ギアが入った『初恋の悪魔』はもう誰にも止められない

公開: 更新:
ギアが入った『初恋の悪魔』はもう誰にも止められない

連ドラには、ギアが入る回がある。『初恋の悪魔』にとって、第2話はまさしくそれだった。

にじみ出る4人の愛らしさと人間らしさ

凶悪犯罪愛好家の鹿浜鈴之介(林遣都)に人が良すぎる馬淵悠日(仲野太賀)、粗暴な摘木星砂(松岡茉優)にコミュニケーションが異常に苦手な小鳥琉夏(柄本佑)。第1話ではキャラが濃すぎてやや渋滞感のあった4人だが、第2話にしてがらりと見やすくなっている。

その理由はキャラクター間で双方向の矢印が生まれたこと。そして、各キャラクターに愛らしさや人間らしさが出てきたことが大きい。

もっともわかりやすい例で言えば、鹿浜と悠日だろう。第1話では、変人の鹿浜に悠日が振り回されるという一方的な矢印だった。だが、悠日に婚約者がいることを知り、その関係は一変。恋愛面においては悠日が優位に立ち、手綱を握る。双方に矢印ができたことによって、2人の会話もよりコミカルに。

初めて手をつないだエピソードにニンマリし、カラオケボックスで初キッスを交わしたと知るや思わず咳き込む鹿浜は、凶悪犯罪愛好家というより中学1年生。完全に悠日に翻弄されている。かと思えば、「つまり、恋愛は病院のごはんのようなものか」という鹿浜の独自すぎる恋愛観に、わけのわからない顔をする悠日と、輪をかけてわけのわからない顔になっている鹿浜が見つめ合うくだりは、思わず吹き出すしかない面白さだった。

こうやって両者がシーソーゲームみたいに攻守を交代し合うから会話劇は面白い。じゃんけんのような4人のパワーバランスも確立してきたので、自宅捜査会議の空気感もより軽快になった。ここからは演技巧者たちのやりとりを安心して楽しむことができるだろう。

キャラクターの愛らしさと人間らしさという面でも鹿浜が光っていた。みんなにハサミ愛をプレゼンするときのニタニタ顔もさることながら、摘木の椅子だけ上等なものにしたり、自分と摘木のカップだけペアにしたり、露骨に摘木を贔屓しているさまがなんとも愛らしい。この役は当て書きだと聞いているが、だとしたら坂元裕二は林遣都のことをどう見ているのだろう。見た目は二枚目なのに、挙動不審の恋愛初心者が似合いすぎていて、その化けっぷりに惚れ惚れする。

鹿浜にとって摘木は初恋。けれど摘木は悪魔かもしれない。凶悪犯罪愛好家の鹿浜が悪魔に恋をしたら……。まだどこにもないラブストーリーの予感さえ漂う。

坂元裕二×仲野太賀がもたらす、むせび泣きの名場面

一方、鹿浜と犬猿の仲である小鳥の愛らしさや人間らしさも際立ってきた。特に目尻が垂れそうになったのは、悠日との場面。悠日にそっけなくあしらわれ、「ついに僕の友達が地球上から消滅した」「僕、何かした? 面倒くさいってこと以外に何かした?」と迫るところは、自分で面倒くさいことは自覚済みなんだと笑ってしまったし、悠日が幸せになれそうにもない結婚に突き進もうとしていることを知り、その本心を問うくだりは、不器用だけど友達思いの性格が伝わってきて、これまた小学生じみた笑えるやりとりなのに、不意に瞼が熱くなってしまった。

ここに出てくる人たちは、みんな世間からはみ出している連中かもしれないけど、はみ出し者なりに愛も優しさも持っている。そこがたまらなくいとおしい。4人のキャラクターに萌える展開もこれからは楽しめそうだ。

そして何より第2話のレベルをぐっと引き上げてくれたのは、仲野太賀と松岡茉優だろう。兄・朝陽(毎熊克哉)が死ぬ前日、自分はわざと電話に出なかった。その負い目をずっと悠日は抱えていた。両親が溺愛しているのは、自分ではなく兄。いっそ自分が代わりに……と思ったことだって一度や二度ではなかったはずだ。

そんな胸の内を初めて摘木の前で吐き出せた。

「ほしいものを手に入れた人と、手に入らなかった人がいて。いちばんほしいものが手に入らなかった人はもう他に何もほしくなくなってしまう」
「警察なんかどうだっていいんだよ。ラーメンぐらい伸びたっていいんだよ。話したいことがあるときは」

この2つの台詞は、まさに坂元の真骨頂。そこから、あの日出られなかった電話に悠日を出させてやるくだりまで含めて、失ったもの、過ぎ去ったもの、誤ったもの、もう取り返せないものへの坂元の愛が溢れていて、2話にしてこんなに泣かされるとは思っていなかったというくらい泣かされてしまった。

そして、そんな名場面に応える仲野と松岡の技量にも唸らされる。特に仲野の泣き芝居はもはや絶品。兄弟2人で家出したときの思い出話を語るときの泣き笑いは、直接心臓を鷲掴みされたような芝居の握力があった。バックで光るライトの眩しさも含めて、まるで自宅のリビングではなく、劇場で、生で、彼の芝居を目の当たりにしているような没入感を味わわせてくれた。

波風を立てたくない悠日は、それがいかに非効率なやり方だとわかっていても、長年のやり方だと言われたら大人しく従っていた。でも最後に「今日からはこうします」と自分の主張を貫いた。ならば、望んでもいないオープンマリッジに、悠日はどう向き合うのか。『初恋の悪魔』は「僕たちが隅にいるから真ん中に立てる人がいるんです」と自分を納得させていた悠日が、自分を大切にしてあげられるようになるまでの物語なのかもしれない。

ちなみに、悠日の両親を“たかいたかーい”した雪松(伊藤英明)だけど、あれは悠日の尊厳を無視している両親に対して、ならばあなたたちの尊厳も踏みにじってあげましょうという雪松なりの報復だろう。何かと「軽んじられている?」と思うことが多い現代社会。もし自分の人格を虐げてくる人に出くわしたら、心の雪松に思い切り“たかいたかーい”してもらおう。それが、この『初恋の悪魔』第2話で学べるライフハックだ。

(文:横川良明)

PICK UP