『美しい彼』萩原利久“平良”と八木勇征“清居”が夢見る永遠

公開:
『美しい彼』萩原利久“平良”と八木勇征“清居”が夢見る永遠

幸せを広辞苑で引いたら、「ひらきよが一緒にいること」と書いてあっても、どうか岩波書店はそのまま見なかったふりをして許してほしい。

なぜなら間違いではないからだ。

それくらいドラマイズム『美しい彼』(シーズン2)(MBS、毎週火曜24:59~/TBS、毎週火曜25:28~)は幸せの無限供給タイムになっている。

シーズン1とはまた違う、優しい陽だまりのような世界

シーズン1の『美しい彼』は、支配と依存という、ある種の倒錯に似た、時に狂気すら帯びた世界が魅力だった。それは、これまで“優しい世界”で共感を巻き起こしてきた日本の実写BLドラマとはまったく毛色の違うもので、新たな地平を切り開いた。

その美しさで人を虜にしながらも、決して己の羽を休める花を見つけることのできなかった蝶と、人から蔑まれ続けながらも、安住の巣を張る優しい蜘蛛の物語。そんな平良一成(萩原利久)と清居奏(八木勇征)の関係に多くの人は夢中になった。

それがこのシーズン2ではどうだろう。シーズン1が宿していた残酷な潔癖さや眩い孤独は、まるで魔女の呪いが解けたように消えている。だからと言って、決して物語の強度は損なわれていない。

その代わりに、新たに天使が唱えたのは、不器用だけど一途で、がむしゃらゆえにいびつな愛の魔法。シーズン1の身を切るような気高い痛みとはまったく違う、優しい陽だまりに2人の世界は包まれていて。あの頃の、すべてを飲み込んでさらっていく大波の衝撃とはまた別の、穏やかな波のリズムにたゆたいながら、まるで夢を見るように平良と清居の世界に浸る。そんな悦びが、『美しい彼』(シーズン2)にはある。

水曜の朝、寝不足気味の人はほぼ『美しい彼』の住人です

今回は何と言っても、清居のつくった常夜鍋にすべてを持っていかれた。

エプロン姿も、日本酒をドバドバとブッこむ豪快さも、ほうれん草は洗わず根も丸ごと入れて、豚肉は丁寧に洗うトンチンカンっぷりも、すベてがいとおしい。清居がキャスティングされるべきは、舞台でもドラマでもなく、『愛のエプロン』だと思う。

平良が帰ってくるのが待ちきれなくてグルグルしている清居なんてシーズン1では考えられなかったし。あまりにミトンが似合いすぎて、このまま「すてきな奥さん」あたりの表紙を飾ってほしい。早く料理番組を持って、アサリの砂抜きとかエビのワタ取りとかに挑戦している姿を見せてほしい。

そして、そんな清居の決しておいしくはない料理を「神々の美酒の味だね」と崇める平良も含めてずっと見ていられるから、ディスカバリーチャンネルはそろそろ平良家に定点カメラを置いて、ただ2人の日常を流すだけの番組をつくったらいいと思う。そこそこのオタクが金を出します。

日本酒で酔っ払って、頬を真っ赤にして目を潤ませる清居の可愛さは、お姫様を超えて、もう赤ちゃん。こんなの深夜に流してどうする気だろう。睡眠時間を削らせる罠としか思えない。水曜の朝、寝不足気味の人がいたら、ほぼ『美しい彼』の住人だと見ていいと思う。

降りようとする清居と、上ろうとする平良に待つ未来

そんな致死量を遥かに上回る甘い毒薬を飲ませながら、きちんと平良と清居の心の揺れまで繊細に描いているところに、思わずひれ伏してしまう。

2人が望むものは、永遠だ。ただずっとこの人と一緒にいられたらいい。でも、永遠はありのままの自分じゃ掴めない。お互いが相手を思いやり、相手のために努力を重ね、もっと良い自分であろうとすることで、初めて永遠が生まれる。

清居が柄にもなく料理をつくったのも、生活の何もかもを平良に任せきっていることのバランスの悪さを小山和希(高野洸)に指摘されたからだった。

清居はずっと平良と恋人になりたかった。だけど、平良はいつまで経っても自分を恋人としては扱ってくれない。だから、自分からほんのちょっとでも恋人らしいことをすれば、平良も自分のことを恋人として見てくれるんじゃないかと思った。清居は神様でいたいわけじゃない。だから、清居の方から下界へ降りた。

一方、平良と言うと、清居が自分の世界に降りてくれるなんて発想は毛頭ない。そんなおこがましいこと、脳裏にかすめただけで、平良にとっては斬首刑だ。

じゃあ、どうすれば平良は清居といられるのか。答えは、平良の方から清居の世界へと上がっていくしかない。

自分を石コロだと思っている方がよっぽど楽だろう。石コロでいることに努力はいらない。平良と付き合いはじめて、どんどん変わっていく清居に対し、平良がほとんど変わらないのは、変わることを恐れているからだ。ずっと底辺にいた平良にとって変わることほど恐ろしいことはないのだろう。

それが、清居の言葉で変わろうとしはじめる。才能がないと評価されることが怖くて逃げ続けていたカメラの世界に本気で向き合おうとする。臆病な平良が初めて振り絞った勇気は、やっぱり清居のためだった。

変わらない永遠を手に入れるために、変わろうとする平良。誰も見向きもしなかった、清居だけが見つけた石コロが、今、原石として光を放とうとしている。

PICK UP