ続けなければいけないストレス。ただ好きだということを、言いたいだけなのに言えない。

異性愛なら、さまざまな選択肢はあるにせよ、恋人という道筋の先に結婚という形がある。でも、同性愛にはまだ日本の法律ではその道が開かれていない。

だから、別々の家族が親戚になるややこしさとか喜びとか、血のつながらない人たちを自分の家族のように大切に思う気持ちとか。そういうものは、自分には関わりのないことかもしれないと胸に秘め、でも清居は心の奥で密かに焦がれていた、いつか平良の両親に自分のことを認めてもらえる日が来たらいいなと。

そのすべてが、自分のひとりよがりな妄想なのだと突きつけられた。

従姉妹の菜穂(綾乃彩)の前で友達だと偽ったことを本当は嫌だったと、平良が打ち明けたとき、清居はすごくうれしかったんだと思う。眉を寄せ、視線を落としたその顔が、一瞬で光が射したみたいに柔らかくなった。

平良も、自分と同じように思ってくれている。それは、清居にとって何よりもうれしいことだ。

でも、その希望は次の瞬間にあっけなく打ち砕かれる。平良が罪悪感を抱いたのは、神様のような清居と自分が友達だなんておこがましいにも程があるから。またいつものパターンだ。結局平良はいつも自分をただの男として見てくれはしない。

それどころか、いつか平良の両親と食卓を囲んで、平良の母がつくったエビコロッケを食べて、本当にお母さんの味そのまんまなんだと噛みしめて、自分も平良家の一員になれたような幸福感に浸る、そんなかすかに思い描いていた夢さえも、平良の頭の中にはただの1ミリもないことが、悔しくて、腹立たしくて、どうしようもなかった。

清居が我儘なわけじゃない。好きな人ができたら、そんな未来を夢見るのは、ごく自然だと思う。ただ、平良の「好き」と清居の「好き」がどうしようもなく重ならないから、2人はいつも噛み合わない。

平良が密かに持っていた、親愛のジンジャーエール

決して清居は無敵なわけじゃない。写真コンテストに落ちた平良に、清居は慰めるでも励ますでもなく、次のコンテストを目指すようけしかけた。平良は清居のことを強いと思ったかもしれないけど、そうじゃない。傷つくことに人より少し慣れているだけだ。

俳優なんて職業をしていたら、オーディションに落ちることなんて日常茶飯事。現に清居はこの間も意中の演出家から袖にされていた。清居は常に“選ばれない”コンプレックスと向き合いながら生きている。

それでも清居が屈しないのは、あの最初のコンテストを受けたとき、“選ばれなかった”自分に対し、平良だけが言ってくれたからだ、清居は俺にとっての一番だと。途端に掌返しするクラスメイトの中で、平良だけがあの狂気に近い信仰の目で変わらず見つめ続けてくれた。だから清居は自分を信じられた。

清居は王者なんかじゃない。“選ばれない”自分を常に選び続けてくれる平良がいるから、清居は王者でいられるのだ。

だからこそ、平良の存在が清居の弱点になる。平良の何気ない言葉にいちいち振り回され、傷つけられる。そんな不器用で繊細な清居と、自分がどれだけ清居に力を与えているかをまるでわかっていない鈍感な平良がいとおしすぎて、私たちは2人に夢中になってしまう。『美しい彼』について語りたくなってしまう。

だけど、どうか清居は安心してほしい。平良は清居のことを「わかりたくない」と言っていたけど、本当は全然そんなことない。

だって、清居のドラマ撮影を見学していたとき、他のファンたちはみんな清居がCM出演しているミルクココアを忠誠の証として持っていたけれど、平良だけはジンジャーエールを持っていた。平良はわかっているからだ、清居が好きなのはミルクココアではなくジンジャーエールだということを。

平良一成とは、石コロを自認しながら、そうやって無意識のうちにクソデカどマウントをとってくるような男なのだ。心の底では、清居のことを世界でいちばんわかっているのは自分でありたいと願っている。

そしてまた清居自身も平良のことをわかりきってなどいない。清居がいよいよ事務所の送迎車がつく身分になったことに対して、生粋のファンであるならば本来は喜ぶべきだった。だけど、平良はもう昔みたいに自転車を2人乗りして送ってあげられないことが寂しくて寂しくてしょうがなかった。そんな平良の胸の内を清居は知る由もない。

たとえ両想いになったとしても、お互いを完全にわかり合える日なんて来ない。むしろわかり合えないから恋は面白い。

思い通りにならない相手に反発すれば反発するほど、その身に食い込む茨の鎖のように、恋は胸を締めつける。その逃れられない苦しさこそが、恋する者たちの至上の媚薬なのだ。

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