『初恋の悪魔』林遣都が演じた「変わり者」の孤独と拒絶

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『初恋の悪魔』林遣都が演じた「変わり者」の孤独と拒絶

孤独な人は、必ずしもひとりであることを望んでいるわけではない。もちろんひとりが好きな人もいる。だけど、中には本当は誰かといたいのに、誰かから愛されたいのに、拒絶されることが怖くて、傷つくことを恐れて、自分から他人を遠ざける人もいる。巣にこもるようにひとりを選ぶ人もいる。

変わり者に見えた鹿浜鈴之介(林遣都)もまた、人を恋しく思う寂しがり屋なのかもしれない。

三和土が物語る、鹿浜の胸の内

「君は人から『気持ち悪い』と言われたことはないだろ」
「目の前にいる人が今にも『あなた、変だよ。なんか気持ち悪い』。そう言い出すんじゃないかと思って、存在を消してしまいたくなる人がいるんだよ」

鹿浜のその言葉に胸を突き刺されたような気持ちになった人が、きっとたくさんいたんじゃないだろうか。気持ち悪い。それは、とても簡潔に、とても正確に、人の心を殺す言葉だ。きっと鹿浜も小さい頃からそう眉をひそめられてきたのだろう。オクラホマミキサーを一緒に踊ったときも、手紙をもらったときも熱が出た。馬淵悠日(仲野太賀)はそれを恋煩いだと診断した。でもそれは半分当たっていて、半分違う気がする。

きっと鹿浜は想像してしまったんだと思う。自分が「気持ち悪い」と言われている姿を。オクラホマミキサーを一緒に踊った島村春菜さんは、鹿浜とふれた手をあとで友人たちとまるでバイ菌のようになすりつけ合っていたかもしれない。手紙をくれた和田美琴さんは鹿浜の長すぎる返事を読んで顔色を変えるかもしれない。その姿がありありと浮かぶから熱が出たし、オクラホマミキサーを楽しめず、返事も出せなかった。あの時が止まったような洋館に鹿浜を閉じ込めたのは、これまで何度も浴びてきた「気持ち悪い」という周囲の目だった。

でも鹿浜は本当にそんなに「気持ち悪い」人間なのだろうか。確かに変わっているかもしれない。でもそれは好きなものが、他の人たちとちょっと違っただけ。好きなものに対する執念が、他の人たちよりちょっと強かっただけだ。

客人が訪ねてきたらちゃんとお茶を出そうとするし、悠日が摘木星砂(松岡茉優)に想いを寄せていることを、本人が気づくより先に気づいた。とても優しいし、よく人を見ている。今回、鹿浜家の三和土(たたき)が何度か映し出されていたけど、あれは鹿浜の胸の内だ。4人の靴が転がっている三和土はゴチャゴチャとしている。いかにも神経質らしい鹿浜の家には不似合いかもしれない。でも、人の温かさがあった。靴から、話し声が聞こえてくるような賑やかさがあった。

悠日と摘木を追い返したあと、自分のサンダルだけが取り残されたようにぽつんと置いてある三和土を、鹿浜は見ていた。言葉は何もなかったけれど、とても寂しそうな背中だった。

もしもこれまで浴びてきた偏見の目や悪意の言葉が見えない鉄球となって鹿浜にのしかかっているなら、その足枷をどうか外してあげたい。「気持ち悪い」と思う人は確かにいるかもしれない。そちらの方が大多数なのかもしれない。でも、あなたを「面白い」と思う人もいるんだと、そう教えてあげたい。

そして、その存在になりつつあるのが、悠日だった。「普通派」の悠日からしたら「変わり者派」の鹿浜は羨ましくて仕方ない存在だ。

「だって、超面白いもん、鹿浜さんは!」

酒に任せて吐き出した悠日の言葉には愛があった。それぞれ真逆のコンプレックスを抱える鹿浜と悠日がここからさらにどう関係を深めていくのか。そのストーリーを見たいと思わせる回だったし、林遣都の良さが大きく活きた回だった。これまでどちらかというと飛び道具的なキャラクターの強さで視聴者を沸かせてきたけど、今回は本領である繊細な表現に大いに唸らされた。

万引き事件の顛末を悠日から聞かされているときの鹿浜はまるで初回に戻ったかのように頑なだった。鹿浜にとって己の美学を語ることは、ある種の防御なのかもしれない。そうやって砦をつくることで、他人を寄せつけないようにする。でも、悠日たちと過ごす時間の楽しさを知った分、もう完全に元には戻れなくて。その悲しい決意を、努めて冷然に振る舞う様子で視聴者に伝える。他の作品でもよく見られる、台詞に書かれていない感情を語る、林遣都らしい演技だった。

摘木の負ったあの傷は、朝陽の拳銃によるものか

一方、松岡茉優も実力派の肩書きを演技で証明した。声質、話すスピード、目線、走り方、あらゆる要素を素材にして人格の入れ替わりを表す技術力は、リアリティはもちろんのこと、エンターテインメントとしても圧巻だった。

これで摘木が二重人格であることはほぼ間違いない。摘木が被弾して負傷したのは、掛けられたカレンダーから見て2019年の7月か8月。馬淵朝陽(毎熊克哉)の銃弾を紛失したのは2019年7月10日だ。時期的に符号することから見て、摘木が負ったあの傷は朝陽の拳銃によるものと見ていいだろう。ただし、誰が撃ったのかは今のところ不明。この消えた銃弾が朝陽の死にどう関わっているのか。摘木はなぜ朝陽のスマホを所有しているのか。摘木の二重人格が明らかになったとき、現場に雪松鳴人(伊藤英明)がいた。雪松は摘木のことを監視していたのだろうか。この絡み合ったいくつもの謎が解き明かされる日が今から待ち遠しくて仕方ない。

とりあえず本人以上に雄弁に恋心を語る冷えピタには大いに笑わせてもらったし、スーパーからクレームを受けた摘木を励ますように、悠日と小鳥琉夏(柄本佑)が3つ目の目のポーズをして自宅捜査会議を呼びかける場面は、不覚にもグッと来るものがあった。今後もコメディとシリアスの絶妙なバランスを大事に進めていってほしい。

ちなみに、今回スーパーの事務所にルービックキューブが置かれていた。1話でも松本大希(高橋來)がルービックキューブで遊んでいた。2話ではルービックキューブは見つけられなかったのだが、実はどこかにこっそり登場していたのだろうか。そんなスタッフの遊び心にも注目していきたい。

(文:横川良明)

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