『silent』目黒蓮が体現する“初恋の最大公約数”

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『silent』目黒蓮が体現する“初恋の最大公約数”

優しい人ほど「ごめんね」と謝る。
優しい人ほど「大丈夫」と強がる。

青羽紬(川口春奈)の前に現れた佐倉想(目黒蓮)。8年ぶりに会った大好きだった人は聴力を失っていた。でも、逆に言うと、それ以外は何も変わっていなかった。

目尻を柔らかく垂らし、泣きそうな顔をして、笑う。とても優しい人だった。

光に溶けるような目黒蓮の儚さが、作品の純度を底上げする

silent』(フジテレビ系、毎週木曜22:00~)第2話は、10代の想と、26歳の想がリフレインするように描かれていた。「数字聞くと頭痛くなっちゃう」とこめかみに手を添える紬を見て笑う想。音声入力アプリの前でテンパる紬を見て笑う想。想は笑うと、目頭の周りにシワができる。それが、とても想らしくて。そうだ、こんなふうに笑う人だったと、まだ出会って1週間なのに、8年前からずっと知っているような懐かしさがこみ上げる。

自分の耳の病気を知った想は、そのことを紬に伝えようとする。謝る必要なんてないのに、何度も何度も「ごめんね」と。すぐに帰らなくちゃいけないことを、急に名前を呼んでほしいなんてお願いしたことを。本当は他に謝らなくちゃいけないことがあるのに、それが言えないから、言えない本音を穴埋めするみたいに「ごめんね」と繰り返す想が、苦しくて苦しくて仕方なかった。

そして、8年の時が過ぎ、紬に再会した想は、どうして8年前、突然姿を消したのか、その理由を説明する。「好きな人ができた」。そう言って別れようとしたことに紬がふれると、想は首を振って、あの日、送った言葉を正確に再現する。

「好きな人がいる。別れたい」

あの言葉は、他に誰か好きな人ができたという意味じゃない。好きなのは、ずっと紬だけ。でも、好きだから別れたい。という想の愛がつまった、嘘のない言葉だった。

それを明かす目黒蓮の眼差しが、窓から降り注ぐ光みたいに柔らかくて、息が止まりそうになった。「いる?」と確認する紬に、想は紬を指差す。あれはあくまで念押しの説明なんだけど、「いる」という現在進行形の言葉のせいか、今もまだ紬が好きです、という想の告白に見えてしまった。

あのそっけないLINEに込めた想の本心を知り泣き出す紬。つられたように涙を流しながら、「泣くと思ったから」と紬を元気づけるように一生懸命笑顔をつくる想。その泣き笑いの表情が、今にも光に溶けて消えてしまいそうで、胸が痛む。目黒蓮はとても自然に涙を流す。自分でも泣いていることに気づかなかったような涙が、観る者の心を浄化させる。

彼氏に今度会ってよと言われ、想は「え〜」と面倒くさそうに笑った。それは、今までよりずっと砕けた笑い方で、今、紬が幸せであることをうれしく思う気持ちの中に、ほんの少し、ほんの少しだけ、隣にいるのが自分ではないことに傷ついているようにも見えた。ちゃんと8年分前に進んでいることを、紬が遠くなってしまったことを自覚した痛みを感じた。それがせつない。

目黒蓮の演じる想は、なんだかとても儚い。それが初恋の儚さによく似ていて、だから観る人は胸をかきむしられるのだろう。記憶のとても柔らかい場所で、水彩画みたいに、淡く微笑んでいる。その佇まいが“初恋の最大公約数”のようで、気づいたらみんな溺れてしまうのだ、目黒蓮が体現する佐倉想という人物像に。

このシーンの他にも、ブランコのシーンでは喉仏がまるで心臓みたいに脈打っていて、喉元を見ているだけで想の気持ちが伝わってきたし、いつもよりずっとボリュームを上げて聴く「魔法のコトバ」に震える瞼と、不安を打ち消すように瞑った目に、想の胸の内が垣間見えた。GP帯連ドラ初出演の目黒蓮が、その繊細な表現力で作品の純度を底上げしている。

国語辞典の「不憫」の項目に「戸川湊斗」と書き足しても問題ない

一方、もう1人、強い共感力で物語を牽引するのが、鈴鹿央士演じる戸川湊斗だ。

電話口の声だけで紬の動揺に気づき、「パンダ 落ちる」で検索してと寄り添う気配りのセンスも、「コーヒーとココア、どっちがいい?」と言いながらちゃんとコーンポタージュスープまで用意している先読み能力の高さも、もはや人間ができ過ぎていて一抹の恐怖を感じるレベル。湊斗が万能であればあるほど、絶対湊斗が報われないことがわかるし、紬と想が2人で会っているときも、心のどこかで湊斗がチラついてしまい、「湊斗、不憫……」ってなる。次の改定のときに、三省堂は国語辞典の「不憫」の項目に「戸川湊斗」と書き足しても問題ないと思う。

紬の言葉を信じると、あくまで元同級生として想に会っているだけで、気持ちは湊斗にあるらしい。だけど、わざわざ想に会うために新品のスカートをおろすあたり、女心が出まくっているわけで、紬の言い分を額面通りに受け取るのはちょっと難しい。

しかもそんな紬に、湊斗は手話教室まで紹介する。わざと紬と想の距離を縮めるようなことをする。あれは、半分は紬を試したんだと思う。自分が背中を押したら、紬はどこまで想のもとに向かうのか。そして、予想通り紬は手話を覚え、想に会いに行った。湊斗の先読み通りだ。コーンポタージュスープも、セットのご飯も、湊斗にはお見通し。先読みの天才なのだ、湊斗は。そして、それだけ先が読めるからもうわかっている、2人が出会ったらどうなるかを。

自分で脇役だとわかっているのに、代役でロミオを演じさせたられたような居心地の悪さと気恥ずかしさのようなものを湊斗に感じてしまって、つい胸が苦しくなる。想が初恋の最大公約数なら、湊斗はモブの代表格だ。失恋パンデミックの被害者。おびただしい感染者数のわずか1人に過ぎない。居心地はいいけど、相手役を演じるにはちょっと物足りない。それを自分がいちばんよくわかっている。

そして、紬に手話教室に行かせたもう半分の理由は、想が親友だからだ。湊斗は、紬の恋人であると同時に、想の親友でもある。これがまったく知らない相手なら、もう少し勝手になれたかもしれない。でも、想のことも好きだから想を孤独にはしたくないし、本来想が甘受すべきだった幸せを自分が不当に掠め取っているような気持ちにもなる。だから、紬をあえて後押しするようなことをする。

湊斗は、紬と想が一緒にいるのを目撃してしまった。予測通りに進む未来に、湊斗はどう動くのか。どうか湊斗を変に悪者にだけはしないでほしい。紬と想の幸せな未来を願うのと同じくらい、湊斗くんの幸せを強く願いはじめている。

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